インボイス制度と登録国外事業者制度 気になる類似点

登録国外事業者という制度は、平成27年(2015年)10月に導入されたあとも、対象は外国法人であり、その仕組みもイマイチわかりづらいせいか、注目される機会はあまりなかったようにも思います。

この制度についてよく考えてみると、インボイス制度に類似していることに気づきます。いまさらなのですが、2023年10月導入のインボイス制度との類似点を挙げてみます。

説明のポイント

  • 仕入税額控除の要件、国外事業者における写しの保存、登録番号制度とリストの公表など、インボイス制度との共通点は多い
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類似点1.登録番号のある請求書しか仕入税額控除できない

国外事業者(主に外国法人)が日本向けに「消費者向け電気通信利用役務」を提供した場合、その国外事業者は日本に対して消費税の納税義務が生じます。

そうなると、日本向け売上として国外事業者は消費税相当分を徴収することになるわけですが、支払う日本側の事業者としては、その請求書に「消費税」と書いてあっても、消費税を仕入税額控除できるのは、国外事業者が登録国外事業者である場合に限定されます。

この制度の意味は前回の記事でも説明しましたが、国外事業者には無申告の懸念がつきまといますが、登録をしていれば納税していることも明らかなので、役務提供を受けた側も仕入税額控除の対象にしてよい、ということです。(参考財務省担当官の平成27年度税制改正解説

つまり、国外事業者の請求書に「消費税」と書いてあれば無条件に仕入税額控除できるわけではなく、仕入税額控除の対象となるのは「登録国外事業者」が発行した、登録番号のある請求書に限定されます。

このような仕入税額控除の制限は、2023年10月からのインボイス制度と同じしくみといえます。

類似点2.請求書発行側の写しの保存が義務づけられている

インボイス制度の特徴として説明されるのが、適格請求書を発行した側も請求書等の写しを保存する必要があるということです。

この点ですが、登録国外事業者制度でも同じしくみになっており、登録国外事業者は請求書等の写しの保存が必要とされています。

消費税法施行令の附則(平成二七年三月三一日政令第一四五号)を読んでみます。

(登録国外事業者が交付した請求書等の保存)
第六条 改正法附則第三十八条第四項及び第五項の規定により、これらの規定に規定する請求書等を交付した登録国外事業者(改正法附則第三十九条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。)は、当該請求書等の写し(当該請求書等の交付に代えて改正法附則第三十八条第三項に規定する電磁的記録の提供をした場合にあっては、当該電磁的記録)を整理し、当該交付をした日(当該電磁的記録の提供をした場合にあっては、当該提供をした日)の属する課税期間の末日の翌日から二月(清算中の法人について残余財産が確定した場合には一月とする。次項において同じ。)を経過した日から七年間、これをその納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない。

類似点3.国外事業者は国税庁に登録申請して登録番号を指定される

登録国外事業者になることを希望する国外事業者(外国法人)は、日本の国税庁に登録申請をする必要があります。その登録申請が認められると、事業者ごとに登録番号を割り振りされます。

これは2023年10月からのインボイス制度と同じしくみといえます。インボイス制度でも、適格請求書発行事業者になるためには、登録申請が必要です。登録申請が認められると、発行事業者に登録番号が通知されます。

類似点4.登録リストが公表される

登録申請が認められた国外事業者は、その一覧が名簿として国税庁ホームページで公表されます。(登録国外事業者名簿

この仕組みも、2023年10月以後におけるインボイス制度と同じで、適格請求書発行事業者は「適格請求書発行事業者公表サイト」で公表されています。

先行した擬似的なインボイス制度?

これらの類似点を見ていえることは、2015年10月から始まった登録国外事業者制度は、2023年10月からのインボイス制度を擬似的に先取りしている、ということです。

ただし、類似していない点としては、登録国外事業者が発行する請求書等において、消費税額や税率を明記する義務が見当たらなかったことです。このため、完全に「インボイス」といえるかというと、そうでもなさそうです。

登録国外事業者が発行する請求書等には、「課税資産の譲渡等を行った者が消費税を納める義務がある旨」の記載が必要とされています。この部分はインボイスの代替的表示といえるかもしれません。

ところで少し気になったのは、登録国外事業者制度が平成27年度改正で創設されたことに比べて、インボイス制度の導入が発表されたのは平成28年度改正だった、ということです。

先ほども述べましたが、国外事業者からの電気通信利用役務の提供については、仕入税額控除の制限がされており、Q&Aでは次のように示されています。

……国外事業者から受けた「消費者向け電気通信利用役務の提供」については、当分の間、仕入税額控除ができないこととされています。
ただし、登録国外事業者から受けた「消費者向け電気通信利用役務の提供」については、仕入税額控除を行うことができます。

筆者はこの「当分の間」という書き方が微妙に気になっていたのですが、改正法附則も「当分の間」と書かれています。

この点を今から思うと平成27年度改正の時点において、インボイス制度の導入をすでに見越したものだった、という気もします。

インボイス制度は軽減税率制度と同時に導入されることになりましたが、税率引上げの検討時点では、

消費税率の引上げを踏まえ、低所得者に配慮する観点から、総合合算制度や給付付き税額控除、複数税率(軽減税率制度)について、様々な角度から総合的に検討することとされていました。(財務省担当官の平成28年度税制改正解説

と説明されています。

結果としては軽減税率が導入されましたが、もし仮に軽減税率制度が導入されなかったとしても、「当分の間」のあとで、インボイス制度はいずれ導入された可能性があったようにも思われます。

まとめ

電気通信利用役務における登録国外事業者制度と、インボイス制度の類似点を挙げてみる記事でした。

完全に同じとはいえませんが、インボイス制度と類似する点も多く、擬似的な制度となっていることがわかります。

インボイス制度が注目される一方で、そこからさかのぼって、登録国外事業者制度について注目することはあまりなかったようにも思いますので、いまさらなのですが、この記事で採りあげてみました。

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