電子納税が普及しない理由「金融機関に行って振込と同時に納付するため」は本当か

当ブログは、経理効率化の観点から、電子納税に注目しています。しかし、電子納税の普及率はいまだに低いとされています。その原因を財務省がどう考えているのか、見解を紹介します。

説明のポイント

  • 電子納税の普及率は10%程度
  • 普及しない原因について、金融機関に振込に行くと同時に納付していることが一因という財務省の見解
  • ネットバンキング利用率と著しいギャップがあり、当ブログではその理由を疑問視している
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経理が外出せざるを得ないわけ

新型コロナウイルスの影響によって、できるだけ外出を避ける、テレワークが推奨されています。

緊急事態宣言の解除後においても、厚生労働省の発表する「新しい生活様式」への対応や、第二波・第三波の到来の可能性を考えれば、今後もテレワークを推進する重要性に変わりはありません。

ところが、経理担当者がテレワークに対応できず、外出しなければならない原因のひとつに、金融機関の窓口に行って振込をせざるを得ない、という状況があるようです。

前回の記事で紹介した調査ですが、マネーフォワードグループ「MF KESSAI」の経理財務部門を対象としたテレワークに関する調査(2020年4月)によると、出社が必要とされる理由のうち「取引先への振り込み」が原因という回答は44%とされています。

紙の請求書が送られてくるために出社せざるを得ないのか、それとも、社内からでしかオンラインバンキングを処理できないためなのか、その理由は不明です。

振込には、税金・保険料の納付も含まれる

この点については、税務も無関係とはいえないでしょう。

経理が必要とする振込には、税金や社会保険料の納付も含まれるからです。

もちろん、国税庁FAQで示されているとおり、新型コロナウイルスによる影響を受けている場合、納付期限も延長可能です。

源泉所得税については、摘要欄に「新型コロナウイルスによる納付期限延長申請」と記入することで、延長が認められます。つまり、納付期限にしばられる必要はありません。

しかし、紙ベースが前提の経理では、期限を延長したところで、いずれは納税のために金融機関の窓口に行かざるを得ません。

これに比べ、テレワークに対応できており、e-Taxも利用できている会社であれば、納付のために外出する必要はありません。

経理の効率化よりも、「密集を避けたい」「外出を避けたい」という、かつて予想もしなかった理由から、電子納税も導入が必要になっているといえます。

納税の75%は、納付書持参・窓口対応

しかし、電子納税の利用率はかんばしくありません。

財務省の発表によると、最新の状況における電子納税の普及率は11%程度とされています。

これに、個人事業主だけが利用できる振替納税14%程度を合計しても、効率的な納税といえるのはおよそ25%です。(参考「納税実務等を巡る近年の環境変化への対応について」2019年)

つまり、75%の納税は、窓口で行われているといえます。

電子納税が普及しない理由(財務省の見解)

ここで重要な視点となるのが、「どうして電子納税は普及しないのか?」という問題です。

この点については、かねてから様々な分析がありました。

以前からよくいわれてきた理由は、「従業員から徴収した個人住民税が、電子納税に対応していないため」というものです。

しかし、2019年10月に地方税共通納税システムが導入されたことにより、この点は大きな妨げとはいえなくなりました。

妨げがなくなったとしても、すぐに電子納税が爆発的に利用されるとは思えませんが、それにしても利用率の上昇は、ゆっくりです。

では、別の要因があるのでしょうか? この点の疑問に答える資料が、財務省から出ていました。

規制改革推進会議「デジタルガバメント ワーキング・グループ」(2020年1月)における財務省の回答資料を引用します。

電子納税の利用率は増加してきているものの11.0%にとどまっており、金融機関窓口での納付が納付手段の大宗を占めている。これは取引先への支払等のために金融機関に出向いた際に国税の納付も併せて行うといったことが要因の1つと考えている。

財務省の見方としては、振込手段がATM・窓口なので、納税もそれにつられて窓口納付になっているという分析です。

ネットバンキング利用率は50~60%、電子納税の利用率は10%程度

しかし、本当にそうなのでしょうか?

当ブログで以前に紹介しましたが、中小企業のネットバンキング利用率は、50%~60%台(2012年)という調査結果があります。

前回の記事に引き続き、ネットバンキングの利用率について言及のある資料を紹介します。少し古い資料なので...

ネットバンキングを利用すれば、金融機関のATMや窓口に行く必要性は低くなります。そうなると、逆に違和感を覚えるのが、電子納税の利用率が10%という割合です。

50~60%の中小企業でネットバンキングが利用されているのに、電子納税の利用率が10%というのは、どうやっても説明がつかない「極端なまでの差」があるといえます。

そう考えると、財務省の見解だけでは不十分ではないか、というのが筆者の考えです。

まとめ

経理効率化の観点から、電子納税を推進するうえでは、その原因を分析する必要があります。

電子納税については、2013年度の利用率は4.3%でしたが、2018年度の利用率は8.9%とされており、利用率は年々高まっていますが、充分とはいいがたい状況です。

財務省の見解では、電子納税が普及しない理由として、「金融機関を訪れて振込をするの同時に、納付もしていることが一因」ということを挙げました。

しかし、中小企業のネットバンキングの利用率が50~60%という調査結果(2012年)があるにも関わらず、電子納税の利用率が10%程度というのは、いかにも奇妙です。

外出不要でネットバンキングを振込を済ませたならば、納税もネット(e-Tax+ネットバンキング)で済ませたいと考えるのは自然な道理です。

そうなると、電子納税が普及しないのは、これ以外にも要因があるのではないか? という疑問が浮かび上がります。

この点については、近いうちに筆者の仮説をこのブログで提示したいと考えています。

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