年金の一括受給で無申告加算税が課された非公開裁決(令和4年10月4日)について

「税のしるべ」に掲載された非公開裁決の紹介で、年金の一括受給をしたところ無申告加算税が課された事例があったことを以前の記事で述べました。

この非公開裁決の裁決書について、情報公開請求で取り寄せてみました。以下、新たにわかった内容と検討を書いておきます。

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令和4年10月4日非公開裁決

この記事では、高松国税不服審判所の令和4年10月4日付非公開裁決(高裁(所)令4第5号)を紹介します。

国税不服審判所の裁決要旨検索システムで表示した内容を転載します。

○ 請求人は、一括して受給した前年分以前の老齢厚生年金(本件各年金)について、法定申告期限までには、本件各年金に係る源泉徴収票を受領していなかったこと、法定申告期限には、本件各年金の額も確定しておらず、本件各年金が請求人名義の口座に振り込まれた日以後速やかに確定申告書を提出していることなどから、確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったことには、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由」がある旨主張する。しかしながら、請求人が法定申告期限内に確定申告書を提出できなかったのは、請求人の翻意により本件各年金を一括して受給する選択をした請求人の主観的な事情によるものであって、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認められないから、正当な理由があると認められる場合に該当するとはいえない。(令4.10. 4 高裁(所)令4-5)

ある程度の内容は、税のしるべでの要旨の紹介でわかっていましたが、ブログ筆者が微妙に気にしていたのは、無申告だった理由です。

話の整理

事例を簡潔に整理すると、次のとおりです。

  • 平成30年分から令和3年分について、老齢基礎年金は受給していたが、老齢厚生年金は受給を遅らせていた
  • 令和3年4月に退職した
  • 令和3年5月に年金事務所で老齢厚生年金をさかのぼり一括受給する裁定請求をした →7月に年金振込、訂正された源泉徴収票の送付を受けた
  • 令和3年8月に「令和元年分、令和2年分」について確定申告(期限後)をしたところ、令和2年分について無申告加算税が課された

無申告加算税が令和2年分だけ課された理由は?

疑問を覚えた点は、なぜ令和2年分だけ無申告加算税が課されたのか、という点です。

一括受給した正確な金額は黒塗りになっているので不明ですが、その黒塗りのスペースを見ると、一括受給した金額について平成30年分は「4桁」、令和元年分は「6桁」。令和2年分は「7桁」のように読めます。(あくまで筆者の推測です)

確定申告した「令和元年分、令和2年分」のうち、令和2年分にだけ無申告加算税が課されたのは、年金の受給額が理由と推測されます。他方、令和元年分は受給額がそれほど多くないために、無申告加算税の対象にならなかった可能性があります。

無申告だった理由は?

非公開裁決の別表を読むと、納税者の所得の内訳は「給与所得」と「雑所得」と記載されています。

給与所得者において確定申告が必要な場合は、

(2) 給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える
(例) 給与を1か所から受けていて、公的年金等による収入金額が80万円(65歳以上の方(昭和34年1月1日以前に生まれた方)は、130万円)を超える場合

引用:国税庁「確定申告が必要な方」

とあるので、年金収入が一定額以下であれば、確定申告は不要とされます。(所得税法121条①一)

この点を見ると、令和元年分と令和2年分が無申告だった理由が、一括受給する前の所得の状況において上記に当てはまったのかは、裁決書を読んでも黒塗りがあるため、正確な状況は不明でした。

あくまで筆者の推測ですが、一括受給の裁定請求をする以前の状況としては、裁決書に特段の事情の記載はなかったことから、給与所得については年末調整がされており、老齢基礎年金の受給だけだった(つまり年金収入は130万円以下だった)事情を考えると、確定申告は不要だった……という印象を持ちました。

当初は確定申告が不要だったとしても、その後の一括受給で申告が必要になったら?

上記の推測を前提とした考え方になりますが、「確定申告は不要」とされていたところを、一括受給によって確定申告の必要が生じたことで、無申告とされたのであれば、これはなかなか厳しい判断です。

裁決における審判所の判断では、「・・・本件裁定請求を行ったことは、請求人の翻意により本件各年金を一括して受給する選択をした請求人の主観的事情によるというほかなく、請求人が本件申告書を法定申告期限内に提出しなかったことに、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえない」とされています。

納税者の心情からすれば、一括受給前の源泉徴収票で所得状況を判断して申告をしなかったのに、裁定請求によって源泉徴収票が変更され、変更後の所得状況をもとに確定申告したら「無申告だったのはお前の都合」といわれてしまうと、さすがに厳しすぎる気もします。

あえて確定申告をしておけばよかった?

確定申告が不要だった場合でも、将来的に一括受給の可能性があるならば、あえて確定申告をしたほうがよかったのでしょうか。

所得税法121条1項では「・・・申告書を提出することを要しない」と書かれているわけですが、この場合でも、あえて確定申告をすることは問題ないと思われます。

期限内申告書を提出したあとで、その後の一括受給によって雑所得が増えたことで修正申告をした場合、自主的な修正であれば過少申告加算税はかかりません。これは以前に取り上げた記事で紹介した札幌地裁の平成27年7月15日判決では、修正申告による延滞税だけが争われていたことでもわかります。

これらを考えると、非公開裁決が示す問題への対応策としては、年金の受給を遅らせている場合で一括受給の可能性があるならば、確定申告が不要とされる場合であっても、あえて確定申告をしておくほうが無難である、という考え方もできそうです。

まとめ

年金の一括受給によって確定申告を期限後にしたところ、無申告加算税が課された非公開裁決を紹介する記事でした。

あとで一括受給をしたことは納税者の勝手な判断だから無申告加算税を課してもいい、といわれると、ちょっと厳しい気もします。

納税者としては、送付されてきた源泉徴収票で所得状況を判断するしかありません。受給を保留している収入までも考慮して、申告の要否を判断せよというのは厳しいように思われます。

無申告を防ぐ方法は、申告の必要がなくてもあえて確定申告をしておくことでしょうが、あくまで私見です。

年金の一括受給については、無申告加算税を課さない「正当な理由があると認められる場合」(通則法66条1項ただし書き)に含めてもよいように思いましたが、税制改正で手当すべきなのでしょう。国税当局への要望としては、年金に関する税の取扱いをもう少し丁寧に説明したほうがよいと思います。

状況が不明な点もありますので、あくまで推測を前提とした記事であることにご注意ください。

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