電子契約サービスが広まりはじめたのは、なぜなのか?

電子契約サービスはなぜ、いまの段階で広がりはじめたのか? 誰も教えてくれなかったので、自分で調べた結果を書いておきます。

説明のポイント

  • きっかけは、電子署名法に準拠しない方法が普及したこと
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電子契約、なぜ今になって広がった?

電子契約のサービスというものは、以前からあったわけですが、ここ1~2年で急速に話題となったのは、弁護士ドットコムが運営する「クラウドサイン」の影響が大きいでしょう。

クラウドサインは2015年10月に開始した、2年程度の短い歴史を有するサービスです。しかし、2018年1月においては、15000社が導入したと発表しており、急速に利用者を増やしています。

クラウドサイン

しかし、いったいなぜ、今になってこのように電子契約サービスが急速に広まりはじめたのでしょうか?

この疑問を調べても、教えてくれる資料は見当たりませんでした。

クラウドサインにインタビューをした各種の記事を読んでも、その点が明らかにされているものは見当たりません。

しかたないので、その理由を自分で調べてみることにしました。

電子契約サービスが急速に広まった理由とは?

電子契約サービスは、クラウドサインが初のサービスというわけではありません。

それにもかかわらず、「クラウドサイン」が支持され、話題になってひろく普及しはじめているのはなぜでしょうか?

筆者が調べたところでは、現在のように電子契約サービスが広まりつつあるのは、「電子署名法に準拠しない電子契約」の領域に踏み出したことが、きっかけとなっているようです。

そして、その嚆矢となったのが、弁護士ドットコム株式会社が提供する電子契約サービス「クラウドサイン」ということになります。

既存の電子契約サービスでは、契約者の双方において、電子証明書の取得を必要とするものがほとんどです。

その理由は、2001年に始まった電子署名法です。書面の契約書と同じクオリティを保つために、電子契約においても、電子証明書の利用を要求していたわけです。

しかし、クラウドサインでは、電子証明書の取得なしでも電子契約サービスを利用できます。

さらに、クラウドサインより以前に存在している電子契約サービスを見ると、導入価格を明示していないものもあるなど、利用開始にいたるまでのハードルが高いことを感じさせるものでした。

しかしクラウドサインであれば、導入費用は0円から始められるので、心理的なハードルはとても低いです。

個人事業主でも利用できるサービスがあるなど、はじめは信じられない人も多かったのではないでしょうか。

このように、利用開始のハードル、コストを大きく引き下げたことが、電子契約の利用者を大きく広げる結果につながったものと見ていいでしょう。

電子署名法と電子契約

先ほど述べたとおり、クラウドサインの特徴は、電子署名法に準拠しない電子契約サービスであるということでした。

この点を詳しく見てみましょう。

クラウドサイン以前のサービスでは、なぜ電子署名にこだわってきたのか。それは、電子署名法において次のように書かれているからと考えられます。

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの……(中略)……は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

つまり、電子署名があれば、紙と同等に「真正に成立したと証明しやすい」ということになります。

紙の契約書に署名するのと同等のクオリティを保つために、契約者どうしによる相互の電子署名を要求していたわけです。

しかし、クラウドサインは、この電子署名法に準拠しない方法を採用しています。

それは電子署名をしないという意味ではなく、契約書等に電子署名を付与するのは、クラウドサインです。

下の画像は、クラウドサインで契約された電子文書に付与された署名を表示したものです。「Bengo4.com, Inc.」の署名が付されています。

クラウドサインの電子署名

つまり、電子署名はするけれども、その署名をするのは「本人」ではありません。

このため、電子署名法に準拠した方式ではない、ということになります。

電子署名法に準拠しない電子契約

自分や契約相手が電子証明書を用意しなくても、クラウドサインのほうで電子署名してくれるわけですから、これほど楽なことはありません。

しかし、電子署名法に準拠しなくても、問題はないのでしょうか?

クラウドサインの主張に目を通すと、電子署名法は、真正な契約成立の必須条件ではない、ということです。

……電子署名法に準拠したとしても、実印と同様の法的効果を得られるということではありません。

電子署名法に準拠した場合であっても、反証の余地のない「看做し」規定ではなく「推定」規定であるため、文書の改竄などの反証可能性があります

引用:「クラウドサイン法律ガイド」(2017年9月確認)

この点については、クラウドサインの独自の主張というわけではありません。

電子文書の普及を目指す業界団体「公益社団法人日本文書情報マネジメント協会」の報告書(2017年10月)を読むと、「真正な成立の証明は、電子署名以外の方法でも可能である」と書かれています。

筆者はここ1年ほどのあいだ、「電子署名法に準拠しない方法でもよい」という根拠が出始めた理由や、それを認める主張を書籍、ネットなどできるかぎり渉猟しましたが、見つけることができたのは、この報告書だけでした。

なんで14年もかかったのか?

そうすると不思議なのは、次の点です。

2001年に施行された電子署名法から、クラウドサインがリリースされた2015年までの14年間で、どうして電子署名法に準拠しないサービスがもっと早く生まれなかったのか、ということです。

技術的に高い障壁があったわけではなく、法改正でなにかハードルが下がった……という話も見当たりません。

この疑問に答えてくる資料は、見当たりませんでした。単に「コロンブスのたまご」のような話なのでしょうか?

まとめ

電子契約がいまの段階でひろく普及しはじめた理由について、筆者ができるかぎり調べた情報をまとめておきました。

これは先日、「電子契約って昔からありそうなのに、なんでいま話題になったのですかね?」と聞かれたことがきっかけです。

実は以前にも、税務の要件にからめて似たような記事を書いていますが、もうちょっと読みやすいかたちで話をまとめました。

また、疑問がどうしても解消できない部分があったのですが、それはそれでブログという形式なら許されると考えますので、記事として載せました。

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