温泉療養で医療費控除が受けられるという話は知られています。筆者は、温泉療養と医療費控除がさらに活用されることを期待するものの、それを阻害するような表現が流布していることにも気づきました。この記事は、そのような好ましくない表現への「戒め」を述べておきます。
説明のポイント
- 温泉療養における医療費控除の要件は極めて厳しいこと(全国21カ所の施設のみ、1ヶ月に7日間以上の利用、医師の証明書が必要など)
- 健康な人にとっての温泉は娯楽であること。「節税」という表現が興味を引きやすいことから、これらがあわさって興味本位の表現が生まれやすいこと
ここまでのおさらい
当ブログでは、過去2回の記事において、温泉療養と医療費控除の要件や、利用できる施設の具体例を紹介しました。
ここまでの記事を書いて気づいたことですが、温泉療養と医療費控除の関係については、ネットでもすでに多数の言及があるものの、誤解をされやすい表現も多数あるということでした。
この記事でこれから述べることは、他の記事を見て気づいたことの整理です。
温泉療養と医療費控除の今後の発展を考えたときに、今後も生まれるかもしれない阻害する表現を「いましめる」ことを意図しています。(偉そうですいませんが)
「温泉で節税」という表現の微妙さ
温泉療養と医療費控除の関係について述べるときに、「温泉で節税」「温泉に入って税が戻る」「おとくに温泉を楽しめる」というこれらの表現は、いずれも誤解をされやすい印象を持ちました。
アクセス数を稼ぐために、タイトルを刺激的にしたい!……その気持ちは、ブログを書く者であればわかります。そして「節税」という言葉は、ある種の魔法の杖のような響きがあります。
しかし、あまりにやりすぎると、制度への誤解を招く恐れがあることを懸念しています。
医療費控除は誤解されやすい制度
医療費控除は、とくに誤解されやすい制度です。考えてみればわかるでしょうが、「医者にかよって節税!」「薬をたくさん買って節税!」と喜ぶ人はいないはずです。
これらと並べてみれば、「温泉に行って節税」という表現が、違和感のあることに気づいていただけるでしょう。
治療費が出ているのですから、そもそも家計に負担がかかっているわけです。その負担を税の側面から補う制度が医療費控除ということです。
また、医療費控除という制度は適用のハードルが高く、年間合計で10万円以上の医療費がある場合に、その10万円を上回る金額が所得から控除となります(所得が200万円以上の場合)。
年間10万円という医療費の負担は、毎月に置き換えれば、月1万円以上の負担があるわけです。家計にかかる負担は無視できるものではありません。
もちろん、医療費控除をわざわざ申告すれば税金が減るから「節税」だ、という見方もできるでしょう。「節税」ということばをどのような視点で見るかにより、その意味も異なるように感じます。
ほとんどの温泉は医療費控除の対象外
そもそも前回の記事で書いたとおり、医療費控除の対象となる温泉地は、全国で21件にすぎません(2017年10月現在)。このため、日本の99%の温泉は、湯治しても税の戻らない温泉です。
また、医療費控除の対象となる施設を利用するためには、まず医師の証明書が必要ですし、証明書をもらったあとは、対象の施設に通って療養のプログラムの指導を受ける必要があります。
さらに、医療費控除に必要な期間は、1ヶ月のうちの7日間以上とされています。もはや気軽な温泉旅行などではありません。これはやはり医師の指導による「湯治」なのです。
これらを考えれば、とてもじゃないですが「温泉で税が戻る」などと表現するのは難しいでしょう。
なぜ温泉療養だけが誤解されるのか
こうしてみると、本格的な温泉療養は「治療」であり、負担もそれなりにかかることがわかります。さらに、気軽に利用できるものではなく、相当な手続きを踏む必要があることもわかるでしょう。
これらの負担を考えれば、「温泉で節税」という表現が妥当であるかは、かなり怪しいように思われるでしょう。
例えば、子供のアトピーがなかなか治らず、悩んでいるから、高い宿泊費などの負担を承知のうえで湯治に行くわけです。
医療費控除の対象となる温泉療養を受けられたとして、アトピー治療の患者に「温泉旅行をお得に楽しめてよかったですね(ニッコリ」といえるでしょうか?
ハッキリいって、馬鹿げている話でしょう。
なぜ誤解されやすい表現が生まれるのか
なぜ「温泉で節税」のような表現が出やすいのかといえば、やはり、温泉は健康な人にとっての娯楽でもあるためでしょう。
そのうえに、「税が戻る」という、人々の興味を引きやすいストーリーが重なります。誰だっておとくな話には興味があるはずです。
しかし、ここまで述べたとおり制度の条件は厳格であり、「温泉旅行にいって、税金も減るよ!」みたいなストーリーで話を組み立てると、その内実とまったく異なることになってしまいます。
「薬を買って節税」という話に違和感を覚えるならば、温泉療養でも「節税」という表現に違和感があることも、すんなりとご理解いただけるでしょう。
まとめ
ここまでの話を整理しましょう。
- 温泉療養における医療費控除の要件は極めて厳しいこと(全国21カ所の施設のみ、1ヶ月に7日間以上の利用、医師の証明書が必要など)
- 健康な人にとっての温泉は娯楽であること。「節税」という表現が興味を引きやすいことから、これらがあわさって興味本位の表現が生まれやすいこと
誤解のないように述べておくと、医療費控除を受けることに否定的なわけではありません。負担が大きい温泉療養について、医療費控除で少しでも税負担を軽減できれば、助かる話でしょう。
ここで指摘したかった問題は、そのような制度趣旨を曲解して、健康な人の視点から「おとくに」「節税」という表現をすることです。温泉療養における医療費控除の今後を考えたときに、阻害となる表現と考えます。