日本マクドナルドの創業者・藤田田(ふじたでん)氏の経営哲学を振り返ります。
その合理的な考え方は、今もなお、中小企業の経営に役立つもので、一読の価値があります。
説明のポイント
- 日本マクドナルドを成功に導いた名経営者・藤田田氏
- ベンチャースピリットの経営哲学を学べる好著
- その思想は時間を経過しても色あせていない
藤田田氏について
藤田田氏は1926年に生まれ、輸入商社「藤田商店」を経営し、「日本マクドナルド」「日本トイザらス」を創業して成功に導き、2004年に死去した実業家です。
よく知られている逸話としては、若かりしころの孫正義氏が藤田氏にアドバイスを仰いだという話が有名です。アドバイスを求める孫氏に対して、藤田氏は、コンピューターを学ぶように助言したということです。
孫氏はその後、コンピューターソフトの流通を手がけるソフトバンクを起業し、いまでは日本有数の大企業に成長しています。
この話のように、藤田氏は先見性のある経営者として知られています。
目を見張るその先見性
藤田氏の著書はいくつかありますが、読みやすいのは『勝てば官軍』(1996年)ですので、この本から同氏の経営哲学を考えます。
この著書『勝てば官軍』も20年前(1996年)に書かれたとは思えない、先見性のある予想が随所に見られます。いくつか挙げてみましょう。
- 消費者の欲しがらないものを作っているとして、製造業の衰退を予想している
- 金などコモディティを貯めることを提言している
- アジアにおける日本の地位の低下、中国・韓国の台頭を予想している
- 「頭の代わりをやる」企業の多数出現と、株価の高騰を予想している
ひとつひとつの内容は、確かに当時においてそのような分析があったのでしょう。
しかし、これらの予測を1996年の時点ですべて明言したわけですから、恐ろしいほどの的中率と言えます。
電機メーカーの凋落、コモディティの高騰、中国の台頭、グーグルというネット支配者の出現……いずれも後日すべて実現したことです。
中小企業に役立つ経営哲学
藤田氏の持つ先見性は、独自の経営哲学に裏打ちされた面があります。
その経営哲学に対する読み方は、読者のおかれている立場によって異なる面もあるでしょう。ここでは、中小企業に関わる立場として、役立つ考え方を著書から採りあげます。
1.数字に慣れること
まず藤田氏は、数字に慣れることの重要性を強調しています。
数字に慣れ、強くなることは、金儲けの基本なのである。もしも、金儲けをしたいと思うならば、ふだんの生活のなかに数字を持ち込んで、数字に慣れ親しむことが大切である。生活のなかでは数字とは無縁でいて、商売の時だけ数字を持ち出してくるのでは遅すぎる。(同書P33)
2.金もうけに対する考え方
また、金もうけについても、ストレートな意見を表明しています。
日本人は「金」というと、すぐに「きれいな金」か「汚い金」かという。金を儲けることを軽蔑する。しかし、そんな考え方が世界に通用しないことはいうまでもない。(同書P45)
3.経営プランは説明できるか
起業にあたり、自分の経営プランを説明できるかについても、その重要さを述べています。
わたしのところに、しばしば「金が欲しい。金を儲ける方法を教えてくれ。」という人が現れる。そういうとき、わたしは「いつまでにいくら欲しいのか」と質問する。ところが、たいていの人は、その質問に答えられない。儲けたいという気持ちはあっても、自分のおかれている状態や条件を分析していないからだ。しかし、そういうことでは金は儲からないのである。(同書P56)
4.ビジネスは性悪説で
生き馬の目を抜く世界で生きてきた経営者ならではの哲学として、ビジネスは性悪説という立場をとることを主張しています。
人間の本性は「悪」だという立場をとる。そういう立場をとってはじめて、自分をプロテクトしてビジネスができるという信念をもっている。性善説や勧善懲悪はあくまで「水戸黄門」の世界で生きているフィクショナルなものであって、われわれの生きている現実の世界のものではないのである。(同書P98)
5.流れを読むこと、時間の使い方
さらに、流れの読み方と、時間の使い方も説いています。日本のマクドナルドを成功に導いた哲学がここにあります。
なにか事業を起こして、それが成功するか失敗するかは、「西欧化の波に乗っているか」「時間節約の方向に向かっているか」という、この二つのサーチライトで照らしてみることである。(同書P108)
新しい事業を起こしたとき、時間をうまく使うことによって、非常に短い時間で莫大な金を儲けるチャンスが生まれてきていることを意味している。(同書P112)
徹底した合理主義者
徹底した合理的な考え方を持つ藤田氏は、次のようなことも提言しています。
- 社員全員に簿記3級の資格をとらせる
- 外国語に強くなること
- 24時間気づいたことをメモをとる
- すべての書類は1週間で捨てる
- 名刺よりも話題を出せ
- アイデアに金を惜しむな
- 「金の卵」をさがすより教育して戦力とせよ
- 役所の肩書きを持つな
- 学歴と世襲制度は日本の癌
- ビジネスは朝令暮改でいけ
- 日本人は短期的なものの見方しかできない
- いいものであれば必ず売れるというわけではない。ものにはタイミングというものがある
ハッと気付かされるような項目がひとつはあるのではないでしょうか。いまの著書ではなく、1996年の著書ですよ。まさしく、ベンチャースピリットを感じます。
まとめ
ベンチャースピリットのかたまりのような名経営者・藤田田氏の著書から、その経営哲学を紹介しました。
著書の内容について、すべての考え方に同意できなくても、絶大な実績を残した経営者の金言は、なるほどと思わせる部分があります。藤田氏が生きて語りかけてくるような迫力を感じる著書です。
藤田氏の教えは、例えば、このように考えられるでしょう。
- 数字は面倒だからすべて税理士に任せている →「金儲けの基本」から外れている
- 事業計画書を作成しない起業 →「金が儲からない」危険性あり
誰が読んでも何かを得られる名著として、目を通すことをおすすめします。