ビールのおいしい季節になりました。ビールを「税金」という点で見ると、お酒の中でも驚くべき高税率が課された「高級酒」といえます。ビールと税金にまつわる話を紹介します。
酒税とは?
お酒には、酒税という税金がかかっています。消費者になじみのある消費税は、値札やレシートで目に見えますが、酒税を一般の消費者が意識する機会はありません。
酒税は酒造メーカーが納税しています。つまり消費者が目にすることはない税金ですが、商品価格にしっかり上乗せされています。
店先にお酒が並ぶときは、酒税が商品価格に組み込まれていますので、実際に酒税を負担するのは消費者であるといえます。
ビールにかかる税金とは?
酒税の中でも、ビールは飛び抜けて税金が高いといわれています。それがよくわかる表やグラフを紹介します。
参考:発泡酒の税制を考える会「酒税に関する要望書」(平成27年8月)
▲上の表は、酒税の税率をあらわしたものです。
税率は1キロリットルあたりで決められています。右から2列目は、お酒に対する標準的なアルコール度数です。その度数で税率を割ると、アルコール分1度あたりの税率がわかります。
右から1列目が「アルコール分1度あたりの税率」です。この列を見ると、ビール類の数字が大きいことがわかります。ビールは、アルコール分1度・1リットルあたりで44円です。
棒グラフで他の酒類と比較してみましょう。下の図をご覧ください。
▲棒グラフにしてみると、ビールだけが高い税率なのは一目瞭然です。
日本酒(清酒)と比べると、5.5倍も高いです。税率から見れば、ビールは「高級酒」です。
ビール製造各社が、発泡酒や「第三のビール」の商品開発を進めたのは、ビールの税率が高いからです。味を工夫しながら税率を引き下げて、商品価格も引き下げようという企業努力の結晶が、発泡酒や「第三のビール」といえます。
ビールの4割は税金
ビールに含まれるアルコール分は、約5度です。「どれだけ飲んだら酔っ払うか」という観点で見たら、ビールは税金ばかり払うだけで、最も効率の悪いお酒ということになります。
実際に、どれぐらいの酒税を負担しているかを考えてみましょう。
先ほどの酒税をビール1缶(350ミリリットル)で見ると、酒税は77円です。これに消費税が上乗せされますので、販売価格から見るとビールの4割は税金です。
なぜビールの税率はこんなに高いのか?
なぜビールの税率は高いのでしょうか。
ビールに高い税率を課しているのは、もともとは舶来品だったことが影響しているといいます。舶来品はぜいたく品だから、高い税率を課しても問題なかった、ということです。
しかし、時代が変わる過程でその位置づけも変わるはずですが、ビールは税率改定の置き去りになってしまいました。
▲舶来品のイメージがあるウイスキーは、海外からの要請で税率引き下げになる一方で、消費量の多いビールが置き去りになっている様子がわかります。(発泡酒の税制を考える会「酒税に関する要望書」より引用)
前述のとおり、酒税は商品価格に組み込まれています。
その商品価格には消費税が上乗せされますので、消費者は、酒税についても消費税を負担しています。これを二重課税であるとして批判する声も多いです。
また、お酒という嗜好品に対して、過度の摂取を戒めるという罰則的な課税であれば、アルコール分を多く含有する酒類ほど高い税率であるべきです。
しかし、それとはまったく逆の状況で、ウイスキーや焼酎などのアルコール分が多い蒸留酒に比べ、ビールは、アルコール分約5度程度にすぎません。
麻生大臣の発言
ビールに課される税率の高さは、政府の閣僚が認めています。麻生太郎財務大臣の衆議院予算委員会(平成27年3月10日)の発言を引用します。
○麻生国務大臣 これは、一番騒ぎになるのはビールなんですが、理由は簡単で、一番税金の比率が高い。だから、ビールを外税で売ったら、まず誰も買うやつはおらぬだろうなと思うぐらい。あれは内税だからみんなだまされて飲んでいるんだよ。外税だったら、何だ、こんなに税金かよと思ったら、飲まぬよ、あんなものと思うぐらい高い、簡単に言えば。
したがって、ビールは何でそんなに高いんだといえば、これは、明治三年に初めて日本にビールが輸入されたときに、外国の酒として入ってきたものですから、以来ずっとビールというものは高い税率のままで今日まで流れてきたというのが背景なんですが、技術が進歩して、今言われたようにいろいろな形のビールが出てきて、発泡酒だ何だかんだ出てきたということになっているんだと思います。
麻生大臣は、歯に衣着せない発言で有名ですが、現職の大臣(しかも元総理)が「内税だからみんなだまされて飲んでいる」とは穏やかではありません。
ビールに問題のある課税が行われていることは、この発言からも明らかです。
まとめ ビールの税率は変わるのか?
▲平成26年度 酒税の課税実績(国税庁「酒のしおり」平成28年3月より)
上のグラフを見ると、酒税1.3兆円のうちにビールが占める課税額の割合は44%です。ビールの税率改定について国の腰が重いのは、この税金を手放したくないからです。
平成28年度税制改正大綱でも、酒税の見直しが今後の課題とされていました。与党は今後の税制改正で、ビール、発泡酒、「第三のビール」に分かれている税率を一本化する方針といわれています。
参考:酒税見直し先送りで、笑ったビール会社、泣いた会社(PRESIDENT Online、2016年1月12日)
ビールの税率を思い切って引き下げるのは難しいのかもしれません。
しかし、大臣も「だまされている」と認めるほどのビールの高い税率を考えれば、「高級酒」ではなく大衆酒にふさわしい見直しを期待したいところです。
参考文献
穂積忠彦著、水沢溪編著『地ビール讃歌―生きているビール酵母を飲む』(1998年)
三木義一『日本の税金 新版』(2012年)
参考:平成29年度税制改正 個人向けの改正情報【早わかり】(当サイト、2016年12月16日)