インボイス制度後 非登録国外事業者への支払は経過措置の対象か?

当ブログではここ最近、国外事業者の電気通信利用役務について触れています。この点に関して気になっているのが、国外事業者に対するインボイス制度後の扱いです。

非登録の事業者は、インボイスを発行できないため、支払側も仕入税額控除の対象に含めることはできません。では、その次善策として、国外事業者であっても経過措置(80%・50%控除)の対象になるのでしょうか。少し気になったので考えてみました。

説明のポイント

  • インボイス前→非登録の国外事業者からの請求は仕入税額控除の対象外
  • インボイス後→非登録の国外事業者からの請求は仕入税額控除の対象外としても、経過措置の対象になるのか?
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インボイス制度後、登録国外事業者はインボイス発行事業者に移行する

以前の記事で書きましたが、登録国外事業者制度は、2023年10月からのインボイス制度よりも前に実施されている、限定的かつ擬似的なインボイス制度と見ることができます。

登録国外事業者という制度は、平成27年(2015年)10月に導入されたあとも、対象は外国法人であり、...

この登録国外事業者制度は、2023年10月以後はインボイス制度に統合されます。

改正法附則(平成28年3月31日法律第15号)45条を読むと、令和5年9月1日時点の登録国外事業者は、インボイス発行事業者の登録を受けたものとみなすとあります。

このことから、これまで登録国外事業者から発行を受けていた電子請求書は、インボイス制度の開始後は、電子インボイスとして保存することになるでしょう。

現在の経過措置とインボイス後の経過措置

この記事の本題はここからです。

インボイス制度後、登録国外事業者から移行した、インボイス発行事業者に登録済みの国外事業者はインボイスを発行できるので問題ないわけですが、それ以外の非登録の国外事業者の請求書についてはどうなるのでしょうか。

まず、インボイス制度開始前の取扱いを確認します。

非登録の国外事業者からの課税仕入れは、この記事執筆時点における附則(平成27年3月31日法律第9号38条)によって、仕入税額控除の対象にならないという経過措置があります。

(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
第三十八条 事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者(新消費税法第二条第一項第四号の二に規定する国外事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)から受けた電気通信利用役務の提供(同項第八号の三に規定する電気通信利用役務の提供をいい、同項第八号の四に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下この条及び次条において同じ。)に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。ただし、当該国外事業者のうち登録国外事業者(次条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)に該当する者から受けた電気通信利用役務の提供については、この限りでない。

一方、インボイス制度が開始された後ですが、非登録の事業者に対しての課税仕入れは、経過措置が適用されます。

かなり長いのですが、令和5年10月1日施行の改正法附則(平成28年3月31日法律第15号)を引用します。

(適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置)
第五十二条 事業者(新消費税法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。以下この条及び次条において同じ。)が、五年施行日から五年施行日以後三年を経過する日(同条第一項において「適用期限」という。)までの間に国内において行った課税仕入れ(新消費税法第三十条第一項の規定の適用を受けるものを除く。次条第一項において同じ。)のうち、五年改正規定による改正前の消費税法(以下この条及び次条において「旧消費税法」という。)第三十条の規定がなお効力を有するものとしたならば同条第一項の規定の適用を受けるものについては、同条第九項に規定する請求書等又は当該請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成十年法律第二十五号)第二条第三号に規定する電磁的記録をいう。次項並びに次条第一項及び第二項において同じ。)を新消費税法第三十条第九項に規定する請求書等とみなし、かつ、当該課税仕入れに係る支払対価の額(同条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。次条第一項において同じ。)に百十分の七・八(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等(新消費税法第二条第一項第九号の二に規定する軽減対象課税資産の譲渡等をいい、消費税法第七条第一項、第五条の規定による改正後の同法第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。第三項及び次条第一項において同じ。)に係るものである場合には、百八分の六・二四)を乗じて算出した金額に百分の八十を乗じて算出した金額を新消費税法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とみなして、同条の規定を適用する。この場合において、同条第八項第一号ハ中「である旨)」とあるのは、「である旨)及び所得税法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第十五号)附則第五十二条第一項の規定の適用を受ける課税仕入れである旨」とする。

非登録の事業者からの課税仕入れであっても、帳簿に一定の記載をすることによって経過措置(80%控除・50%控除)の対象になるわけです。こちらの経過措置はよく知られているとおりです。

これらをふまえての疑問ですが、インボイス後におけるこの経過措置は、国内事業者からの請求に限定したものでしょうか。それとも、非登録の国外事業者からの請求も経過措置の対象に含まれているのでしょうか。

非登録国外事業者の請求はどうなるのか?

電気通信利用役務の提供についてなじみの少ない方に向けて説明すると、非登録の国外事業者からの請求というのは、例えば下の画像のようなものです。

この請求は、海外製ソフトウェアのライセンスを購入したときのものです。販売者のウェブサイトを見てみるとフランスの会社でした。

この請求を見てみると、日本の消費税と思わしき記載はありますが、登録国外事業者の番号はありませんでした。よって、この記事執筆時点(2022年11月)では、消費者向け電気通信利用役務のうち、非登録の国外事業者からの請求なので、仕入税額控除の対象外と考えられます。

こうした国外事業者からの請求について、インボイス制度が開始されて以降の取扱いはどうなるのでしょうか。先ほど述べたとおり、「80%・50%」の経過措置は、非登録の国外事業者からの請求も対象になるのか、という点が気になっています。

一般的な感覚で考えると、インボイス制度前では仕入税額控除の対象外だったのですから、インボイス制度の開始後においても、非登録の国外事業者については同じように対象外……というのが直感的に思われるところです。

もう一度、経過措置を読んでみます。

・・・五年改正規定による改正前の消費税法(以下この条及び次条において「旧消費税法」という。)第三十条の規定がなお効力を有するものとしたならば同条第一項の規定の適用を受けるもの・・・

これだけを見れば、非登録の国外事業者は「30条第1項」を適用していなかったので、インボイス制度後もやはり対象外に思えます。

しかし、非登録の国外事業者を制限する規定は、30条ではなく、前述の改正法附則(平成27年3月31日法律第9号)の38条にありました。

事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。

この附則は令和5年10月1日施行と同時に無くなりますので、「旧30条の規定がなお効力を有する」だけならば、この附則の制限は当てはまらず、非登録の国外事業者からの請求は、経過措置である「80%・50%」の対象に当てはまるようにも読めます。

……単に筆者の読み方が間違っているだけなのかもしれませんし、もしかすると筆者の気づいていない点があって、インボイス非登録の国外事業者からの請求は経過措置の対象にならないよう、どこかで除外されているのかもしれません。

正直ちょっとよくわからないので、このブログで整理してみたしだいです。

まとめ

インボイス制度開始後における80%・50%の経過措置については、国外事業者からの請求も対象になるのかが気になったので、論点を整理しました。

以前から気になっていた点だったのですが、これまでに言及を見たこともなく、自分で附則をいろいろ探しても難解すぎてよくわかりませんでした。

たんに筆者が読み落としている規定があるだけの話かもしれませんので、すでに答えを知っている方がいれば、「・・・と考える向きもあるが」などと嘲笑していただければ幸いです。

追記:下記の書籍・記事において、当記事で示した疑問に対する見解が記載されています。

  • 上杉秀文『国際取引の消費税QA』八訂版(税務研究会) 2023年6月刊行
  • 「税務通信」3764号(2023年8月7日) 税理士伴忠彦「うちの経理部は海外取引に弱いんです!<第38回> インボイス直前!消費者向け電気通信利用役務の提供の整理」
  • 「税務通信」3767号(2023年9月4日) 税務の動向「非登録の国外事業者 消費者向けは経過措置の対象外」

追記国税庁の質疑応答事例「いわゆる「消費者向け電気通信利用役務の提供」を受けた場合の仕入税額控除」が2023年10月に更新され、経過措置は適用されない旨が追記されました。

※ 適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置(令和5年10月1日から令和8年9月30日までは仕入税額相当額の80%控除、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは仕入税額相当額の50%控除)の適用はありません。

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