今後の税務において新たな方法として影響が生じる、「民間送達サービス」と「マイナポータル」との連携について、現時点(2020年6月)でわかっている情報をもとに整理します。
説明のポイント
- マイナポータルにて「民間送達サービス」を連携させ、保険会社等の控除証明書等データを受け取る
- 控除証明書等データは、2020年10月から利用できる「年末調整ソフト」や、2021年1月からの確定申告書等作成コーナーで連携できる
- 「民間送達サービス」は、日本郵便「MyPost」と野村総合研究所「e-私書箱」の2種類が用意されている
「民間送達サービス」が税務に与える影響とは?
所得控除の証明書は、ハガキが当たり前でした。このハガキが、データ形式でも可能になり、年末調整や確定申告で活用しやすくなる方針が打ち出されています。
こうした方針を実現するために必要なのが、マイナポータルとの連携と「民間送達サービス」です。
民間送達サービスは、ネット上に用意された個人専用の「私書箱」です。重要な書類は、ネット上で受け取ることが可能です。
その重要な書類には、所得控除の証明書(データ)も含まれます。
そして、民間送達サービスをマイナポータルに連携させることで、控除証明書のデータを、税務ソフトに転送できるということです。
つまり、いままでのような「ハガキ→手入力」ではなく、「データ取得→自動入力」という手段に置き換わり、省力化が期待されます。
「民間送達サービス」が税務に活用される場面
税務の手続きにも影響を与えそうなわりに、これらの情報は、ほとんど目にしたことがないことが筆者は気になっていました。
そこで、恥をかく可能性を恐れず、現時点で出ている情報を筆者なりに整理しておきます。
現時点で、民間送達サービスとマイナポータルが税務に活用される場面は、少なくとも、次の2通りであることがわかっています。
1.年末調整ソフト
税務において、最初に活用される場面が、令和2年からの「年末調整ソフト」への対応です。
国税庁の案内でも、令和2年(2020年)10月以降において年末調整ソフトがリリースされ、このソフトを利用して、マイナポータルから「控除証明書等データ」を取得するものとされています。
引用:年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)(国税庁)
なお、国税庁公式の年末調整ソフトだけにとどまらず、同種の機能を持ったソフトが、民間の給与ソフトに連携するかたちで提供される可能性もあります。
2.国税庁「確定申告書等作成コーナー」への連携
個人向けの税務ソフトである「確定申告書等作成コーナー」においても、マイナポータルと連携できることがわかっています。
対応開始は、令和3年(2021年)1月からとされています。
引用:第24回税制調査会(2019年8月27日)資料一覧(内閣府)
民間送達サービスを活用するにはどうしたらいいのか?
これらを見てわかるとおり、税務の手続きにおいては、既存のハガキ方式のほかに、マイナポータル連携という「別ルート」が新設されます。
とくに「年末調整ソフト」を利用する場合に、経理向けの知識として、民間送達サービスとマイナポータルの連携を理解しておく必要がありそうです。
では、年末調整ソフトなどで控除証明書のデータを利用するためには、どうしたらいいのでしょうか?
国税庁「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」によると、次のように指示されています。
少し長いのですが、該当する問を4ヶ所、引用します。なお、理解しやすい順序で引用し、途中を省略しています。(原文はFAQで確認してください)
[問4-8]
民間送達サービスとは、民間企業が提供している、インターネット上に自分専用のポストを作り、自分宛のメッセージやレターを受け取ることができるサービスのことです。
あらかじめ受取人が本人確認を行い、差出人を登録して特定のお知らせを受け取ることができます。
また、利用者は、自身が利用するマイナポータルでは、民間送達サービスをマイナポータルに登録することで、マイナポータルを窓口として民間の送達サービスを利用することができます。
[問3-9]
マイナポータル連携により控除証明書等データを取得する場合、保険会社等に対しては民間送達IDの登録を行っていただく必要がありますが、手続の詳細については、年末調整の時期になりましたら、ご契約の保険会社等のホームページ等でご確認願います。
[問4-4]
マイナポータル連携により、控除証明書等データを自動取得するためには以下の準備が必要となります。
① マイナンバーカードの取得及び読み取り機器の準備
略
② マイナポータルの開設
略
③ マイナポータルと民間送達サービスの連携
マイナポータルから、「もっとつながる」機能を利用して、民間送達サービスのアカウントを開設します。
④ 保険会社等へ民間送達サービスのアカウントの登録
ご契約の保険会社等へ上記③の民間送達サービスの利用者IDを登録するなど、控除証明書等データが民間送達サービスに届くように設定します(具体的な方法については保険会社等や民間送達サービスにより異なります。)。
[問4-7]
年調ソフトのスマートフォン版についてはマイナポータル連携のための機能があるので、ご使用のスマートフォンがマイナンバーカードの読取可能なものであれば、マイナポータル連携を利用することができます。
これらを整理すると
- マイナンバーカードを利用してマイナポータルを開設する(スマホでも可能)
- マイナポータルの「もっとつながる」機能から、民間送達サービスとも連携する
- 民間送達サービスを利用できるかは、保険会社等の案内しだい
という理解になるでしょう。
逆にいえば、保険会社等が対応していない場合や、自分がマイナポータルや民間送達サービスを利用していない場合、控除証明書は従来どおりハガキで郵送されてくるものと考えられます。
参考:マイナポータルを活用した年末調整及び所得税確定申告の簡便化(国税庁)
マイナポータルと民間送達サービスを連携するには?
次に、マイナポータルと「民間送達サービス」の連携状況を確認します。
現在提供されている民間送達サービスですが、1つ目は、日本郵便が提供する「MyPost」です。
画面下は実際の「MyPost」の画面です。いまのところ対応しているサービスは、ゆうちょ関係ぐらいです。
2020年6月現在、控除証明書のデータを取得できそうなサービスは、まだ見当たりません。
もうひとつの民間送達サービスは、野村総合研究所が提供する「e-私書箱」です。
こちらも、2020年6月現在、控除証明書等データを取得できそうなサービスは見当たりません。(いまのところ、野村総合研究所の内部で行われているサービスのみ)
これらのサービスはいずれも、マイナポータルの「もっとつながる」機能から、アクセスできます。
つまり、マイナポータルと民間送達サービスを連携させることは今の時点でも可能ですが、2020年6月現在で使えるサービスは「まだない」状況といえます。
どうしたらデータが届くのか?
「MyPost」や「e-私書箱」との連携が完了したものとします。この先はどうしたらよいのでしょうか?
「MyPost」の場合は、「民間企業から選択」というところに、控除証明書等データを取得できる保険会社等が表示されるのでは……? と思われます。
「e-私書箱」の場合も、「つながる」により連携サービスを追加すると思われます。
どれぐらい活用されるか?
ここまでの理解を整理してみましょう。
従来のハガキ方式に加えて、マイナポータル連携による、データ取得という新たな手段が追加されます。
そのマイナポータル連携のためには、民間送達サービスを利用し、保険会社等から控除証明書データを受け取る手続きが必要となります。
データへの切り替えの手続きをしない限りは、従来どおりのハガキのままと考えてよいでしょう。
実のところをいうと、データ形式の控除証明書については、保険会社等から直接受け取る方法などですでに実現しています。(参考)
しかし、保険会社等のカスタマーサービスなどからデータを直接受け取るのは手間です。
このため、自動でマイナポータルに控除証明書のデータが保存され、そこから自動で申告書に内容が転記できる点を考えますと、マイナポータル連携にはそれなりのメリットもありそうです。
しかし、「マイナポータルの開設→民間送達サービスとの連携→保険会社等への承諾」という手間を考えれば、データを好んで選ぶ人は少ないようにも感じられます。
会社が書類の保管場所を削減したい意向から、年末調整の手続きにおいて、データ提出を原則とする場合もあるかもしれません。
この場合では、従業員はマイナポータル連携への対応が必要になるといえます。
そうはいっても、控除証明書のすべてがデータに置き換わるわけではないため、データとハガキは併用になっていくのでしょう。
まとめ
令和2年(2020年)の年末調整、令和3年(2021年)の確定申告で利用できるというマイナポータル連携は、どのように利用すればいいのかを、今の時点で確認しました。
とくに、年末調整ソフトではマイナポータル連携への対応がうたわれていますが、そのわりに「民間送達サービス」に関する情報は少ないです。
税務への理解を深めるために、筆者のお手製ですが、わかっている情報を整理してみました。
今後新しい情報が出てくるのは、2020年の後半からと思われます。