複式簿記はよくわからないけど、それでも帳簿をつけるにはどうしたらいいのですか? という不安への答えを書いておきます。
説明のポイント
- 複式簿記がわからなければ、かんたんな「単式簿記」でいい
- あとは、55万円分の控除をあきらめる覚悟があるかどうか
複式簿記が意味不明すぎてハードル高い、の悩み
簿記の世界では、「複式簿記」がスタンダードです。このため、世の中に出回っている会計ソフトも、そのほとんどが複式簿記を前提としたものになっています。
しかし、実際のところ、簿記というのはパッと見て「意味不明」な感じがあるでしょう。
左右に科目が分かれていて、それが交互に表示されてくるルールを見ても、理解しづらいことは確かです。
1/31 (買掛金)50,000 (普通預金)50,000
ちなみに筆者は税理士ですが、「複式簿記を理解しろ!」とゴリ押しすることは、一切ありません。
もしこの記事を読んでいるビジネス初心者の方が、複式簿記になじめなければ、もっと簡単な「単式簿記」(簡易簿記ともいう)でもいいのですよ、とお伝えしておきます。
なんでみんな、複式簿記をおすすめしてくるの?(泣)
なんでみんな、複式簿記をおすすめするのでしょうか?
先ほど説明したとおり、複式簿記は、簿記のスタンダードなかたちであることが、最重要なポイントとしてあります。
ソフト会社の都合
また、多数の科目が左右に入り乱れることから、複式簿記では、会計ソフトの利用が必須といえます。
会計ソフトの会社は、自社のソフトを使ってほしいので、複式簿記を全面に押し出しています。複雑な処理を、こなしやすくするのが会計ソフトの役割だからです。
そんな状態なので、もうひとつの単純な「単式簿記」という選択肢は、まるで最初から存在しない扱いになっている印象です。
税としての有利・不利
単式簿記は、税として不利な面があることも認識が必要です。
所得税の青色申告では、複式簿記で帳簿をつければ、65万円の所得控除をうけることができます。これが複式簿記ではない場合は、「10万円(または0円)」になります。
こうした面から、みんなが「複式簿記を使いなさい! ホラホラ、税も安くなるよ」と、おすすめしてくるわけです。
複式簿記がわからないなら、無理することはない
単式簿記(簡易簿記)は、「お小遣い帳」のようなものです。科目ごとに帳簿をつけて合計を出せばかまいません。
あとは、青色申告の場合は、入出金のタイミングが遅れる場合の「売掛・買掛」を把握しておく必要がありますので、売上帳、買掛帳も作成します。
引用:帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)(国税庁)
このあとは、損益計算書(収支内訳書)に記入するだけ。複式簿記のような複雑さは感じないはずです。
別に65万円の所得控除だって、気にしなければいいのです。単式簿記でも、青色申告の10万円控除は適用できます。
もし65万円の控除をあきらめたら、負担はどれぐらい増えるのでしょうか?
仮に税率を「所得税10%・住民税10%・健康保険料10%」とすれば、約16万円程度の負担が増えることになります。((65万ー10万)×30%)
16万円をあきらめることで、やるべきことを単純にできるなら「それでもいいや」という考え方も、じゅうぶんに成り立ちます。
海外で人気の会計ソフトは、単式簿記のものもある
みんな複式簿記っぽいのに、自分だけ単式簿記でいいんだろうか……という考えをお持ちの方向けに、海外の事例もお伝えしておきます。
海外で人気のある会計ソフトのひとつに、「FreshBooks」というソフトがあります。
このブログでも以前に、簡単な内容を紹介しています。
このソフトを利用してみるとわかりますが、帳簿のしくみは単式簿記になっています。
請求書を発行し、経費を入力することで、収支計算書を作成することができます。これは、単式簿記の処理で、日本における「青色申告の10万円控除」に該当するものです。
残念なことですが、日本ではなぜか、こうした敷居の低いクラウド型の会計ソフトが見当たりません……。複式簿記が会計ソフトの前提になっているためでしょう。
しかし、このFreshBooksを見ても分かるとおり、別に単式簿記(10万円控除)でビジネスをしていても、おかしいことは、何ひとつないわけです。
まとめ
自分で個人事業を始めた場合の、第一歩である帳簿について、「複式簿記は必須なのか?」という点を説明しました。
まとめるならば、
ということになるでしょう。
会計業界(ソフト会社や会計事務所)も、最初から、複式簿記だけが選択肢のような対応で、新規のお客さんに営業をかけているフシがあります。
しかし、ビジネスにおいては、自分の帳簿は自分で理解できるものであることが重要です。
単式簿記が自分にとって理解しやすい帳簿であるならば、別に複式簿記を選ばなくても、それでいいのです。
念のために述べておくと、法人の場合は複式簿記が必須になります。将来の法人化を考えている場合は、複式簿記への理解もある程度深める必要があるでしょう。