経済産業省の策定したガイドラインや、日本政策金融公庫のレポートから、中小企業における労働生産性を向上させるヒントを考えます。
説明のポイント
- 国際比較で日本企業の労働生産性は低いとされている
- 経済産業省のガイドラインは、「付加価値向上」と「効率の向上」をカギとしている
労働生産性が低いとされる日本企業
統計によれば、日本の産業における「労働生産性」は、他の先進国に比較して低いとされています。ここでいう「労働生産性」の意味は、労働投入量に対する生産量を表しています(参考)
▲全産業における労働生産性の国際比較(出典:経済産業省「2013年版通商白書」)
▲非製造業における労働生産性の対アメリカ比較(出典:経済産業省「2013年版通商白書」)
国際比較では、日本の労働生産性は低いとされており、日本の政府方針においても、その改善が掲げられています。
労働生産性(かせぐ力)を向上させるには?
労働生産性(かせぐ力)を向上させるには、どうしたらいいのでしょうか?
経済産業省は、2015年(平成27年)2月に、「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」を策定しました。このガイドラインでは、労働生産性の意味を、1人あたりが生み出す付加価値額としています。
また、生産性の向上を「付加価値向上、革新ビジネスの創出」と「効率の向上」の2つに分け、さらに9項目に細分化して、サービスの生産性向上の方法を提示しています。
- 新規顧客層への展開
- 商圏の拡大
- 独自性・独創性の発揮
- ブランド力の強化
- 顧客満足度の向上
- 価値や品質の見える化
- 機能分化・連携
- IT利活用
- サービス提供プロセスの改善
このガイドラインは、具体的な手法の解説と、実際の実例が掲載されており、自社を分析するツールとして活用できます。
参考:中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドラインを策定しました!(経済産業省)
具体的な方策は?
日本政策金融公庫は2016年(平成28年)8月に、非製造業である中小企業の労働生産性に関するレポートを発表しました。
参考:(PDF)中小商業・サービス業の現状と課題 ~労働生産性の向上に向けたポイントとは~(日本政策金融公庫、2016年8月18日)
日本政策金融公庫のレポートでは、中小企業の実例を検証しつつ、労働生産性の向上のポイントとして次の5つを挙げています。
- 顧客目線による事業展開
- 情報を足で稼ぎ、顧客ニーズを掴む
- 積極的な新規事業展開
- より求められるヒトの確保・育成
- 誰もが使いこなせるIT投資
1.顧客目線による事業展開
価格やコストが高くなったとしても、価格以上に商品の品質やサービスの水準を高めることが、顧客獲得やリピーターの増加につながるとしています。
2.情報を足で稼ぎ、顧客ニーズを掴む
顧客ニーズを掴むために、情報を待つのではなく、自社の顧客や地域に目を向けて、足で情報をかせぐ取り組みを重要としています。
3.積極的な新規事業展開
商業・サービス業は、製造業と比較して、新規事業に対する設備投資への資金負担が少なくすむといわれます。足でかせいだ情報をもとに、新規事業へも積極的に取り組む姿勢が重要としています。
4.より求められるヒトの確保・育成
商業・サービス業では、ヒトの問題が事業に与える影響がより大きいため、人材採用と、採用した人材の育成を工夫することが求められるとしています。
5.誰もが使いこなせるIT投資
事業展開がうまくいっている企業では、事業の効率化を図るために業務管理システムを導入しているものの、高価で高機能なシステムを導入している企業は多くないとのことです。誰もが使えるIT投資が必要としています。
国の方針は「かせぐ力」のアップにある
多くの中小企業は大企業と比較して労働生産性が低いものの、大企業を上回る中小企業の場合では、設備投資やIT投資に積極的であるとされています。(中小企業庁「2016年版中小企業白書」より)
2016年(平成28年)7月1日に施行された中小企業等経営強化法においても、経営力の向上が目的とされており、その中心となる方策は、中小企業の「かせぐ力」をアップさせることです。
付加価値の向上や、革新的なビジネスを始めることは、経営センスが問われる部分もあります。これらに比べて、経営効率の改善については、取り組めば一定の成果が出せる分野であると考えます。
IT投資については、どうしてよいかわからないために消極的な中小企業もあるようです。専門外の分野では、相談できる相手を探すこともポイントになるでしょう。
まとめ
労働生産性を改善するためには、企業のかせぐ力を高めることが重要とされています。
労働生産性というと、日本企業の「効率の悪さ」に注目が集まるようですが、企業の「かせぐ力」にも着目すべきでしょう。