酒税の世界 ウイスキーは「9割まで混ぜものOK」という事実

酒税法におけるウイスキーの定義は、ちょっと驚くレベルです。9割まで「混ぜもの」OKという意外な事実をお伝えします。

説明のポイント

  • 酒税法におけるウイスキーの定義、9割は混ぜものOK
  • 熟成期間の定めもない
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ウイスキーの「現実」

最近、「週刊東洋経済」に興味深い記事が掲載されました。

参照「ジャパニーズウイスキー」の悲しすぎる現実 輸入モノが「国産」に化ける、緩すぎる規制(東洋経済オンライン、2018年3月)

記事の内容をかいつまんで述べると、ジャパニーズウイスキーの人気に焦点を当てつつ、日本で販売されているウイスキーの実態は、輸入したウイスキーの原酒も多いという指摘でした。

また、酒税法におけるウイスキーの定義について疑問視する声を紹介し、9割までブレンド用アルコールを混ぜてもウイスキーを名乗れる、という問題点を指摘する秀逸な記事でした。

一般的なウイスキーでいうと、原料は「モルト」または「モルト、グレーン」となっていることが多いでしょう。

しかし、日本の酒税法におけるウイスキーの定義はかなり「ゆるめ」になっており、「混ぜもの」を入れたものも、ウイスキーを名乗れる事実があるわけです。

酒税法におけるウイスキーの定義

酒税法におけるウイスキーの定義を見てみましょう。

  • イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの
  • ロ 発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの
  • ハ イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の百分の十以上のものに限る。)

ここでいう「イ」は、一般にモルトウイスキーであり、「ロ」はグレーンウイスキーとなります。

「イ」のモルトウイスキーは、大麦麦芽を発酵させて単式蒸溜器で蒸留します。

一方、「ロ」のグレーンウイスキーは、複数の穀類と麦芽を原料として糖化・発酵させて連続式蒸溜機で蒸溜します。(参考:サントリー[モルトとグレーン:2つのウイスキーが出会うとき]

さて、問題は「ハ」です。

「ハ」を読むと、モルトウイスキーやグレーンウイスキーに、ウイスキー以外のものを混ぜてもよい、とされています。また、かっこ書きの条件として、モルト・グレーンは総量のうちの10%以上入っていないとだめ、とされています。

これは、原料の9割が他のアルコールであっても、酒税法上「ウイスキー」を名乗ってよい、ということを意味します。

初めて聞いた人は、腰を抜かしそうな話といえるでしょう。

混ぜものウイスキーは存在する

では、実際に「混ぜものウイスキー」は存在するのかというと、存在しています。

先に述べた東洋経済の記事では、その「ウイスキー」製品の実名を挙げており、かなりアグレッシブな批判となっています。

現にその製品のラベルを見てみると、「モルト、グレーン、ブレンド用アルコール」と書かれています。このブレンド用アルコールが、いわゆる「混ぜもの」です。

ブランドもののラインナップを有するメーカーでは、こうした製品は提供されていません。

大衆酒を醸造している酒造メーカーのラインナップに、「混ぜものウイスキー」のような製品がみられます。当然のことですが、こうした混ぜものがどれぐらいの割合でブレンドされているのかは、公表されていません。

ちなみに酒税法で「混ぜもの」と聞くと、日本酒のイメージが強いでしょう。

一般に「純米酒」と書かれていない清酒には、醸造用アルコールなどが添加されています。これは、日本酒に興味のある人であればよく知っている話でしょう。

これと同じことが、ウイスキーの世界でもあるというわけです。

過去の酒税法はもっとひどかった

過去の酒税法をひもとくと、さらに恐ろしい定義だったこともわかります。

三木義一編『うまい酒と酒税法』(1986年)によれば、過去のウイスキーの定義はさらにゆるく、10%などという制限そのものが無かったとされています。

これはつまり、1滴でもウイスキー原酒を含んでいれば、あとは99.9%混ぜものでもOKだったわけです。

1滴のウイスキーに、焼酎(かつては焼酎もOKだった)を加え、カラメル色素で色付けすれば、旧酒税法が認める「ウイスキー」のできあがり……恐ろしい話です。

さらに、昭和43年までの旧酒税法では、ウイスキーを1滴でも入れるという制限すらなかったということです。

たんなる模造品も「ウイスキー」と名乗ってよかったということですから、酒を飲まなくても二日酔いになりそうなレベルの話です。

こうしてみると、いまの「10%」という制限も、本当にそれでいいのか疑わしいといえるでしょう。

熟成の定めもない

さきほどの東洋経済の記事では、各国の酒税法におけるウイスキーの定義を比較する表が掲載されています。

これを見るとわかるとおり、日本の酒税法では、ウイスキーについて熟成期間の定めはありません。ウイスキーというと、樽で熟成させているのが当然というイメージですが、税法の要件ではこうしたものが一切ないことになります。

スコットランドでは3年、アメリカでは2年とされていますので、日本の定義はずいぶんとゆるいことがわかります。

三木義一編『うまい酒と酒税法』では、過去の酒税法で「本格ウヰスキー」に3年の熟成期間の定めがあったものが、昭和28年の酒税法全文改正で熟成期間の定めがなくなってしまい、その理由も明らかでないと述べています。

また、戦時下に維持できた熟成期間の定めが、戦後に廃止されたことについても疑問を投げかけています。その後、60年間においても、熟成期間の定めがないままとなっています。

ジャパニーズウイスキーが国際的に評価を得るにいたっても、根本の税法が品質に厳しくないのは、信頼を失わせる結果につながるといえるでしょう。

まとめ

現行の酒税法におけるウイスキーの定義と、そこから見える問題点を挙げてみました。

記事の冒頭で紹介した東洋経済の記事が秀逸でしたので、このブログではそれを補足するものとして、酒税法の詳細と歴史をひもといた補足記事を書いてみました。

戦前戦後の原料不足の時代には、ゆるい定義が許されたことはやむを得ないとしても、「本物志向」が求められる現代では、「10%以上」という定義が許されるのかは大いに疑問です。

ウイスキーの人気で需要も増えているという現在では、その土台となる酒税法の定義がゆるいのは、やはり懸念をいだくところです。

ブームとともに需要が増えるならば、「混ぜもの」も当然に広がることが想定されます。例えば居酒屋で「ハイボール」を頼んだとき、そのハイボールは、私たちが考えているようなものではない可能性もあるでしょう。

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