売上1000万円近辺で免税事業者を継続、「2割特例」の判定でやや不利に

免税事業者がインボイスの登録をして2割特例を適用した場合と、免税事業者を継続して「消費税相当額」の8割を維持した場合との比較では、手取りとしての影響は同じように思われますが、その後の2割特例の可否に違いが生じうると思われます。

限定的なケースですが、事例を挙げてみます。

説明のポイント

  • 免税事業者の期間における課税売上高は、「消費税相当額」を含めて判定する(税抜処理はない)。インボイス制度開始後も免税事業者を継続して「消費税相当額」の8割を維持した場合は、判定上の課税売上高が上振れするために、インボイスの登録をした場合に比較して不利になる可能性がある
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検討する事例

下の図表をご覧ください。ケース①とケース②で、有利不利を比較してみます。

【前提】

前提として、売上が1,000万円近辺を行き来する個人事業主で、これまでは免税事業者であっても「消費税相当額」を取引先に請求していたものとします。

令和4年、令和5年は免税事業者ですが、ケース①ではインボイスの登録をするため、令和5年10月から課税事業者に移行します。

ケース②は、免税事業者をできるだけ継続する方針ですが、課税事業者に該当することになった場合にはインボイスの登録をすることにします。当面は免税事業者なので、取引先とはこれまで請求していた「消費税相当額」の8割を、令和5年10月以降も請求できるように合意しました。このため、売上の計算は「税込売上×108/110」に縮小します。

ちなみに、令和5年と令和7年の売上が空欄なのは、話をシンプルにするためです。ケース②で特定期間による課税事業者への該当はないものとし、基準期間の売上高のみの判定とします。税率は10%とします。

【比較】

令和6年は、ケース①の「税込」と、ケース②のいずれも、1,000万円を超える売上でした。図表ではケース①を税込売上1,045万円(税抜売上950万円)、ケース②の売上を1,026万円(1,045万円×108/110)としています。

ケース①は、令和6年は課税事業者なので、税抜ベースの課税売上高で1,000万円を下回れば、令和8年は2割特例の対象になります。

一方、ケース②では、令和6年は免税事業者であるために、受領している「消費税相当額」の8割分も対価として課税売上高となるものと考えられます。令和6年の課税売上高が1,000万円を超えると、令和8年では2割特例は使えません。

【事例が起こりうる範囲】

このような差が起こりうる令和6年の売上の範囲ですが、ケース①で「税抜9,259,261円(税込10,185,187円)~税抜1,000万円(税込1,100万円)」だった場合に、ケース②において「10,000,001円~1,080万円」になって、令和8年の2割特例の可否に差が生じるものと試算されます。

この範囲以上の売上ではケース①でも2割特例の対象外となり、この範囲以下の売上ではケース②は免税事業者となります(ただし、令和7年からインボイス登録した場合は令和8年では免税事業者になれない)。

なお、上記の例ではわかりやすいように「令和6年と令和8年」の対応関係で作成しましたが、これは「令和5年と令和7年」の対応関係でもありうる話でしょう。令和5年の売上については、ケース①では免税と課税の期間が混在し、令和5年10月~12月の3ヶ月間の差で起こりうるため、「令和6年・令和8年」のケースに比べて可能性は低くなります。

違和感がある理由

なぜこのような差が生じるのか、しっくりこない点もあるので、補足しておきます。

まず課税事業者における課税売上高の判定は、税抜ベースです。

これに比べて、免税事業者では消費税を納めていないので、消費税相当額の収受は予定されていない(参考「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」問111)ために、もし「消費税相当額」という名目で収受した対価があったとしても、課税売上高の判定においては税抜ベースではなく、その「消費税相当額」だった分も課税売上高として扱います(参考平成17年2月1日最高裁判決消基通1-4-5タックスアンサーNo.6501注1)。

ケース②においては、免税事業者が「消費税相当額」の8割を収受しなければ、令和6年の課税売上高は950万円となっていたはずです。ケース①とケース②の課税売上高の判定は、しくみ上の想定としては同一といえます。

まとめ

免税事業者が現状維持した場合と、インボイスの登録をして課税事業者に移行した場合の有利・不利が気になっていました。

2割特例が創設されたことで、免税事業者を継続した場合と課税事業者へ移行した場合の有利・不利はなくなったかのように思っていましたが、課税売上高の判定に違いが生じる影響が気になったので、図表で整理してみました。

わずかな範囲ではありますが、毎年の売上が1,000万円近辺で推移する場合は、免税事業者を維持すると、その後の2割特例の適用において不利になる可能性があるかもしれません。

免税事業者に対するインボイスの登録については「あわてるな!」と案内されている場合もありますが、過去の課税売上高をあとで修正することはできません。売上はその年が終わってみなければわからず、あくまで結果論的な話ではありますが、免税事業者を継続する場合も慎重な判断が必要と思われます。

なお、この内容がすでにどなたかの記事や書籍で指摘済みのことであっても、ブログ筆者もあらゆる文献に目を通しているわけではありませんので、重複の記事としてご容赦ください。

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