平成29年分の確定申告で新しくなったところを発掘しています。今回は、医療費控除で、XML形式の医療費通知データを活用できる点をご紹介します。
今回の話はマニアックなので、おもに税務関係者向けの情報として載せておきます。
説明のポイント
- 「医療費のお知らせ」(医療費通知)は、XML形式のデータがあれば、書面の医療費通知の郵送は不要
- XML形式のデータ出力ができるかは、医療保険者の対応しだい
「医療費のお知らせ」が確定申告で活用できる
健康保険組合や、協会けんぽなどから送付されてくる「医療費のお知らせ」(医療費通知)というものがあります。
毎月送られきたり、年1回のところもあるでしょう。下記のサンプルは、協会けんぽの「医療費のお知らせ」です。
引用:平成30年2月に「医療費のお知らせ」を送付します(協会けんぽ)
そこで、まずいいニュースから。
実はこの「医療費のお知らせ」が、平成29年分の確定申告から医療費控除の集計で活用できるようになりました。
いままでは医療費控除には一切使えませんでしたが、平成29年分からは、医療費の明細書に合計値を記入し、その「医療費のお知らせ」を確定申告書に添付すればOKになりました。
領収書の束から1枚1枚、あくせく集計していたことを考えれば、これは画期的改善でしょう。
ただし、かなり微妙な落とし穴があります。
それは、6つの記載要件を満たしている「医療費のお知らせ」(医療費通知)だけが、確定申告で使えるということです。
この注意点については、以前の更新でお伝えしました。つまり、まだすべての「医療費のお知らせ」が使えるということではありません。
医療費のお知らせは郵送が必要、という残念さ
先ほど紹介した「落とし穴」以外にも、気になる点があります。
それは、書面で発行された「医療費のお知らせ」を確定申告に添付するときは、
- 確定申告書を紙で提出する場合
- 確定申告書をe-Tax(電子申告)で送信する場合
のどちらでも、税務署にその書面の「医療費のお知らせ」(医療費通知)を郵送する必要があるということです。この点も、以前の更新でお伝えしています。
医療費のお知らせを郵送しなくていい方法とは?
今回の情報は、これらの話を踏まえたうえで、理解できる情報です。
ここでは、「医療費のお知らせ」(医療費通知)を活用して、なおかつ税務署への郵送を回避するためにはどうしたらいいのか? という疑問に切り込みます。
結論からいいますと、「医療費のお知らせ」(医療費通知)については、XML形式のデータを用意できれば、税務署への郵送は不要になります。
この点は、国税庁が示したQ&Aでも触れられています。以下にQ&Aを引用しておきます。
引用:【PDF】「医療費控除に関する手続について(Q&A)」
これだけだと理解が難しいので、厚生労働省が作成した申告のイメージも引用しておきます。
出典:第16回 税制調査会(2017年11月20日)資料一覧(内閣府)
確定申告書の作成ソフトはXML形式に対応済み
所得税の確定申告書の作成ソフトにおいても、すでにXML形式の医療費通知に対応しています。
一例として、国税庁の公式ソフトである「確定申告書等作成コーナー」を見てみましょう。
「確定申告書等作成コーナー」のヘルプを見ると、たしかにその点についての記載が今年(平成29年分)から増えていました。
医療費控除の作成画面で、XML形式のファイルを読み込む選択肢が増えています。
一般のソフトベンダーでも対応済みのようです。筆者の手許にある、JDL製のソフトでも対応済みになっていました。
XML形式の入手は医療保険者しだい
ただし、この制度がスムーズに利用されるかというと、疑問です。
根本的な問題は、電子署名のついたXML形式の「医療費のお知らせ」(医療費通知)データを、健康保険組合などの医療保険者が発行できるかどうか? という点にあります。
その状況は、医療保険者のシステム上の都合によります。ご自分が利用している医療保険者の対応状況を確認しましょう。
なお、対応状況を網羅した情報は、現在のところ見当たらないようです。
XML形式の添付資料は確定申告で普及するか?
参考情報として、もう少しマニアックな情報を載せておきます。
「電子署名のあるXML形式のデータ」を確定申告書で利用するという話は、今回の医療費通知だけにとどまる話ではありません。
実は、よくご存知の「給与所得の源泉徴収票」についても、電子署名のあるXML形式のデータがあれば、紙の源泉徴収票は不要……という制度がすでに存在しています。(まったく知られていませんが)
その情報と、XML形式で電子署名のある源泉徴収票の具体的な作り方については、以前の記事で紹介しています。
ただし、この日本において、電子署名のある源泉徴収票のXML形式のデータを交付している会社がはたしてどれぐらいあるのか……?
この点から見ても、電子署名のあるXML形式のデータを確定申告において活用する、ということは、ほとんど行われていないのが実情といえるでしょう。
もしXML形式のデータがあれば、紙の源泉徴収票(原本)の内容を、確定申告書等作成コーナーに数字をすべて転記する、という「二度手間」は省けます。
これは、給与所得の源泉徴収票でも、医療費控除でも同様というわけです。
まとめ
「医療費のお知らせ」を税務署に郵送せずにすむ対応として、XML形式のデータを活用する方法をお伝えしました。
……そんなバラ色の夢を想像していましたが、データの発行者側ではシステムのバージョンアップが必要のようで、そんな簡単な話ではなさそうです。
そんな状況から、XML形式の医療費通知が利用できるかは、健康保険組合などの医療保険者しだいとなっています。
こうしてみると、この制度が幅広く利用されるのは、まだ先の話になるのかもしれません。
追記(2022/2/15)
令和2年度税制改正により、令和3年分の確定申告からは、医療費通知の書面であってもe-Taxでの送信であれば、添付省略となる制度に変わっています。