国税庁は2025年9月、個人のe-Taxの利用方法のひとつである「ID・パスワード方式」について、10月1日から新規発行を停止すると発表しました。(参考:国税庁「ID・パスワードの新規発行停止について」2025年9月)
ID・パスワード方式がひとつの区切りを迎えたとのことで、その経緯を振り返ってみます。雑感記事です。
マイナンバーカード方式の補完として
個人が確定申告をする場合には、書面のほか、e-Taxでも申告できます。e-Taxを利用する場合は、マイナンバーカードに搭載された電子証明書を用いることができます。
以前は住民基本台帳カードを利用していましたが、2016年からのマイナンバー制度の開始とともに、マイナンバーカードを利用することになりました。
しかし、マイナンバーカードの取得は強制でないため、その普及に時間がかかることを想定して、国税庁は「ID・パスワード方式」を2019年1月から開始しました。
個人向けのe-Taxの認証方法としては、「マイナンバーカード方式」と「ID・パスワード方式」という、2つの方式が併存しています。
ID・パスワード方式については、まるでこれが”新方式”のように錯覚される見出しの報道も当初あったのですが、この「ID・パスワード方式」はあくまでマイナンバーカードが普及するまでの暫定的な制度でした。
このほか、過去記事でも検証していましたが、「ID・パスワード方式」はe-Taxの普及にあたり、暫定的な方式として貢献したものと見てよいでしょう。
近年は利用者が減少傾向に
2025年5月の国税庁の発表によると、「申告人員の約 4 人に3人は e-Tax で申告」とされています。
令和6年分の申告においては、申告人員2,339万人のうち、ID・パスワード方式の利用者は144万人でした。利用割合としては6%程度です。
国税庁発表の資料から、図を抜粋したものを載せておきます。
引用:国税庁「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(報道発表資料) 」(2025年5月)をもとに筆者加工
この図をみるとわかりますが、ID・パスワード方式の利用者は減少傾向にあります。令和2年分(2020年分)では、マイナンバーカード方式よりもID・パスワード方式のほうが利用者が多かったものが、令和3年分(2021年分)で逆転しました。
マイナンバーカード方式の利用者が増えたことにともない、ID・パスワード方式は、徐々にその役割を終えつつあることがわかります。新規発行の停止は、妥当な判断と思われます。
2017年7月の日経新聞の報道では、「3年程度の暫定措置として実施する」ということでしたが、2019年の開始からすでに6年が経過しています。
不正利用も影響したか
当ブログでも紹介しましたが、e-Taxを利用して所得税の不正還付を受ける事件があり、そのe-Taxの申告に「ID・パスワード方式」が利用されたという報道がありました。
自分の利用者IDを他人に差し出すという行為は、想定を超えていた事態と思われます。この点も、ID・パスワード方式の新規発行停止の判断に影響した可能性があります。
今後は
国税庁の発表にもあるとおり、既存のID・パスワード方式はそのまま利用することができます。今回発表されたのは、2025年10月1日から新規発行が停止されるというものです。
既に「ID・パスワード方式」の届出をされている方は、引き続き「ID・パスワード方式」をご利用いただけます。なお、今後の「ID・パスワード方式」に関する対応については、改めてご案内することを予定しています。
個人的に少し気になっているのは、確定申告期の相談会場に関する取扱いです。この会場でe-Taxで申告した納税者には、ID・パスワードが発行されていたものと思われます。この点がどうなるのか気になるところです。
マイナンバー制度の開始から10年近くになりますが、ようやくマイナンバーカードが普及し、e-Taxでもマイナンバーカード方式の利用が増えつつあります。
マイナンバー制度の開始時は、「税金の無駄だ」「情報が流出したら責任が取れるのか」などと批判していた人もいましたが、そのような声はいつの間にか聞こえなくなりました。
ID・パスワード方式の新規発行停止も、マイナンバーカードが普及した結果による後処理のひとつといえるでしょう。
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