「セルフメディケーション税制」について説明します。これまで医療費控除に縁の遠かった人でも、今後は医療費控除が使えるかもしれません。
説明のポイント
- 2017年(平成29年)から、新しい医療費控除の特例が創設される
- 指定の医薬品の購入額が年間合計で、1万2,000円を超えれば使える制度
- ドラッグストアのレシートに記載された「★」マークに注目
医療費控除のしくみ
通常の医療費控除は、年間にかかった医療費の合計について、
- 10万円
- 所得が200万円以下の場合は、その「所得×5%」
という基準があります。この基準を超えた分を、医療費控除として所得から差し引くことができます。
医療費控除では、同居の家族分の領収書を合計できるため、同居する家族が多いほど、使用できる可能性も高くなります。
一方、ひとり暮らしの場合では、よほどの持病がない限りは、基準に満たない場合も多いです。(もちろん、医療費は少ない方が望ましいことですが)
セルフメディケーション税制という、新しい医療費控除
「セルフメディケーション税制」は、平成28年度税制改正で創設された新しい制度です。「医療費控除の特例」、「セルフメディケーション(自主服薬)推進のためのスイッチOTC薬控除」などとも呼ばれています。
2017年(平成29年)1月1日からの開始を控えて、制度の概要がまとまってきたようですので、情報を整理します。
どんな制度?
この制度は、国民が自分の健康に責任を持ち、軽度な体調不良は自分で手当してもらうことを目的に創設されました。乱暴にいえば、「軽度の風邪や花粉症ぐらいでホイホイ医者に行ってくれるな、医療費がパンクしそうだ」という、国の意図があるわけです。
具体的な制度はこうです。
個人が、指定の医薬品を購入した場合に、その金額が年間合計で1万2,000円を超える時は、その超える金額について医療費控除の適用が受けられます。
- 健康の維持増進・疾病予防の取組を行っていることが条件
- 同居の親族の分も合計してOK
- 8万8,000円を上限として控除できる(つまり、合計10万円の購入額までOK)
- 一般の医療費控除とは重複して適用できない
- 今のところ、平成29年1月1日から平成33年12月31日までの期間限定
1万2,000円を超えれば使える制度なので、これまでは医療費控除に縁のなかった人でも、今後は対象となる可能性があります。
どんな医薬品が対象になるのか?
この税制の対象となるのは、ドラッグストアで購入できる「スイッチOTC医薬品」です。
スイッチOTC医薬品とは、もともとは医療用だったもので、その後ドラッグストアでも購入できるようになった一般用医薬品をいいます。
参考:一般用医薬品等(OTC医薬品)の活用術(日本調剤)
セルフメディケーション税制の対象となる医薬品には、パッケージに「識別マーク」が記載される場合もあるようです。(メーカーの対応による)
対象となる医薬品は、アレグラFX、ガスター10、ロキソニンSなど、テレビCMでおなじみの製品も含まれています。これらの対象となる一覧表は、厚生労働省から公表されています。
参考:セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について(厚生労働省)の、「2 セルフメディケーション税制対象品目一覧」
レシートの記載事項に注目
次の情報が記載されたレシートが必要です。
- 商品名
- 金額
- セルフメディケーション税制の対象商品である旨
- 販売店名
- 購入日
小さい薬局のレシートでは、これらに対応できない場合も想定されます。この場合、手書きの領収書でも、必要事項が記載されていれば問題ないとされています。
レシートの場合、セルフメディケーション税制の対象商品であるかどうかは、
- 商品名の前にマーク(★など)をつける
- そのマークのついた商品が、セルフメディケーション税制の対象であることをレシートに記載する
とされています。
▲セルフメディケーション税制の記載のあるレシートの想定例(筆者作成)
2017年からは、ドラッグストアで買った医薬品のレシートに記載のある「★」マークに注目しましょう。
健康診断などをきちんと行っている人が対象
セルフメディケーション税制は、「健康の維持増進・疾病予防の取組を行っていること」が条件とされています。
具体的には、次の取り組みが該当します。
- インフルエンザの予防接種
- 市町村のがん検診
- 会社の定期健康診断
- 特定健康診査
- 人間ドックの健康診査、保険者が実施する骨粗しょう症検診、がん検診などの健康診査、特定保健指導を終了した場合、定期の予防接種(高齢者の肺炎球菌感染症の定期接種)
これらの取り組みを行っている場合、その領収書(原本)や結果通知表(コピー提出OKで検診結果部分は不要なので黒塗りする)を、確定申告書に提出します。
追記:平成29年度税制改正大綱において、医療費控除の適用を受ける際の要件変更が挙げられています。これによると、平成29年分からの医療費控除では、領収書を添付するのではなく、その領収書を集計した「明細書」の添付が要件とされる改正案になっています。セルフメディケーション税制においても同様です。
追記:申告後に本来の医療費控除に変更することはできない
このセルフメディケーション税制を適用して確定申告をした場合は、その後に、その確定申告を訂正(修正申告・更正の請求)して、通常の医療費控除に変更をしようとしても、その変更は認めないとされています。
また、逆のパターンで、通常の医療費控除で申告して、その後にセルフメディケーション税制に変更しようとしても、同様に認められません。
2017年7月に国税庁が出した通達で明らかにされています。
まとめ
新しい医療費控除の制度である、「セルフメディケーション税制」を紹介しました。
適用の条件にも書きましたが、きちんと健康診断を受けている人が対象になる制度です。
また、これまで医療費控除の適用にならないとあきらめていた人も、今後は、医療費控除が適用できる可能性があります。
ドラッグストアで買った医薬品のレシートは、「★」マークをチェックして、きちんと保管しておいた方がいいでしょう。