法人の確定申告については電子申告が進んでいるのに、電子納税はなぜさほど普及しないのか……?
前回の記事で、ケーススタディをもとにその原因を5つに分けて整理しました。この整理を元に、電子納税を普及させるための施策を挙げてみます。
説明のポイント
- 電子納税を推進するにはどうしたらいいのか。現場の視点から、ボトルネックを解消する改善案を挙げている
1.源泉税・住民税特徴の納付に特化した電子納税システムを新たに提供する
もっとも望ましいのは、国税・地方税で共通した電子納税専用サイトを新規提供し、ID不要で納付できるようにすることです。
その電子納税の機能は、源泉所得税の納付と、個人住民税(特別徴収)の納付に特化します。
イメージとしては、現在の「国税クレジットカードお支払サイト」が近いように思われます。(ただし、通常の源泉所得税の納付はこのサイトではできない)
現行のe-TaxとeLTAX(PCdesk)は、税理士が代理申請したIDと共通になっているために、会社での電子納税は利用しづらくなっています。
それなら会計事務所が会社と共有すればいい話なのですが、その共有のひと手間が難しいから、電子納税が進展しづらい事態に留まっているわけです。
とにかく電子納税をしてもらうためには、そのハードルをとりはらう必要があります。
2.インターネットバンキングの利用率を向上させる
電子納税が普及しない理由のひとつに、インターネットバンキングの利用率が低いことが関連していると思われます。
また、政府の目標として、中小企業におけるクラウド利用率を4割に引き上げることが掲げられています。そうであれば、インターネットバンキングの利用率を高める施策も必要といえるでしょう。
そこで提案するのは、法人が新規で申し込んだインターネットバンキング契約について、その利用料負担を一定期間で低廉(または無償)にする施策です。こうした誘導策は国ももっと本腰を入れてほしいものです。
インターネットバンキングの利用料は、中小企業が利用しない理由としてよく見られるものです。(参照:新経済連盟、第1回納税環境整備に関する専門家会合(2020年10月7日)資料)
しかし、その理由が本当に「コスト」だけであるかは、首をかしげる点もあります。
いずれにせよ、とにかくインターネットバンキングを使ってもらわなければ、経理の「紙・ATM(窓口)」は今後もずっと続きます。
こうした施策は、効果の怪しい見かけ倒しの支援制度を作るよりも、よほどバックオフィスの生産性向上に寄与すると考えますが、どうでしょうか。
3.会計事務所の取り組み
上記の1、2のような取り組みが期待できない場合は、けっきょくのところ地道な取り組みにならざるをえません。
まず考えられるのは、「e-Taxソフト(WEB版)とPCdeskの操作について、わかりやすい解説を、税理士、職員、経理向けに提供する」ことです。
例えば、解説を動画で提供することや、e-Taxにおける電子納税をバーチャルで体験できる模擬テストページを作ることも考えられます。
現行の「e-Taxソフト(WEB版)」や「PCdesk」は、そのログインにIDと暗証番号が必要なため、これを知らされていない会計事務所の職員と会社の経理担当は、「会社でも電子納税できる」という実体験を有していません。
電子納税を会社でも積極的に利用してもらうよう、誘導する方法を考える必要があるでしょう。
次に、「代理取得した利用者識別番号は、本来会社のものであることを周知徹底する」ことも必要です。
前回の記事で、電子申告の普及のため会社の利用者識別番号(eLTAXのIDを含む)を会計事務所に代理取得させることを容認した結果、会社の電子申告・電子納税化を遅らせる副作用をともなったことを説明しました。
代理取得したIDは、会計事務所の内部だけで利用され、会社には共有されていない状態も多いと考えられます。
なかには、顧問契約の解除後であっても、利用者識別番号を会社に通知していないケースもあるようです。このケースは、各税理士会の綱紀規則にあると思われる「帳簿等返還義務」に違反する恐れもあるのではないでしょうか。
「代理取得した利用者識別番号は、本来会社のものである」ことの周知徹底は、遠回りですが、電子納税の普及のためにも重要なステップと考えます。
まとめ
電子納税の利用率を向上させるにはどうしたらいいのか? 電子納税について考え続けている一人の税理士の視点から、改善案を提供しました。
筆者は微力な立場にすぎませんが、この記事が誰かの目に触れて、ブレーンストーミングの役に立てば幸いです。
とくに、会計事務所が電子申告のIDを独占管理していることが電子納税のボトルネックとなっている可能性については、これまでほとんど指摘されたことがないと思われますので、当ブログの独自分析として再度強調しておきます。
ここで挙げた改善案には、このほかにも「電子納税の操作マニュアルを国税庁ホームページのわかりやすい場所に掲示する」「電子納税専用のサポートダイヤルを追加する」などがあります。
もっと過激な案としては、「紙の納付書の手数料徴収を容認する」などもありますが、話が尽きないので、このあたりでやめておきます。