なぜ地方税の納付書は紙のままなのか?進まないeLTAXの電子納税

eltaxのロゴ

eLTAXの機能改善が進まず、地方税の納税はいまだに紙の納付書が当たり前の現状を説明します。「なんで税理士は、地方税だけ紙の納付書を渡してくるのか?」という、社長の質問への回答も兼ねています。(トップイメージはeLTAXより引用)

説明のポイント

  • 紙の納付書を使用し続けるのは、地方公共団体が電子納税に対応していない場合が多いため
  • 国税の「ダイレクト納付」のような即時納税システムがないので使いにくい
  • eLTAXの機能改善がいっこうに期待できない
スポンサーリンク

 

eLTAX(エルタックス)とは?

まず、税務の電子申告の基本からご説明します。税務における電子申告の提出先は、

  • 国税庁の「e-tax」(イータックス)
  • 地方公共団体の「eLTAX」(エルタックス)

の2つに分かれています。国と地方では「縄張り」が分かれており、別々のシステムが構築されています。

国の運営するe-taxは、耳にしたことがある人も多いでしょう。これに比べるとeLTAXはマイナーです。

個人の場合、確定申告をe-taxで手続きすると、同時に地方税(住民税)の手続きも済んでしまいます。eLTAXへの申告は不要です。これに比べて、法人の場合は、確定申告書をいくつか作成し、e-taxとeLTAXに別々に手続きします。

このため、eLTAXを知っているのは法人の税務に関わる人だけ、という状況になっています。

利便性の劣るeLTAX

このeLTAXですが、利便性が著しく劣ることが問題視されていました。

例えば、eLTAXの利用を新しく開始したい場合、インストールされているJavaのバージョンを昔のものに一度戻してから登録するという無茶な要求が続いていました。

このJavaのインストール・アンインストールがうまくいかず、歯ぎしりする思いを抱えた会計事務所の関係者は山のようにいるでしょう。

今年(2016年)3月、Javaを利用しない仕様にようやく改善されたと思ったら、新しく採用された技術はあまり評判のよくないActiveXでした。

この変更は、技術に詳しい方を中心に厳しい批判が寄せられています。

eLTAXのレベルの低さは、この部分で顕著に現れています。e-taxと異なり、多くの国民の目にさらされないeLTAXの利用状況が、甘えにつながっているのかもしれません。

税理士から寄せられる切実な要望

税務の現場でもeLTAXの不便さが問題視されています。

日本税理士会連合会は、eLTAXに対して改善を要望しています。その要望の文章は淡々としたものですが、将来的にはe-taxとの統合を望むという要求をしています。

統合による事務効率化の意味もありますが、裏読みすればeLTAXの能力不足による「退場要求」と見ることもできます。

参考電子申告に関する要望事項(日本税理士会連合会)

また、私の以前の記事では、市区町村に提出する給与支払報告書は、いまだにその多くが紙ベースになっている事例をお伝えしました。

給与ソフトメーカーとeLTAXの連携が進まないと、これらの問題も解決しないと考えています。

多くの給与計算ソフトが電子申告(eLTAX)に対応していないため、給与支払報告書を郵送する事...

地方税の納税は、いまだにそのほとんどが紙の納付書

ようやく本題です。eLTAXの機能改善が進んでいないことから、地方税では電子納税がまったく進まない現状があります。

これは、納付実績を見れば一目瞭然です。27年度の電子納税の実績は、24,810件にすぎません。e-taxの439万件と比べると、その差は歴然です。

下記の表は、e-taxとeLTAXの利用実績を抜粋したものです。

納付実績は、個人分も含むすべての件数しかわかりませんでしたが、これを見ても地方税の納付手続きの数の少なさは際立っています。

e-taxとeLTAXの利用件数の推移

電子納税の方法が不便

国税庁(e-tax)は、「ダイレクト納付」という電子納税システムを提供しています。

この「ダイレクト納付」を利用すれば、電子申告と同時に電子納税も即座に済ませることができます。(電子申告の納税額をもとに、ボタン操作で銀行口座から納税が完了する)

ところが、eLTAXには「ダイレクト納付」のようなシステムがありません。もっとひどいのは、電子納税に対応する地方公共団体はわずかに22カ所にとどまっていることでしょう(情報リンク方式の場合。記事投稿時)。

下記は、対応する地方公共団体の一覧表です。千葉県、福岡県のほか、多くの県庁所在地が未対応になっています。

eLTAXの電子納税に対応する地方公共団体の一覧

また、仮に電子納税に対応できる地方公共団体に電子申告をしても、その後の電子納税の手続きは複雑です。

税理士または納税者は、申告が終わった後、eLTAXのポータルにアクセスして納付情報を取得します。

その後、納税者はインターネットバンキングを利用して、納付情報をもとにペイジーで納付します。申告後にボタン操作で納税できた国税(e-tax)に比べると、とても不便です。

参考:eLTAXトップ>電子納税

eLTAXの電子納税の手順

「なぜ税理士は地方税の納付書だけ紙で渡してくるのか?」

結論です。「なぜ税理士は地方税の納付書だけ紙で渡してくるのか?」という社長の質問の答えは、

  • 電子納税に対応する地方公共団体は、わずかに22カ所だけだから
  • 国税(e-tax)の「ダイレクト納付」のような、簡単な納税システムが存在しないので、いままでどおり紙の納付書の処理を続けざるを得ない
  • eLTAXの機能改善がいっこうに進まない

という回答になります。

まとめ

電子納税の機能改善が進まず、地方税だけ紙の納付書で処理されている現状をお伝えしました。

「eLTAXの機能が改善すれば、もっと税務業務も楽になるはずなのに……」と感じることは多いです。

今年(2016年)3月のActiveXへの仕様変更については、技術者からの厳しい批判が見られました。技術者まかせではなく、税務の現場からもeLTAXの問題点を指摘する必要があるでしょう。

追記

2017年6月に総務省が発表した内容によると、全国の地方自治体が共同して収納を実施するシステムを構築予定とされており、2019年10月開始予定とされています。

このシステムの開始により、ここで記述した地方税における電子納税のボトルネックは解消される見込みです。以下の記事で、その点をお伝えしています。

財務省・総務省がそれぞれ2017年6月に発表した『行政手続コスト削減のため基本計画』から、ここ数年で...
政府税制調査会の第12回(2017年10月16日)から、興味深い資料をまとめておきます。 ...

スポンサーリンク