非登録国外事業者からの課税仕入れは少額特例の対象になるか

インボイス非登録の国外事業者が提供する消費者向け電気通信利用役務について、その課税仕入れは経過措置(80%・50%控除)の対象外とされています(「税務通信」3767号)。では、少額特例は対象になるのでしょうか。

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これまでの経緯

当ブログでは、2022年11月にインボイス非登録の国外事業者が提供する消費者向け電気通信利用役務について、課税仕入れが経過措置(80%・50%)の対象となるかを検討する記事を書きましたが、よくわからないので判断保留としていました。

この要点をかいつまむと、インボイス制度施行前までは、27年改正法附則38条によって、非登録国外事業者からの消費者向け電気通信利用役務における課税仕入れは仕入税額控除の対象外とされていましたが、この附則は2023年9月30日で削除されます。

インボイス制度開始後は、インボイスがあるかどうかで仕入税額控除を判断すればいいわけです。これは国内事業者・国外事業者のどちらでも同じということでしょう。

しかし、80%・50%控除の経過措置については、インボイス制度に登録していない国外事業者からの課税仕入れでもこの経過措置が使えるのかが悩むところでした。もし経過措置が使えれば、インボイス制度開始前よりも税額計算で有利になります。しかし、そうは問屋が卸さないということで、30年改正令附則24条でこの経過措置の適用が除外されていました。

これは「税務通信」3767号(2023年09月04日)で経過措置の対象外とする記事が掲載されたことで、確定的な取扱いと考えてよいでしょう。

少額特例はどうなのか?

ふと気になったのが「少額特例」はどうなのか、ということです。少額特例はインボイスの有無にかかわらず、課税仕入れが税込1万円未満であれば仕入税額控除の対象にできる制度です。

それぞれ、関係する条文を見てみたいと思います。

28年改正法附則53条の2

まずは、少額特例に関する改正法附則です。

第53条の2 請求書等の保存を要しない課税仕入れに関する経過措置

事業者(新消費税法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が5年施行日から5年施行日以後6年を経過する日までの間に国内において行う課税仕入れ(その基準期間における課税売上高が1億円以下である課税期間又はその特定期間における課税売上高(消費税法第9条の2第1項に規定する特定期間における課税売上高をいう。)が5000万円以下である課税期間に行うものに限る。)について、当該課税仕入れに係る支払対価の額が少額である場合として政令で定める場合における新消費税法第30条第7項の規定の適用については、同項中「帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)」とあるのは、「帳簿」とする。この場合において、当該課税仕入れについては、前2条の規定は、適用しない。

少額特例を適用する場合は、帳簿のみの保存でよいとされていますので、インボイスは不要です。

また、インボイスの保存がないとしても少額特例に該当する場合は、80%・50%の経過措置(「前2条の規定」である28年改正法附則52条・53条)は適用しないとされています。つまり、経過措置は関係ありません。

30年改正令附則24条の2

改正法附則が参照する政令は、30年改正令附則24条の2ですので、これを見てみると、

第24条の2 請求書等の保存を要しない課税仕入れの範囲等

28年改正法附則第53条の2に規定する政令で定める場合は、5年消費税法第30条第8項第1号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額が一万円未満である場合とする。
2 28年改正法附則第53条の2に規定する事業者が、同条の規定の適用を受ける課税仕入れを行った場合における当該課税仕入れに係る新令第46条の規定の適用については、同条第1項第6号中「掲げる課税仕入れ」とあるのは、「掲げる課税仕入れ又は所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第53条の2の規定の適用を受ける課税仕入れ」とする。

となっています。

施行令46条では仕入税額控除の計算の対象になる範囲が定められており、インボイスのあるものや、インボイスがなくてもOKなものが列挙されています。

「同条第1項第6号」の読み替えで、インボイスがなくても仕入税額控除ができるもののなかに少額特例が追加されます。

30年改正令附則24条

非登録国外事業者からの消費者向け電気通信利用役務の提供について、経過措置(80%・50%)を除外する規定はどうなのでしょうか。

第24条 国外事業者から受ける電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置

事業者が、5年施行日から令和11年9月30日までの間に国内において行った課税仕入れのうち、28年改正法第18条の規定による改正前の27年改正法附則第38条第1項本文の規定がなお効力を有するものとしたならば同項本文の規定の適用を受けるものについては、28年改正法附則第52条及び第53条の規定は、適用しない。

この条文を見ると、80%・50%控除の経過措置(28年改正法附則52条・53条)は「適用しない」となっています。

少額特例(28年改正法附則53条の2)は、その除外には当てはまらないようです。

まとめ

ここで見た限りでは、非登録国外事業者の消費者向け電気通信利用役務の提供における課税仕入れついて、少額特例の適用は可能に思われます。

少額特例は、売上の規模が小さい事業者に限って、課税仕入れ1万円未満の事務負担を軽減する制度といえます。もし非登録国外事業者からの課税仕入れを除外するならば、そこでは金額の判定以外にも、国内・国外の判定の必要性が生じるので、インボイスの有無を意識せざるを得ません。事務負担の軽減の意味では、少額特例の対象に含まれていることが道理に思われます。

しかし、どこに落とし穴があるのかわからないのが税務です。正直な話、疑心暗鬼になりすぎてうかつなこともいえませんが、いちおう調べた限りで、ということで書いておきます。

追記(2024/1/28)

国税庁「多く寄せられるご質問 (令和6年1月26日更新)」が追加され、国外事業者からの消費者向け電気通信利用役務にかかる課税仕入れは、インボイスの保存がなくても少額特例の対象となるとのことです。

問⑳(電気通信利用役務の提供と適格請求書の保存)

・・・また、国外事業者が行う消費者向け電気通信利用役務の提供について、適格請求書の保存がない場合には、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れについて一定割合(80%、50%)を仕入税額とみなして控除できる経過措置の適用を受けることはできませんが、少額特例(一定規模以下の事業者が、令和5年 10 月1日から令和 11 年9月 30 日までの間に行う税込み1万円未満である課税仕入れについて、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除の適用を受けることができる経過措置)の適用を受けることはできます。

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