2019年12月20日に閣議決定された「令和2年度税制改正の大綱」より、気になるトピックスを採り上げます。
基本的な内容は新聞報道等で一覧できますので、このブログでは、そのような報道では紹介されない注目点を紹介します。
引っ越し後の振替納税の再申請が不要になる
今回は、引っ越し後に異動届を出せば、振替納税の再申請は不要にするという改正をお伝えします。個人の納税者向けで、法人には関係ありません。
大綱の記述
税制改正大綱の記述を引用します。
3 納税地の異動があった場合の振替納税手続の簡素化
振替納税を行っている個人が他の税務署管内へ納税地を異動した場合において、その個人が提出する納税地の異動届出書等に、その異動後も従前の金融機関の口座から振替納税を行う旨を記載したときは、異動後の所轄税務署長に対してする申告等について振替納税を引き続き行うことを可能とするよう、運用上の対応を行う。
(注)上記の改正は、令和3年1月1日以後に提出する納税地の異動届出書等について実施する。
これまでの経緯と解説
国税の納税方法における「振替納税」とは、いわゆる口座振替で納税する方法です。
これは個人の納税者のみで認められており、申告書を税務署に提出すれば、そのまま引き落としも自動で行われます。(書面の申告書を提出した場合でも対応可能)
ところが、もし引っ越しをして所轄の税務署が変更になると、面倒なことに、振替納税の再申請が必要となっていました。
東京国税局の管内では、納税者の引っ越しを把握した場合に「住居所の変更に伴う振替納税の再手続について」という文書を送付しているということです。
しかし、納税者が引っ越ししたかを税務署が完璧に把握することは難しいでしょう。
所轄の税務署が変更になると、振替納税が無効になってしまうという問題は、実務上次の点で問題がありました。
- 振替納税の再申請を忘れると、納付遅延になる可能性があること
- 振替納税の申請書類には銀行の届出印が必要で、手間がかかること
この点は、現時点の異動届出書の裏面に書かれている「留意事項」で触れられています。
参考:[手続名]所得税・消費税の納税地の異動に関する届出手続(国税庁)
このような事務負担は、税務代理を引き受ける会計事務所にとって、とくに神経を使う部分となっています。
口座振替の再申請が必要であるため、引っ越しをした納税者に対しては、つねに「紙ベース」の業務が発生する問題点がありました。
確定申告のあわただしい時期に、わざわざ金融機関の届出印をもらうという手続きは、かなりの業務負担になります。
当ブログでは会計事務所の視点から事務負担について注目していますが、申請を受け付ける税務署の事務負担もおそらく相当なものでしょう。
異動届で振替納税の継続を希望すれば、再申請は不要
税制改正大綱で示されたとおり、「納税地の異動届出書等」に振替納税の継続を希望すれば、再申請は不要となります。
当然ですが、この記事を執筆している時点(2020年1月)の異動届出書には、そのような記載はありません。
改正が実施される2021年1月以後の異動届出書には、「異動先の税務署でも振替納税を継続することを希望する」旨のチェック欄が追加されるのでは……と予想します。
参考:[手続名]所得税・消費税の納税地の異動に関する届出手続(国税庁)
異動届出書の存在は認識されているのか、という不安
税務に明るい人からすれば、「これで楽になるよね~」という話で一件落着に思えます。しかし、税務の知識に乏しい人にとってはどうでしょうか。
そもそもこのような異動届出書の存在を認識しておらず、もし引っ越しした場合でも、「前年とは住所の欄の記載が異なる確定申告書」だけを、引っ越し先の税務署に提出しているのが実情ではないでしょうか。
そう考えると、2021年1月以後においてこの異動届出書を出し忘れれば、やはり振替納税は継続されず、納付遅延の問題も発生することになります。
これは改正前の環境である、振替納税の再申請を忘れた場合の話と、さほど変化はないことになります。
この問題への対策を考えてみるに、e-Taxの「確定申告書等作成コーナー」において、異動届出書の作成・提出をあわせて可能とすることも一案と考えます。
具体的には、前年から住所が変わったことを尋ねるチェック欄を設け、その場合は、異動届出書も添付書類として作成させるしくみが有効となるでしょう。
また、個人の納税者向けには「届出書」を作成するコーナーも必要です。2019年には、e-Taxソフト(WEB版)において、届出書の提出が可能となる機能が追加されましたが、これは法人納税者のみの対応となっています。
個人納税者向けにも、WEBベースで届出書を簡便に作成できるコーナーが必要と考えます。
まとめ
個人の納税者が、引っ越し後に異動届を出せば、国税に関する振替納税の再申請は不要にするという改正をお伝えしました。
この改正は2021年1月以降の、所得税の異動届出書で対応される予定となっています。
令和2年度の税制改正大綱では、振替納税の申請方法について改正案が示されていますので、あわせてご参照ください。