本人のものとは異なる利用者識別番号でe-Tax送信をしても、申告は無効とされる

e-Taxの送信にあたっては、申告する納税者の利用者識別番号(ID)が必要です。では、この利用者識別番号が別ものだったら、その申告はどうなるのか、という話です。

結論からいうと、正しい申告として扱われていません。

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申告後は受信通知の確認が必須、だが

数年前ですが、e-Taxのあとに「受信通知」を確認する重要性をお伝えする記事を書きました。

e-Taxで電子申告したあとは、必ずメッセージボックスの「受信通知」を確認し、データが正しく送信され...

確定申告の時期では、この記事はそこそこ読まれているようです。e-Taxが正しく送信されているかの確認の手段は、メッセージボックスに受信通知が届いていることを確認することです。

世間的にはこの点があまりよく理解されていないようなので、注意喚起のために書いた記事でした。

別の利用者識別番号で送信したらどうなるのか

しかし、たんに漫然と受信通知を見ただけでは、危ないケースもあります。それは、納税者本人とは異なる利用者識別番号で申告書データを送信をした場合、どうなるのかということです。

結論からいうと、その申告は無効とされている裁決事例があります。「税のしるべ」電子版(2020年3月25日)で掲載された非公開裁決で、その内容が紹介されています(読者限定)。

事例をかいつまんで説明すると、税理士が法人の納税者から依頼を受けてe-Taxで申告書データを送信したときに、納税者の利用者識別番号ではなく、税理士の利用者識別番号で送信しました。

具体的には、税理士の利用者識別番号を誤って、代理人ではなく納税者の番号として送信したとのことです。結果として、この申告は無効として扱われています。

申告期限後に納税者の利用者識別番号を取得し、改めて送信したところ期限後申告とされたことから、審判所に請求がされたものです。

国税不服審判所の裁決要旨検索システムで表示された内容も転載しておきます。

○ 請求人は、請求人の関与税理士(本件代理人)が本件代理人の利用者識別番号(代理人利用者識別番号)を付して行った国税電子申告・納税システム(e-Tax)による法人税の申告(本件申告)について、①請求人はe-Taxの受付システムから適正に電子申告の受付があった旨の記載がある電子メール(本件受信通知)を受領しており、本件受信通知は、書面により確定申告書を提出した場合の収受印と同様の効果があるから、本件申告は法定期限内に適正にされていること、②代理人利用者識別番号で本件申告をしてもそのデータの送信時に送信エラーが表示されなかったために再送信ができず、また、送信エラーが確認できていれば、すぐに訂正して法定申告期限内に申告することができたのだから、仮に本件申告が期限後であると判断されたとしても、これは「特別な事情」に該当することから、原処分庁が行った青色申告の承認の取消処分は違法又は不当である旨主張する。しかしながら、①本件代理人が送信した当該データは、その利用者識別番号が代理人利用者識別番号であることから、当該データの送信をもって、請求人の法人税の確定申告書が法定申告期限内に提出されたものと認めることはできず、②本件代理人が代理人利用者識別番号を付して本件申告をしたことは、直接的には本件代理人以外の者の責に帰すべき事情でない以上、請求人は、本件代理人に申告を委任しているのだから、その責めに帰することのできない客観的事情はなく、「特別な事情」があるとは認められない。(令元.5.9 東裁(法)平30-134)

なぜ他人の利用者識別番号を用いてもダメなのかについては、国税情報技術利用省令4条~6条が根拠とされています。利用者識別番号の入力が申請者本人であることを明らかにする措置であるためとのことです。

番号誤りの事例は以前から注意されている

税理士のあいだでは、かねてから誤った番号で送信してしまうミスについての注意喚起がされています。(参考東京税理士会「情報通」2014年5月号

とくに税理士は、多数の納税者から依頼を受けており、多くの利用者識別番号を管理する必要があるため、誤送信のリスクにさらされています。

以前の記事で「受信通知は確認必須」と書きましたが、今回紹介したように、番号を取り違えた送信の場合でも、受信通知はきちんと受け取っていました。

しかし、受信通知を受け取っていたとしても、それが正しい手続きかは別の問題です。正しい利用者識別番号を用いて送信されていることも必要です。

誤りに気づくためには、受信通知が届いていることの確認に加えて、利用者識別番号と氏名(受信通知と申告書データの記載)を照らし合わせてきちんとチェックすること、といえそうです。

まとめ

e-Taxで利用者識別番号を別のもので送信しても無効とされる、という事例を紹介しました。

同業のミスを採りあげるのは心苦しいのですが、同じようなミスが今後起こらないようにするにはどうしたらよいのかという検討のために、あえて採りあげました。

次回の記事もe-Taxにおけるトラブルを紹介する予定です。

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