日本では「家事支援税制」は実現しないのか?

すっかり忘れ去られてしまった感もある「家事支援税制」の創設案について、思い出しのための記事を書いておきます。

説明のポイント

  • ハウスキーバーや保育士への支払いに対して税額控除を受けられる「家事支援税制」
  • 欧米各国では一般的な制度
  • 塩崎恭久議員が熱心に取り組んでいたが、現在は下火になっている
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「家事支援税制」とは?

家事支援税制とは、ベビーシッターやハウスキーバーを雇った場合に、その負担について所得税の減額を受けられる制度です。

簡単にいえば、家事や保育のお手伝いさんを雇うと、その費用の一部を税金で補助してくれるということになります。

日本では、この家事支援税制は存在しません。安倍総理の盟友として知られる塩崎恭久議員(元厚労相)が、かつて創設に向けて熱心に取り組んでいたことで知られていますが、実現しませんでした。

2014年における自民党の「日本再生ビジョン」では、次のように書かれていました。

「子育・介護支援税制」の導入により、家事・子育てに対する負担から働くことを諦めざるを得ない女性にとって、選択肢が増え、仮に家庭内労働サービスを活用するならば、キャリアを諦めないで済むなどの成果が期待される。また、子育て・介護の支援に当たっては、家事支援サービスに係る人材・品質の確保、利用者負担の軽減策の検討を進めるべきである。

共働きやシングルマザーであれば、当然のことながら、フルタイムで働くことで収入は増えるものの、家事の負担は相対的に重くなります。

そこで、「家事支援税制」が重要になります。

働ける現役世帯にたくさん働いてもらい、その一方で手薄になる家事は、ベビーシッターやハウスキーバーを雇うことで補うことができます。その補助をするのが家事支援税制ということです。

塩崎恭久議員は「家事は所得を生み出すための「必要経費」である」と述べています。(参考記事、2013年

欧米では一般的な制度

自民党の「日本再生ビジョン」(2014年)に掲載されている、欧米における制度の比較表(2013年1月現在)を引用します。

これを見るかぎり、家事支援税制は、欧米では一般的な制度ということができそうです。

この表で紹介されている国は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4カ国ですが、国によって制度の内容は異なっています。

 

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  • 世帯対象 …… 全世帯 または シングルマザー、共働き世帯
  • 子の年齢上限 …… 無制限 または 13歳~16歳
  • 主な対象費用 …… ベビーシッター、ハウスキーパー、保育士、託児所
  • 税額控除の上限 ……21万円~166万円
このほか、政府税制調査会(2017年6月19日)における海外調査報告の資料でも、スウェーデンに同種の制度があることが紹介されています。

実現が難しいのは財源が理由か?

人手不足の問題が解消しない現在では、日本でも家事支援サービスの活用が広がっていくことも想定されます。

世間的なニュースを見ると、すご腕のホームヘルパーさんが話題になっていることからも、その傾向がうかがえます。

それにもかかわらず、この制度の実現が難しいのは、財源の問題が主因でしょう。

上記の表のとおり、欧米と同じ規模の税制を創設しようとすれば、2,000億~4,000億円規模の財源が必要になります。

消費税の軽減税率を設ける一方で、その穴埋めとなる6,000億円の代替財源が見つからないことでもわかるとおり、なにか負担を引き下げる制度を設ければ、他の部分で別の負担が生じることになるわけです。「打ち出の小槌」は存在しないからです。

なお、日本では、自治体の「補助制度」として保育が支援されている面があります。ただし、それが充分といえるかは別の問題です。

また、支援を受ける働き手とベビーシッター等の産業育成について、全体としての支援効果があるかの検証も必要でしょう。

若い世代が関心を持つ必要がある

あおり立てるようなことをいうのは好きではありませんが、率直にいえば、こうした制度を実現するためには若い世代が関心を持つ必要があります。

「すでに子育てを終えてしまった世代」は、恩恵がない制度の実現には無関心になりがちだからです。

若い世代であれば、「男は仕事、女は家事をするのがあたりまえ」という価値観は、過去のものと一笑に付すのが当然でしょう。

また、シングルマザーはどうでしょうか。シングルマザーの貧困が問題となっていますが、財源を投入し、労働環境を改善することで、問題解決の一助になるかもしれません。

「もしシングルマザーになったらどうしよう……」という、心理的なリスクの軽減にもつながるはずです。

「専業主婦に家事・育児を押し付ける」という、過去のモデル・価値観が通用しない今では、こうした支援制度の拡充について、若い世代も関心を持っていく必要があるでしょう。

まとめ

現在はすっかり下火となってしまった「家事支援税制」の創設案について、思い出しのための記事を書きました。

このような制度を設ければ、労働環境の構造転換・価値観の転換に役目をはたすことが期待できそうなのですが、簡単には実現できないという事情もうかがえます。

関心のある方は、塩崎恭久氏の主張を読まれるとよいでしょう。

ドイツ在住者による家事支援税制の解説も参考になります。

筆者の個人的な意見も書いておきます。

現在の「配偶者控除」「扶養控除」「寡婦(夫)控除」といった家庭環境に関する控除を再整理し、教育費や家事支援といった「行動」に対して与える税額控除に一部の財源を転換することも一案ではないかと考えます。