電子帳簿保存法の解説を読んでも、あまり詳しく触れられていない部分があります。
それは、電子取引に関する電磁的記録については「国税関係書類以外の書類とみなす」とされている部分です。
この点について以前から気になっていたので、考えた内容をメモとして残しておきます。(合っているかはご自身でご判断ください)
説明のポイント
- なぜ電子取引の電磁的記録は「国税関係書類以外の書類とみなす」とされているのか、その考察
- 電子取引については税法側の紙に対応する「国税関係書類」がそもそも存在しないために、「国税関係書類」とみなすことはできず、「国税関係書類以外の書類」とみなさざるをえない
電子取引の電磁的記録は「国税関係書類以外の書類」とみなす
電子取引の電磁的記録の保存については、「当該電磁的記録を国税関係書類以外の書類とみなす」と書かれている部分があります。
この部分は、改正前の電子帳簿保存法では11条2項、令和4年以後の改正法では8条2項が該当します。改正後の条文を引用します。
(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第七条
所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。(他の国税に関する法律の規定の適用)
第八条
2 前条に規定する財務省令で定めるところに従って保存が行われている電磁的記録に対する他の国税に関する法律の規定の適用については、当該電磁的記録を国税関係書類以外の書類とみなす。
一読してみると、「国税関係書類以外の書類」とは何なのか? という疑問が浮かぶところです。
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を電子データで保存する場合の話をしているのに、この電子取引だけは「国税関係書類以外の書類」という書きぶりで、違和感を覚えます。
逐条解説は質問検査権のためとしている
電子帳簿保存法が創設された当時に発刊された『逐条解説 電子帳簿保存法』(高野俊信、1998年)を読むと、この部分は次のように説明されています。
電子取引の取引情報の保存義務は、他の税法には規定がなく、この法律で義務を課しているものであることから、国税関係書類以外の書類とみなすことにしている。これは、電子取引の取引情報に係る電磁的記録又はCOMに対して質問検査権を行使することができるようにするものである。
この規定がある理由は質問検査権を行使するため、ということです。
なお、この逐条解説の後に書かれた、他の国税出身者の解説書のいずれを読んでも、この逐条解説の見解がそのまま引用されていました。
しかし、なぜ「国税関係書類とみなす」のではなくて、「国税関係書類以外の書類とみなす」のかは、逐条解説でも、その後に著された他の解説書でも、あまり詳しく説明されていません。
考察
以下、筆者なりの考察をあげてみます。
電子取引以外の「電子帳簿」「自己が一貫してコンピュータで作成した書類」「スキャナ保存の書類」については、当該電磁的記録を「国税関係帳簿又は国税関係書類とみなす」としています。(改正前11条1項、改正後8条1項)
この制度と電子取引を比較してみると、気づく部分があります。
まず承認制度が存在する改正前の電子帳簿保存法では、税務署長の承認があった電子データだけを、原則である紙(国税関係帳簿書類)の例外として「国税関係帳簿書類とみなす」というルールになっていました。
つまり、あくまで税法側は紙がベースで、その紙だけが、すなわち保存義務のある「国税関係書類」なわけです。
ところが、電子取引の電子データは、みなす対象である「税法側の紙の国税関係書類」がもとから存在しません。
これは逐条解説にもあるとおり、電子取引の電子データは、各税法ではなく、電子帳簿保存法においてのみ保存義務が課せられていることでもわかります。
つまり、税法側の紙である「国税関係書類」が、電子取引ではそもそも存在しないために、「国税関係書類」とみなすことはできず、それでも質問検査権の範囲に含めるためには無視もできないので、「国税関係書類以外の書類」とみなさざるをえない、ということではないかと考えます。
電子取引に承認制度が存在しなかったのは、みなす対象である紙の書類がもとからないのだから承認のしようがない、ということなのでしょう。
創設当初の電子帳簿保存法では、青色申告取消しの規定については「電子帳簿」「自己が一貫してコンピュータで作成した書類」のみが対象となっており、電子取引はその対象となっていなかった、という点も気になるところです。(※スキャナ保存制度は創設当初は存在せず)
この点を見ても、電子取引は、国税関係帳簿書類のみなし制度である「電子帳簿」「自己が一貫してコンピュータで作成した書類」と異なる重要度で考えられていたように思われます。
まとめ
電子取引の電子データは、「国税関係書類以外の書類とみなす」とされています。
この理由がなぜなのかを知りたかったのですが、説明されている資料は、電子帳簿保存法が創設された当時の逐条解説にあるだけで、そこでも詳細な説明は見られませんでした。
そこで、筆者なりに考察したところでは、
- 旧承認制度では、税法側の紙の帳簿書類に対応している、と承認された電子データのみを「みなす」こととされていた
- しかし、電子取引については税法側の紙に対応する「国税関係書類」がそもそも存在しないために、「国税関係書類」とみなすことはできず、「国税関係書類以外の書類」とみなさざるをえない
ということなのではないか、と筆者は理解しています。あくまで私見ですので、その点はご了承ください。
追記(2021/7/10)
財務省担当官による「令和3年度税制改正の解説」(P.982)によると、
この「国税関係書類以外の書類」とみなされる電磁的記録については、所得税法及び法人税法における保存書類とみなされるものではありませんが、申告内容を確認するための書類となり得ることとなります。
と説明されています。