相続税対策にとらわれることなく、不動産から収益を得る方法として、不動産投資信託(REIT)を紹介します。
説明のポイント
- 不動産投資信託(REIT)を紹介している
- 投資信託の保有で、不動産を共有しているのと同じ感覚
- 「相続税」対策にはならないが、分割しやすいため「相続」では有効
「相続税対策」にひそむ罠
ひところ、相続税対策というセールストークが盛んになりました。
とくにアパート建設業界では、相続税対策というセールストークが功を奏したことで、賃貸アパートの建設ラッシュがおきました。これで需要と供給のバランスが崩れたためか、空室率の急上昇が問題になっています。その点については以前の記事で触れました。
参考:空室率の急上昇。アパート投資による相続税対策は慎重な検討を(当サイト、2016年7月27日)
相続税対策といっても、デメリットを上回るものなのか?
実物の不動産を保有したり、賃貸に出せば、確かに相続税対策になります。相続税の計算のしくみをうまく利用した手法ですが、それが本当に相続の全体像を考えた対策だったのか、疑問符も浮かぶところです。
不動産投資のうち、とくにアパート投資は、次のデメリットが目立ちます。
- 物件を売却するのが難しい
- 相続時に分割しづらい
このデメリットを考えると、相続税対策によるアパート投資とは、税金の軽減のために「退却のできない戦い」を挑むようなものです。
アパート投資という相続税対策の手法は「過去にもてはやされた対策」です。人口減少社会に突入した現在では、よほど慎重に検討しないと、逆効果になりかねない危険性をはらみます。
不動産収益を得るだけなら、投資信託でも構わない
単に不動産収益を得るのが目的であれば、不動産の投資信託(REIT、リート)を保有することでも希望は実現できます。
一例として、六本木ヒルズで有名な森ビルがスポンサーとなっているREITを確認します。
▲(証券コード3234)森ヒルズリート投資法人(モーニングスター不動産投信情報ポータルより引用)
投資比率の3分の1を六本木ヒルズが占めるREITです。このREITを保有すれば、ヒルズに入居するテナントの賃料から諸経費を差し引いたものが、収益として分配されます。ヒルズの「1口オーナー」になったというイメージです。
このREITを買うのは難しくありません。株式の注文と同じように、証券コード3234を指定して証券会社で注文すれば、すぐにでも買えます。現在は1口、15万円程度で購入できます。
日本のREIT銘柄の一覧は、モーニングスターの情報サイトからご確認ください。
海外の不動産も保有できる
海外のREITも気軽に買えます。例えば、アメリカの主要なREITに投資するものがあります。「iシェアーズ 米国リート・不動産株ETF(ダウ・ジョーンズ米国不動産)」という名前で、証券コードは1590です。
▲iシェアーズ 米国リート・不動産株ETF(ダウ・ジョーンズ米国不動産)(ブラックロック・ジャパン)
これを買えば、世界最大の不動産市場であるアメリカの不動産を保有できます。ただし、実物ではないので、実感が乏しいのが難点です。
このように、日本のアパートにこだわらなくても、世界の物件から収益を得ることはできます。あやしげな海外投資の勧誘などに耳を貸さなくても、身近で海外投資のできる方法はあるわけです。
流動性が高く、分割もしやすい
REITは自分が実物の不動産を保有しているわけではないので、相続税対策にはなりません。
しかし、流動性が高く、いつでも売却できるのがメリットです。さらに、1口あたりの金額も低いため、相続時の分割もしやすいです。
- 一流の不動産や、世界の不動産から収益が得られる
- 面倒な管理の手間は一切不要
- 流動性が高く、すぐに売却できる
- 相続時の分割もしやすい
REITは、株式に比べて値動きが荒い傾向があります。しかし、実物の不動産でも、景気の変動によって値動きは発生します。REITはいつでも相場(時価)がわかりますが、実物の不動産は相場が表示されず、気にならないだけの違いです。
詳しいREITのしくみやメリットは、三井住友トラスト・アセットマネジメントの説明がわかりやすいです。
参考: REIT(リート)とは(三井住友トラスト・アセットマネジメント)
富裕層はREITを保有している
ここまでREITについて触れましたが、不動産投資を検討する富裕層にスポットを当ててみると、実はすでにREITを保有されていることも多いです。
これは、富裕層に関わりを持つ金融機関が、営業として投資信託の購入を勧めているためです。しかし、その実際は富裕層の方が内容をよく理解していないことも多いです。
REITという資産がよく理解されていれば、ここまでアパート投資に前のめりにはならないと考えます。「土地活用」や「相続税対策」ということばは、魔法の杖のように見えるのでしょう。
参考として、賃貸住宅を専門とするREIT「日本賃貸住宅投資法人」(証券コード8986)を紹介しておきます。ひとつの物件ではなく、複数の物件を同時に保有できるのも、REITのいいところです。
▲(証券コード8986)日本賃貸住宅投資法人(モーニングスター不動産投信情報ポータルより引用)
まとめ
相続対策、相続税対策の答えはひとつではありません。
その複数の選択肢がよく検討されず、土地活用ありきで「前のめり」の姿勢になっているのが、現在の空室率の急上昇(アパート投資の失敗)に表れているのだと感じます。
資産構成(ポートフォリオ)の一部にREITを組み込むことは、もっと検討されていいと考えています。