毎年1月、各従業員への支払い給与を集計する「給与支払報告書」。面倒ですが、やっぱり提出しないとダメなんでしょうかね……? 不提出の場合の想定事例も考えます。
説明のポイント
- 給与支払報告書の提出は、法律上の義務
- 提出しないしわ寄せは、従業員に及ぶ
給与支払報告書は提出義務あり
もし一縷(いちる)の望みをかけて、検索してくれたひとがいたら、大変申し訳ないのですが、やはり給与支払報告書は提出する必要があります。
その根拠は、地方税法という法律に定められています。法律をひろい読みしてみましょう。
(給与支払報告書等の提出義務)
第三百十七条の六 1月1日現在において給与の支払をする者で、当該給与の支払をする……所得税を徴収する義務があるものは、同月31日までに……給与支払報告書に記載し、これを当該市町村の長に提出しなければならない。
……ということで、「提出しなければならない」ということが書かれています。
つまり、これは事業主としての義務ということです。
もしシカトしたらどうなりますか?
こう述べると、疑問に思われることがひとつあります。
「もし本当にシカトして出さなかったら、どうなるんだろう……」というワルの話。
この事例について検討してみましょう。
1.法律上の罪
まあ、ハッキリいって、不提出は「罪」ですよ。このブログでは、ほとんど使ったことのないワード「罪」。
「罪」というドギツい言葉を使うのには、それなりの理由があります。これは法律で書かれているからです。
地方税法をひろい読みしてみましょう。
(給与支払報告書等の提出義務違反に関する罪)
第三百十七条の七 ……提出すべき給与支払報告書……を提出しなかつた者……は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
……ということで、懲役刑または罰金刑が設定されています。まあ、ビビりますよね。ちなみに、ウソの給与支払報告書を提出した場合も、不提出と同様の扱いです。
なんでこんな厳しい扱いになるのかは、読み進んでいただくとわかります。
2.従業員への影響
給与支払報告書が不提出だった場合、その影響は従業員に及びます。
……というのは、住民税を課税する立場の市区町村は、従業員の給与所得を「給与支払報告書」で把握しているからです。
つまり、不提出であれば、市区町村にとってはその従業員が存在しないのと同じことになり、無給扱いになってしまいます。そして、従業員に本来納めるべき住民税が課されません。
このように、会社が給与支払報告書をサボると、従業員本人が意図しないところで税金の課税もれが発生します。
税金のとりっぱぐれが生じますので、給与支払報告書の不提出が「罪」にあたるのも当然といえるでしょう。
未提出の行き着く先は……
「給与支払報告書」を未提出だった場合に、行き着く先とは……。いったい、どうなるのでしょうか?
市区町村は基本的に給与支払報告書だけで状況を判断していますが、なんらかの理由で、不提出の事情を察知することがあります。
例えば、従業員が自分で確定申告をした場合は、不提出が確実に判明します。この場合、市区町村から「給与支払報告書の提出に関するお尋ね」が届くようです。
そのお尋ねに応じるためには、その時点から突然に、その従業員に対して住民税の徴収をしなければなりません。
それ以外にも、例えば従業員が自分の課税証明書を取得した場合には、その時点で住民税を納税していないことに気づくため、トラブルが生じます。
さかのぼって納税する場合、過去に負担すべきだった住民税は、従業員が負担するのか、会社が負担するのか……。考えただけで寒気の覚える話です。
こうした点から、会社がなんらかの手続きを怠っていたことが、従業員に判明することもあるでしょう。
その場合、会社に対する従業員の信頼が著しく失墜する、という結果を招くでしょう。
事務負担が重くても、やるしかない
事業主が給与支払報告書の提出をすれば、その従業員について、住民税の徴収・納付の手続きが必要です。
これらの事務負担が著しく重いことから、給与支払報告書の提出をサボるという事例も、無きにしもあらずと耳にします。
しかし、そのしわ寄せは従業員に及びます。給与支払報告書の提出は、事務負担が重くても、事業主の責任・事業コストと承知しておきましょう。
まとめ
給与支払報告書の提出について、義務であることと、不提出の場合にどのような結果を招くかを説明しました。
事務負担が重いのはわかりますが、法律上の義務とされていますので、提出するしか選択肢はありません。
なおこの記事は、会社の経営者向けに書いた記事です。もしあなたが従業員で、会社の給与支払報告書の未提出のトラブルを抱えている場合は、こちらの記事をご覧ください。