会計事務所が管理している電子申告IDは、契約解消時に伝達が必要

前回の記事で、電子納税のネックとなっている一因に、会計事務所が電子申告のIDを独占管理しているためという仮説を挙げました。

この補足として、会計事務所の電子申告IDの管理と対応について整理します。

説明のポイント

  • 顧問契約が解消された場合、会計事務所が代理で管理している電子申告のIDと暗証番号は、相手先の会社に伝達(返還)する必要がある
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会社の電子申告IDは、会社のもの

この記事で指摘したいのは、会社の電子申告のIDと暗証番号は、会社のものであるということです。

なお、ここでいうIDとは、e-TaxとeLTAXのものをいいます。e-TaxにおけるIDは、利用者識別番号と呼ばれています。

会計事務所が代理でIDを取得した場合でも、これが会社のものであることに変わりはありません。そもそも、IDを代理取得する場合は、会計事務所と会社のあいだでは、事前に代理利用の同意書を締結しているはずです。

このため、もし顧問先とのあいだで契約が解消された場合、会計事務所は速やかに電子申告IDを会社に通知し、返還する必要があります。

日税連「税理士のための電子申告Q&A」

日本税理士会連合会が提供する「税理士のための電子申告Q&A」によれば、関与する税理士が交代する場合の手続きについて、次のとおり書かれています。

旧税理士は、関与解消後に、メッセージボックスの転送設定に係る委任関係の登録を解除し、納税者の合意のもとに保管している利用者識別番号等を納税者に確実に引き渡し、暗証番号の変更と利用者情報に登録されている旧税理士のメールアドレスの抹消を指導してください。

税理士会において定められた規則ではありませんが、電子申告にまつわる業務ルールといえるでしょう。

どんなトラブルが起こりうるか?

東京税理士会の会報「東京税理士界」(2017年10月)では、税理士の交代によるIDの引継ぎがうまくいかない場合のトラブル事例を掲載しています。

これによると、以前の税理士がIDを引き継ぎを行わず、また、後任の税理士がIDの存在を確認せずに新規取得した結果、以前のIDとこれにひも付く電子申告の履歴が消えてしまった事例が挙げられています。

なぜ利用者識別番号は返還されづらいのか

筆者の経験上、他事務所から引き継いだお客様で、電子申告のIDと暗証番号が事前に知らされていたことはほとんどありません。

会計事務所がいったん電子申告IDを代理取得すると、これを代理で管理している感覚を失いやすいようにも思われます。

IDを会計事務所が独占管理している状況が、会社単独での税務である「電子納税」につながりづらい一因となっているのではという推測は、前回の記事でも説明したとおりです。

帳簿は返却するが、IDは?

少し話は変わりますが、もし契約の解消時に預かっていた帳簿等があった場合、会計事務所はお客様に返却する必要があります。

 

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常識としては当たり前の話ですが、この根拠がどこにあるか気になったので調べてみると、東京税理士会の「綱紀規則」に

第10条
3 会員は、業務委嘱契約を解除したときは、やむを得ない事由による場合を除き、すみやかに委嘱者に帰属する帳簿等を返還しなければならない

と書かれていました。

日税連の示す「綱紀規則」のひな型を見てもこの点が盛り込まれているため、東京以外の税理士会でも、帳簿等を返還することが「綱紀規則」に書かれているものと推測します。

この点について書いたのは、電子申告のIDも、この「委嘱者に帰属する帳簿等」に含まれるのではないか? ということです。

会社のものを預かっているということであれば、帳簿も電子申告のIDも同じようなものです。帳簿の実物は目に見えますが、電子申告のIDは目に見えないだけの話です。

さらに、電子申告のIDは、過去に税務署に申告した履歴や受信通知を参照することにも用いられます。

つまり、電子申告の本質的な部分での「控え」とは、顧客に渡したPDFや印刷した書類ではなく、電子申告のIDとそのIDにひも付く履歴情報にあるものといえます。

税務ソフトから出力される申告書等のPDFは、国税庁や地方税共同機構のサーバーにあるXMLデータを変換したものです。

なぜIDは引継ぎされづらいのか?

ここまで述べてきて疑問を覚えるのは、なぜ電子申告のIDが、以前の税理士から新しい税理士に引継ぎされづらいのか? ということです。

これまでに説明してきたとおり、電子申告のIDは、会計事務所が代理取得した後は、独占管理の状況に置かれすぎているために、本来会社のものであるという認識が欠けていることが要因と推測します。

また、実物である「帳簿等」とは異なり、目に見えない「ID」はどうしても軽視されやすい可能性もありそうです。

また、神野裕一税理士は、電子申告IDの引継ぎ方法について説明するブログにおいて、運営管理上、会計事務所において顧客の電子申告IDにひもづくパスワードを統一している可能性を指摘されています。(参考「税理士変更で利用者識別番号がわからないときの対応」、2020年11月)

引継ぎの際にはパスワードの変更も必要になり、腰が重くなりやすい要因としてあり得る話と考えます。

まとめ

顧問契約が解除された場合、会計事務所が代理で管理している電子申告のIDと暗証番号は、相手先の会社に伝達(返還)する必要がある、という点をお伝えしました。

会計事務所において認識すべきルールですが、その根拠についてこの記事で整理したしだいです。