年末調整の電子化で、マイナンバーカードの普及は進むか?

いっこうに普及が進まないマイナンバーカード。政府は、あの手この手で普及策を考えているようです。税務の面から見ると、年末調整の電子化に連動して、企業が従業員に対してマイナンバーカードの取得を勧める動きがあるかもしれません。

説明のポイント

  • 年末調整の電子化は、従業員がマイナンバーカードを取得することを前提とした制度
  • 企業は従業員に、マイナンバーカードを取得するよう勧める可能性がある
  • 実務上の障害などを考慮すれば、申告書の提出は電子化されても、控除証明書はハガキが残る可能性もありそう
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令和2年における年末調整の電子化

前回の記事で、令和2年の年末調整の電子化と、企業が対応すべき事項をお伝えしました。

かいつまむと、従業員側では無料の「年調ソフト」を利用すればよいが、企業側ではその年調ソフトからのデータ提出を受け付けるシステムが必要となるので、対応は企業しだいということでした。

先日公開された「令和元年分 年末調整のしかた」によると、令和2年の年末調整の電子化に対応するためには...

こうした内容を考えるに、とくに従業員数も多い大企業で、年末調整の電子化が進むのでは? と予想しました。中小企業の場合は、給与ソフトの対応しだいといえそうです。

また、従業員が使用する年調ソフトは、マイナンバーカードの利用も想定されています。この点から、企業のかけ声で、マイナンバーカードの普及が進む可能性があります。

年末調整の電子化とマイナンバーカードの普及

2019年7月時点のマイナンバーカードの交付率は、13.8%とされています(総務省)。この交付率を引き上げるために政府がやっきになっていることは、よく知られています。

ポイント制度の導入や、2021年3月から健康保険証として使えるようになる(日経)など、なんとか日常生活にマイナンバーカードをまぎれこませようという施策が中心となっています。

ところで当ブログでは、年末調整の電子化が進むと、企業がマイナンバーカードの取得を勧奨することで、給与所得者のあいだでマイナンバーカードの普及が進むのでは……? と述べてきました。

つまり、実需の面からマイナンバーカードの普及が促進される可能性があります。このような経路が、本来的に望ましいかたちでのマイナンバーカードの普及のはずですが、あまり注目はされていないようです。

最近になって、年末調整の電子化に関する情報が明らかになりつつありますので、ここで整理してみます。

年末調整電子化と年調ソフト

まず重要なポイントとしては、国税庁ホームページにおいて、「年調ソフト(正式名称は年末調整控除申告書作成用ソフトウェア)」が2020年10月に提供されます。この年調ソフトは、従業員向けです。企業側に何か配られるものはありません。

従業員は、この年調ソフトをダウンロードしてパソコンにインストールします。そして、ソフトを通じて、会社に年末調整に関するデータを送信できます。

送信するデータですが、いままで紙に記入し、提出していた申告書の内容や、控除の証明となるハガキのデータを含みます。

従業員が使用するソフトと、受け付ける側の企業の給与ソフトをどのようにリンクさせるのか、その方法はまだ明らかではありません。

引用第24回税制調査会(2019年8月27日)資料

従業員は、控除資料をどのように入手し、提出するか?

ここでポイントとなるのは、従業員側の対応です。

保険料控除や住宅ローン控除を申請するにあたって、その内容をソフトに入力するためには、その証明となる「控除証明書」が必要です。

これは企業によって対応がわかれるところですが、年末調整の電子化になった場合においては、

  • 控除証明書のハガキを提出させる(いままでと同じ)
  • データで送信させる

の2通りの可能性がありえます。申告書はデータ提出となっても、控除証明書は保険会社などから受け取ったハガキのままの可能性もありえます。

もし、控除証明書をデータで提出させる場合は、その従業員が控除証明書を保険会社からデータで受け取っている必要があります。

そのデータを受け取るためには、年調ソフト(または民間のソフト)からマイナポータルへ接続するため、マイナンバーカードが必要となることが「令和元年度 年末調整のしかた」P.5に書かれています。

つまり、年末調整の電子化とは、従業員によるマイナンバーカードの取得を前提とした制度になります。

訂正:記事初出後に資料を読み直したところ、「マイナンバーカードの取得を前提とした制度」という表現はいいすぎでした。控除証明書の電子データの取得は、保険会社等から直接取得することも通常の手段として想定されているようです。

証明書の電子提出が原則、ハガキはやむを得ない場合の手段

とはいえ、申告書の提出はデータで受け付けるものの、控除証明書はハガキでの提出を容認する企業もあるでしょう。

この場合は、従業員は必ずしもマイナンバーカードを取得する必要はありません。

年末調整の完全電子化を目指す企業では、原則的な提出方法はデータです。

そして、従業員が控除証明書をハガキを提出することは「やむを得ない場合にのみOK」とされるでしょう。

マイナポータルを経由せずに電子証明書を受け取れるか?

マイナンバーカードは取得が面倒だから、いままでハガキをもらっているみたいに、控除証明書のデータを保険会社から直接もらえないか? という考え方もあるかもしれません。

マイナンバーカードが必要なマイナポータルを経由せずに、電子証明書のデータだけを取得したい、ということです。

この点について考えますと、現行(2019年時点)では、この方法が実現しています。2018年に実施された制度で、「控除証明書等の電子的交付」と呼ばれています。

具体的には、保険会社から控除証明書をデータで直接受け取って、これを年末調整や確定申告に使用することが可能です。

ただし年末調整においては、データ提出は想定されておらず、国税庁ホームページにおいて、データから控除証明書を印字し、紙で企業に提出させるしくみとなっています。(2019年の時点では)

2020年の年末調整において、マイナポータルを経由しなかった控除証明書のデータを、年調ソフトに組み込めるのかは、現時点では不明です。

年末調整の電子化が実現すれば、いままでのような直接受け取るルートは手間がかかりますので、いずれ廃止される可能性もあるでしょう。(マイナポータルで受け取ってくれ、ということ)

追記:控除証明書の電子データを保険会社等から直接取得し、年調ソフトに組み込むことも通常の取得方法となるようです。

証明書の電子提出は実務にメリットがある

控除証明書がデータであることは、企業側において次のメリットがあります。

  • ハガキの保管が不要になる
  • チェックの手間が不要になる(証明書データが計算の基礎になっているので、間違いはない)

紙の証明書がベースとなっている現在、給与計算担当者は、従業員の記入ミスをチェックしていますので、電子化によりチェックの手間を省ける可能性があります。

とくに従業員が多数いる企業では、年末調整業務の削減につながるので、控除証明書のデータ提出を原則とする動きもあるかもしれません。

まとめ

年末調整の電子化をとりまく状況を整理しつつ、と、マイナンバーカードの普及の可能性について考えてみました。

企業側で控除証明書のデータ提出を強制させる場合は、従業員もマイナンバーカードを取得せざるを得ず、必然的に普及が進むことになるでしょう。

しかし、年末調整の実務では「控除証明書とはハガキである」という固定観念は根強く、これが一夜にして価値観が変わるとも思えません。

また、保険会社や銀行は、その控除証明書の発行相手のマイナンバーを収集しないと、そのマイナポータルに控除証明書のデータを保存できないのでは……という疑問が浮かびます。このあたりの対応はまだ不明です。

もしそうであれば、「マイナンバーの提出なんか、めんどくせー」ということになり、動きがにぶくなるでしょう。

実務の対応を考えるに、完全電子化ではなく、申告書は電子化対応でデータ提出になっても、控除証明書はいままでどおりハガキになる可能性もありそうです。

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