異動届がインボイス登載事項の変更届を兼ねるようになった根拠は?

法人がインボイス登録簿の登載事項である「名称」「所在地」を変更する場合に、異動届を提出していれば、登載事項の変更手続きは不要とされています。

この根拠がどこにあるのか気になったので、調べたことを整理します。

説明のポイント

  • 適格請求書発行事業者の登載事項のうち法人の「名称」「所在地」については、異動届を提出すれば、登載事項の変更手続きは不要とされている。
  • この取扱いの根拠は法令には見当たらない。2023年1月の法令解釈通達の改正が理由か?
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インボイス登載事項の変更には手続きが必要

インボイス発行事業者の登録申請が済んでいる事業者は多いでしょうが、名称を変更した場合や、本店又は主たる事務所の所在地などの登載事項を変更した場合には、変更手続きが必要とされています。

これは、消費税法に定められています。

(適格請求書発行事業者の登録等)
第五十七条の二
8 適格請求書発行事業者は、第四項に規定する適格請求書発行事業者登録簿に登載された事項に変更があつたときは、その旨を記載した届出書を、速やかに、その納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。
9 税務署長は、前項の規定による届出書の提出を受けた場合には、遅滞なく、当該届出に係る事項を適格請求書発行事業者登録簿に登載して、変更の登録をするものとする。この場合において、税務署長は、政令で定めるところにより、当該変更後の適格請求書発行事業者登録簿に登載された事項を速やかに公表しなければならない。

インボイス制度が開始される2023年10月以前についても、経過措置があります。(平成28年第15号改正法附則)

(適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置)
第四十四条
2 前項の規定により新消費税法第五十七条の二第二項の申請書を提出した事業者(次項の規定により同条第三項の規定による登録に係る同条第七項の通知を受けた事業者に限る。)は、当該申請書に記載した事項に変更があったときは、五年施行日前においても、同条第八項の規定の例により、同項の届出書を提出しなければならない。

Q&Aの改訂でインボイスの変更手続きは不要と案内されている

ところが、2023年(令和5年)4月のインボイスQ&A改訂において、一定の場合に変更手続きが不要という案内が追加されました。(問23

・・・この場合、法人である適格請求書発行事業者においては、変更事項が「名称」又は「本店又は主たる事務所の所在地」であり、その異動事項について記載した異動届出書の提出を行っている場合は、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」の提出を省略して差し支えありません。

これを読むと、異動届出書を提出することで、インボイスの登載事項の変更手続きを省略することができる、とあります。

国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトの「よくある質問」(Q2-4)でも、つぎのとおり書かれています。こちらは、2023年1月~2月頃に追加されたようです。

・・・なお、法人が名称並びに本店又は主たる事務所の所在地を変更したことにより、その旨を記載した異動届出書を提出した場合には、変更届出書の提出は不要です。

改正の根拠は?

こんな手続きの改正っていつの間にあったのだろうか…… と疑問に思ったので、税制改正大綱や、その後の法令等の改正をあさってみたのですが、筆者が探した限りでは見つけることができませんでした。

国税庁インボイスQ&Aの問23を見ても、

「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」の提出を省略して差し支えありません。

のあとに、その根拠となる法令は示されていません。

この点について筆者は悩んでいたのですが、異動届の改正において手続きの変更が示されている、と解説する税務情報サイトがありました。(参考MyKomonTAX「異動届出書の改正 国税庁」、2023年2月1日)

法人の異動届を見たところ、変更後の記載要領には次とおり案内されています。

※ 「消費税異動届出書(第 11 号様式)」に係る異動事項又は「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」に係る変更事項について、この届出書の「消費税」の□にレ印を付して提出した場合は、重ねて「消費税異動届出書(第 11 号様式)」又は「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」を提出する必要はありません。

異動届には「05.01改正」とありますので、2023年1月に追加された内容のようです。

参考国税庁「法人課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)(2023年1月27日)

この法令解釈通達の改正が、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」の提出を省略できる「根拠」といえるのかまではわかりませんが、関係があるものといえそうです。

法令解釈通達の改正前はどうなっている?

なるほど、今後は異動届を出せば、それでインボイスの登載事項の変更手続きも兼ねるので安心だ、ということになるでしょう。

では、この法令解釈通達の改正前の取扱い(2023年1月以前)についてはどうかというと、これは改正前の扱いのままのようです。

例えば、2022年12月に引っ越しして、法人の本店所在地を変更したとします。

このときに、消費税の異動届を出したとしても、インボイスの登載事項における「本店又は主たる事務所の所在地」は異動届にリンクしていないので、適格請求書発行事業者公表サイトの登載事項は古いままになっている可能性があります。

この場合、改正前の取扱いのとおりに適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更手続を行う必要があるようです。

インボイス登録完了後から2023年1月までに引っ越しした法人は、登載事項の変更を忘れていないか、一度チェックしておいたほうがよいと思います。

まとめ

インボイス発行事業者である法人で、異動届(名称・所在地)を提出した場合には、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」の提出を省略できるという、その根拠を考える記事でした。

正確なところの根拠は断言できませんが、法令解釈通達の改正が関係しているようです。

インボイスにまつわる手続きそのものがまだ実務として不慣れなので、異動届に連動してくれるようになったのは、よい改正と思われます。

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