「起業から5年で半分が廃業する」説の違和感と、否定する理由  

最近読んでいた書籍の中で、「起業から5年もつ会社は半分」「会社の生存率は5年で52.6%」と述べているものがありました。

起業や経営に興味のある方であれば、こうした言説を目にしたことも一度はあると思われます。ある意味では、起業を語るうえでの「テンプレート」になっているふしも感じられます。

しかし、これは本当なのでしょうか? この「起業から5年もつ会社は半分」説について、違和感を述べておきます。

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まえがき

この記事を書くにあたって、事前の下調べをインターネットで行ったところ、「起業から5年もつ会社は半分」説は、すでに多数の税理士や専門家が違和感を表明していることがわかりました。これは「起業 生存率」などで検索すればわかります。

あまりにも多数の記事があるため、そのブログの一つ一つにリンクを貼ることは難しいのですが、この記事は先達の意見に賛意を示しつつ、この記事をお読みいただいた方に、さらなる共感をいただく意味で書いています。

「起業から5年もつ会社は半分」の言説はすでに否定されている

「起業から5年もつ会社は半分」説については、この問題点を指摘する多数のブログを拝見したところ、「2006年版 中小企業白書」に掲載されているグラフが出典とされているようです。

このなかで「開業年次別 事業所の経過年数別生存率」というデータが示されており、その会社ベースにおける1年~5年経過後までの生存率を乗じていくと、5年経過時点では「52.6%」となるため、半分しか生存しない……と分析とされます。

しかし、このグラフの元データである経済産業省「工業統計表」の調査対象を見てみると、「「大分類E‐製造業」に属する事業所(国に属する事業所を除く)のうち、4人以上の事業所が対象」とされています。

つまり、対象は製造業に限定されているため、サービス業などでは、まったく関係のない調査といえます。

これ以外に、国税庁の統計が元という別のデータもあったそうですが、筆者は見つけることはできませんでした。出典の記載誤りの可能性もあるでしょう。

その後、「中小企業白書」では2011年度(第3-1-11図)や2017年度(コラム2-1-2②図)において、「帝国データバンクCOSMOS2」の統計が用いられており、これによると5年生存率は80%程度あることで、「起業から5年もつ会社は半分」の言説は否定的に見られているようです。

ただし、COSMOS2の調査は、起業後すぐに登録されるわけではないことに留意が必要とされています。

筆者の経験としての違和感

筆者はリーマンショックの直前に会計業界に入りましたので、その後の不況で苦境に立つ会社も目にしてきました。

しかし、過去の経験において、「会社が倒産した」という場面に出くわしたことは一度もありません。

起業した会社であっても、そんなにすぐに廃業するような場面は、お目にかかるのが難しいほどです。

これは、開業税理士としての現在の経験でも、同じことがいえます。

廃業ではなく、事業縮小や事業休止のような状態など、業績が厳しい会社は当然に存在するでしょう。それでも「起業から5年もつ会社は半分」などという、「修羅」のごとき世界観の表現には、どうしても違和感があります。

(※誤解のないように述べますが、「5年以内にたたむ会社がゼロ」という主張ではありません。たとえば飲食業は競争が厳しいので、固定客を獲得するまで資金繰りがもたず、すぐに閉店することも当然にあるでしょう)

個人開業、法人成り、不動産賃貸業は?

ひとくちに「起業」といっても、その形態は非常に幅広いものがあります。

 

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たとえば、サラリーマンが独立して、フリーランスとして個人事業主の開業届を出した場合では、自宅をそのまま事務所としていることもあるでしょう。

こうした場合は、看板も出しませんので、「事業所」としての統計調査の対象になりづらいはずです。

個人開業だけでなく、「社長だけの法人」は、どうカウントすべきでしょうか。

法人設立は、個人事業がうまくいった場合の次のステップと位置づけられている現状もあります。

これは、個人事業主では免税事業者(売上高が1,000万円未満)が多数いると推計されていることからもわかります。

この場合、個人の廃業率が高くなる一方で、法人の廃業率は「軌道に乗ったあと」ですから、当然に低くなるでしょう。

また、個人はお金さえ出せば、自分が好きな数だけ法人を設立することができます。「不動産1物件につき1法人」などは、その典型といえます。

こうした場合、法人の開業率をどのようにカウントすべきでしょうか。国税庁の統計では、法人の申告数をカウントしていますが、法人の数だけをもって実態を把握することは困難です。

起業の動向を把握するのは、その対象範囲をどのように考えるかによっても大きく変わることがわかるでしょう。

前述の帝国データバンクの統計は、こうした「ノイズ」を排除した点で、比較的信頼のおける実態といえるかもしれません。ただし、小規模企業が統計上除外されやすいのは、やむを得ない話でしょう。

逆にいえば、小規模で起業したケースなどでは、帝国データバンクの統計も当てにならない可能性も高いといえます。

個人的な感覚ですが、法人成りした小規模のサービス業だけに限ってみると、その生存率はかなり高いという実感です。

「起業後5年で半分廃業」なら、公庫は不良債権だらけでは

開業時の信用がない状態でも、融資をしようと努力する日本政策金融公庫は、起業直後ではまさにありがたい存在です。

ところが、もし起業後にうまくいかなくて「半分が廃業」するのであれば、開業を積極的に支援している日本政策金融公庫は、返済が滞る不良債権だらけになっている、と思われます。

この点、日本政策金融公庫の計算書類を読めばわかるとおり、貸倒引当金や、個別注記表に書かれている取立不能見込額を見ても、証書貸付に対する割合としては目立つほどではありません

つまり、多大な貸し出しリスクを負っている政府系金融機関であっても、割合としてはわずかながらの「焦げ付き」ということです。

この実態を見ても、「起業後5年で半分が廃業」という説には、やはり首をかしげざるを得ません。

まとめ

ここまで、「起業から5年で半分が廃業する」説の根拠と、これを否定する理由を述べてきました。

インターネットではすでに否定する言説が多数見られましたが、自分で調べないとわからないのがインターネットですので、この否定意見を広める意味で、当ブログでもあえて言及することにしました。

結論としては、「起業後5年で半分が廃業」という説は、その対象は限定的であり、これをもって全体を語ると事実誤認を広めてしまう可能性があるといえそうです。

「起業後5年で半分が廃業」という割合を聞いて、起業を思いとどまる人がいるかはわかりませんが、日本人はリスク回避思考の強い傾向にあることは間違いなく、こうした言説の流布も起業に対して微妙な影響を与えているかもしれません。

とはいえ、廃業率を気にするような起業であれば、そもそもやめたほうがいい、という厳しい意見もあるでしょう。