みりんについて、酒税にまつわる話をまとめます。「本みりん」と「みりん風調味料」との区別が分からない方は、一読の価値があります。
説明のポイント
- みりんは、もち米と米麹でつくられる「お酒」
- みりんの発祥には、国内説と舶来説の2種類がある
- みりん風調味料は、酒税がかからないようにつくられた「節税酒」で、味わいもまったく別物
みりんとは何か?
台所に必須の常備品である「みりん」。
みりんって甘いけれども、その調味料がいったい何でできているのかをよく知らない人もいるようです。
また、みりんはアルコールを含む「お酒」であり、酒税がかかっていることをご存じでしょうか?
この記事では、「みりん」について迫ってみます。
みりんの歴史
まず、みりんの歴史を振り返ってみましょう。
みりんが誕生したのは、今から500年ほど昔の室町時代。当時、高級酒として好まれていた甘い酒を造りだすために、焼酎の中に「もち米」 と「米麹」を仕込んだのが、その原形です。
南蛮渡来の蒸留技術と、日本古来の麹文化が出会って生まれたこのお酒は、密林酒、蜜醂酎などと呼ばれていました。今よりもサラリとしたほのかな甘さで、高級酒として珍重され、また、当時は手に入れがたかった砂糖に代わる高級甘味料として用いられていました。
みりんとは、もち米と米麹を原料としたお酒であることがわかります。また、歴史に見ると、みりんは「高級酒」であったとも書かれています。
また、坂口謹一郎著の『日本の酒』では、
味醂は古くは専ら舶来され、「異国の酒」「南蕃酒」として珍重されたが、織豊時代以後焼酎ができるようになってからは、わが国でも造られるようになった
と書かれています。
台所にふつうにあるみりんが、昔は舶来酒で、貴重なお酒だったわけです。みりんに対する見方がちょっと変わりませんか?
みりんは「日本民族が生み出した甘いリキュール」
私の使っている本みりんのラベルには、こんな文章が書いてありました。
ミリンは「日本民族が生み出した甘いリキュール」と呼ばれていました。
愛知県、三河地方では、疲れ休めの酒とされ、また料理にも使用され、農作業で疲れた体に滋養分を与える酒として欠くことのできない酒でした。
(戸田酒販 本みりん ラベルより)
みりんは「日本民族が生み出した甘いリキュール」とのこと。いいフレーズですね。昔の人にとっては甘味が貴重だったこともあるでしょう。
上記の資料から歴史を見てみると、日本独自のものとする意見と、舶来であるとする意見の2種類が見られます。いずれにしろ、米麹を使って、日本で発展したのが「みりん」というお酒、という認識でよさそうです。
みりんの甘さは砂糖によるものではない
みりんを舐めてみると、とても甘いことにお気づきでしょうか?
この甘さ、砂糖を混ぜているわけではありません。上記のとおり、昔は手に入りづらかった砂糖に代わる高級甘味料だったわけです。米麹が米をかもした甘さ、味わいです。
同じように「甘酒」についても、これも米麹がかもした味わいで、砂糖を混ぜているわけではありません。
この記事を書く前に、私宅の冷蔵庫にあった「本みりん」を飲んでみましたが、「かなり甘い」という印象です。例えていうなら、紹興酒に角砂糖を溶かせるだけ溶かしたけれど、口当たりはまろやか、というイメージです。
また、私が以前に飲んだ経験のある「九重櫻」は、どちらかというと焼酎的な風味のあるみりんでした。同じみりんでも、銘柄によっても味わいが異なるのが面白いです。
まさしく日本のほこるリキュールといえそうです。
同じようで違う「みりん」が存在する?
スーパーの調味料売り場に行くと、みりんの陳列棚には「みりん風調味料」というものが並んでいることはご存じでしょうか?
その一方で、「本みりん」という調味料も売っています。
この2つの調味料は、何が違うのでしょうか?
似たような調味料が2つあるのは、酒税法が関係しています。酒税法とは、お酒に関する法律です。ビールや焼酎と同じように、みりんもアルコールを含む「お酒」であるため、みりんを作るときには税金がかかっているのです。
その酒税を払っているのは、みりん製造会社ですが、酒税は販売価格にそのまま反映されますので、実質的にその酒税を負担しているのは消費者であるといえます。
みりん製造会社の説明によれば、「本みりん」と「みりん風調味料」の違いは、次のように説明されています。
本みりん
本みりんはもち米、米麹、醸造アルコール(焼酎)から作られた醸造調味料です。 アルコール分が13.5~14.4%含まれているため、酒類に属し酒税が課せられています。 糖分は約40%ぐらいを含みます。
(日の出みりん お客様相談室より)
みりん風調味料
みりん風調味料は、糖類を主原料とするアルコール分1%未満の甘味調味料です。 又、アルコール分を1%未満に押さえていますので、煮きる手間が省けます 糖分は55%以上を含みます。
(日の出みりん お客様相談室より)
2つを比べてみると、「本みりん」のアルコール分は14%程度である一方、「みりん風調味料」のアルコール分は1%未満とされています。
アルコールの含有量に明確な差が見て取れます。
「みりん風調味料」とは節税酒だった
有名酒造メーカーであり、本みりんのシェアNo.1という宝酒造は、もっと突っ込んだ説明をしています。
一番の違いはアルコール分が含まれているかいないかです。本みりんはアルコール分が含まれているため酒税がかかりますが、酒類にしたくないためアルコールを入れずに作ったのがみりん風調味料です。
みりん風調味料の存在意義は、酒類にしたくないためであると断言しています。
つまり、アルコール分1%を超えると酒税がかかるため、その酒税がかからないように工夫した商品が、みりん風調味料ということです。
いってしまえば、「みりん風調味料」は節税調味料ということです。
筆者は、みりん風調味料も試しに飲んでみましたが、まったく美味しいとは思いませんでした。風味はほどんどなく、甘いようで舌に何か残るような感覚をおぼえます。
これに比べて、本みりんは、とても甘いお酒という感じです。似たような名前の両者の間には、決定的な差があります。
ちなみに、ある有名な料理漫画では、主人公の新聞記者がみりん風調味料をボロクソに批判していました(笑)。
みりんの税率は?
本みりんにかかっている税率は、1キロリットルあたり20,000円とされています。1リットルあたり20円ということです。(参考:酒税の税率 : 財務省)
しかし、かつては1リットルあたりの酒税が約74円だった時代(平成元年の改正まで)もありました。(参考:【PDF】柴田忠、1989年)
現在の酒税では、みりんに重税感はありませんが、それでも「みりん風調味料」が売られ続けているのは、需要があるのでしょう。
近所のスーパーで確認してきたところ、本みりんが7種類に対して、「みりん風調味料」は2種類が並んでいました。
まとめ
みりんの歴史と、みりんに課される酒税を確認しました。また、その酒税を避けるために生まれたのが「みりん風調味料」であることもわかりました。
歴史的に見ると、甘味が貴重だった昔では、三河地方において栄養ドリンクの役目を果たしていたというのも、興味深い話です。
また、本みりんのアルコール分は14%程度あるのに比べて、みりん風調味料にはアルコール分がほとんど含まれていません。商品としてはほとんど別物といえるでしょう。