給与支払事務所の開設と「源泉所得税の納期の特例」の関係

前回の記事に続き、給与支払事務所の開設届について考えます。今回は、「源泉所得税の納期の特例」との関係にスポットをあててみます。

説明のポイント

  • 納期の特例の申請については、給与支払事務所を対象としている。給与支払事務所の開設届を出さない場合がありうるとすれば、納期の特例の申請に影響するかもしれない
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前回の記事のおさらい

前回の記事では、法人設立ワンストップサービスにおいて「給与支払事務所等の開設届」は提出「必須」のマークがついているものの、提出が不要な場合もあるというアナウンスがされていることを紹介しました。

前々回の記事に続き、マイナポータルの「法人設立ワンストップサービス」について触れてみます。今回は、「...

今回の記事では、「源泉所得税の納期の特例」は、給与支払事務所に関係している話を紹介します。

「源泉所得税の納期の特例」についての要件

まず、納期の特例の申請書について、内容を確認してみます。

この申請書を見ると、「次の給与支払事務所等につき、所得税法第216条の規定による源泉所得税の納期の特例についての承認を申請します」と案内されています。

引用[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請(国税庁)

せっかくなので、所得税法も読んでみます。

(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)
第二百十六条 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)又は第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者(第百八十四条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)に規定する者を除く。)は、当該支払をする者の事務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもの(給与等の支払を受ける者が常時十人未満であるものに限る。以下この章において「事務所等」という。)につき、当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、・・・(以下略)

納期の特例の適用を受ける対象は、給与・退職手当の支払をする者で支払事務を取り扱う事務所等である、と読むことができます。

「給与支払事務所等の開設届」を提出しない場合は、納特も不可か?

前回の記事で触れたのは、社長1人の法人でも役員報酬を支払うつもりがなければ、「給与支払事務所等の開設届」の提出は必須ではないかもしれない、という話でした。

その一方で、上記のとおり「源泉所得税の納期の特例」についての要件を見てみると、給与支払事務所が開設されていることが納期の特例の申請要件に読めます。

ひとつ気になったのは、216条(納特)の「当該支払をする者の事務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもの」と、230条(開設届)の「国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるもの」は本当に同一なのか、という点です。

この点については筆者の探した限りで、どこにも言及はなかったのですが、同じものであると理解してよいと思われます。

こうして考えてみると、納期の特例を申請するのであれば、同時に開設届を出してほしいといわれる可能性がありそうです。

実際に事例を目にしたことがないのであくまで予想にとどまる話なのですが、納期の特例の要件を読むと、そのように読めるということです。

そうはいっても給与がなければ、納期の特例の適用がなくても大した影響はなさそうですが、例えば税理士報酬については原則どおりで処理する必要があるでしょう。

給与支払なしでも「国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所」か

前回の記事で書きましたが、社長1人の法人で給与の支払いがなかったとしても、「国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所」に該当するのか、という点は微妙なところです。

その一方で、事業活動をしているが、役員報酬や給与を一切支払っていない法人について、「給与支払事務所」に該当しないとして廃止を求められたという話も耳にしたことはありません。

運用上のルールとして、「給与支払事務所」の該当性に関しては、実際の給与の支払いの有無も含めて厳密な判定をしていないように思われます。

よって、「給与ゼロ→給与支払事務所じゃない→納期の特例もダメ」という扱いも、運用上は行われていないと整理されます。

このため、法人を設立したならば、「給与支払事務所の開設届」を出しておき、あわせて納期の特例も申請しておく(ことが実務上の当然である)と理解されているのだと想像されます。

まとめ

給与支払事務所の開設届について、納期の特例の申請と関係する点があると思われるため、理解を整理してみました。

開設届を出さないとすると、納期の特例も適用できない可能性がありますが、実際の事例を目にしたことがないのであくまで予想に留まります。

給与がなければ源泉徴収の事務もほとんどないでしょうから、納期の特例の有無は大した影響ではないとしても、開設届を出さなかった場合のデメリットと整理できそうです。

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