インボイス制度前でも、消費税のために電子請求書を保存するケースとは

この記事執筆時点の2022年はインボイス制度の導入前ですが、消費税の仕入税額控除において、電子請求書を保存することがありうる話をお伝えします。

「インボイス制度前なら電子帳簿保存法の話でしょ?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。消費税の話です。

説明のポイント

  • 登録国外事業者が発行した請求書は、電子請求書の保存でもよいとされている。通常は電子請求書が発行されると想定されるため、電子請求書を保存することになる。
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インボイス前は消費税において電子請求書は不要

インボイス制度導入前の、この記事を執筆している2022年10月においては、消費税の仕入税額控除では電子請求書の保存は要件とされていません。(国税庁質疑応答事例

以前の記事でも紹介しましたが、現在の電子請求書の取扱いについては「請求書等の交付を受けなかった」ものとされており、消費税の仕入税額控除としては、電子請求書の保存は考慮されません。

インボイス制度後に免税事業者から受け取った請求書の経過措置について、令和4年度改正にて改正がありまし...

しかし、この説明では実は不十分で、例外もあります。インボイス制度の施行前でも、電子請求書を保存することが求められるケースはあります。

こういう話をすると、「電子帳簿保存法の電子取引のことでしょ。それなら消費税ではなく法人税か所得税の話では?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。

仕入税額控除のために電子請求書を保存する場合とは

結論からいうと、登録国外事業者からの電気通信利用役務について仕入税額控除を受けるときは、紙の請求書の保存に代えて、電子請求書の保存でもよいとされています。

念のための説明ですが、登録国外事業者とは日本の国税庁に登録している国外事業者(外国法人)のことです。

国外事業者には無申告の懸念がつきまといますが、この登録制度によって消費税を納税していることは明らかですから、その役務提供を受けた国内事業者においても、消費税の仕入税額控除の対象になります。

例えば、AmazonWebサービス(AWS)の電子請求書を見てみると、「AWSは日本の登録国外事業者で、登録番号は00004です。日本の国税庁に消費税を納める義務を負っています」と書かれています。

登録国外事業者に関する仕入税額控除については、国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A」の問30に、電子請求書の保存が触れられています。

なお、「消費者向け電気通信利用役務の提供」という取引の性質を鑑みて、取引相手から交付される請求書等の保存については、紙によるものに代えて、法令に規定された記載事項を満たした電子的な請求書等の保存によることができることとされています(27 年改正法附則 38③、27 年改正省令附則2①)。

また、「登録国外事業者」は、その役務の提供を受ける事業者の求めに応じ、必要な事項が記載された請求書等を交付する義務が課されています(27 年改正法附則 38④)。

せっかくなので、根拠となっている改正法附則(平成二七年三月三一日法律第九号)も見てみます。

(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
第三十八条
3 第一項ただし書の規定の適用を受ける場合における新消費税法第三十条第七項に規定する請求書等の保存は、財務省令で定めるところにより、前項の規定により読み替えられた同条第九項第一号イからホまでに掲げる事項に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の保存をもって代えることができる。

これらを読むとわかりますが、電子請求書は「保存をもって代えることができる」とあります。

電気通信利用役務のケースで、紙の請求書が発行されることはまずないでしょうから、通常は電子請求書の保存をすることになるでしょう。

このほか、輸入許可証などについても、電磁的記録の保存でもよいとされています。(消費税法施行令49条⑤⑦)

登録国外事業者の電子請求書の保存要件は電帳法準拠ではない

登録国外事業者から発行された請求書について、その保存ルールを見ていると、少し興味深い点も見られます。

先ほど読んだ改正法附則に関連する改正省令附則を読んでみます。

(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る請求書等の保存の特例)
第二条 所得税法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第九号。以下この条及び次条において「改正法」という。)附則第三十八条第三項の規定により消費税法第三十条第七項に規定する請求書等の保存を改正法附則第三十八条第三項に規定する電磁的記録の保存をもって代える場合には、当該電磁的記録の保存をする場所に当該電磁的記録の電子計算機処理(電子計算機を使用して行われる情報の入力、蓄積、編集、加工、修正、更新、検索、消去、出力又はこれらに類する処理をいう。)の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしなければならない。

これを読むと、電子帳簿保存法の電子取引における保存要件に準拠しておらず、独自の保存規定となっていることがわかります。

保存要件は、見読可能装置と操作説明書の備え付け、出力可能な状態の維持が求められているだけで、「検索要件」や「改ざん防止措置」は求められていません。

少し気になったのは、登録国外事業者の電子請求書を印刷保存しても仕入税額控除を受けられるかという点ですが、この点には触れられていないようです。

検索要件は求められていないことを考えれば、電子請求書のPDFなどをとりあえず保存しておけばよいわけですが、速やかに出力できることも要件ですので、やはりきちんとした保存が求められているといえるでしょう。

まとめ

最近、電気通信利用役務について調べる機会があったのですが、関連して気づいた点があったので、この記事でご紹介しました。

インボイス制度導入前は、電子請求書の保存は求められないと筆者は認識していましたが、その例外として興味深く思われました。

2023年10月からのインボイス制度の導入にともない、電気通信利用役務における登録国外事業者の制度はインボイス制度に統合されますので、この話もいまさら感はありそうです。

なお、登録国外事業者の制度については、インボイス制度と比較して気づいた点が他にもあったのですが、長くなるので次回とします。

登録国外事業者という制度は、平成27年(2015年)10月に導入されたあとも、対象は外国法人であり、...

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