【注意】年末調整ソフトを無視するのは危険 担当者は早期の知識習得を

2020年(令和2年)における年末調整は、「年末調整ソフト」が提供されることにより、その実務も変化が予想されます。この動きを無視すると、実務に差し支えが出る恐れもあるため、警告の意味で記事にします。

説明のポイント

  • 給与担当者は「年末調整ソフト」の知識を事前に持っておき、周知につとめる必要がある
  • 自社における対応の事前策定が必要で、対応を放置すれば、混乱に直面する可能性あり
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給与担当者は「年末調整ソフト」を無視できない

2020年の年末調整におけるビッグイベントは、「年末調整ソフト」の提供にあるといえます。

国税庁は、この年末調整ソフトの提供を含めた改善を「年末調整手続きの電子化」と呼んで、情報周知を始めています。

参考年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)(国税庁)

国税庁の推進する「年末調整手続きの電子化」を無視して、従来どおりの年末調整の処理をすることも、もちろん可能です。

しかし、会社の給与担当者が無視しても、従業員が独断で年末調整ソフトを利用して、扶養控除等申告書などを提出してくることは、当然にありえます。

なぜなら、年末調整ソフトは、国税庁が無料で提供するためです。そして、こうしたソフトが提供されていることも、マスコミなどで周知されることでしょう。

このことから、給与担当者が好むと好まざるとに関わらず、この電子化の動きを無視することは、事実上不可能であるといえます。

ところが、こうした変革が訪れるにもかかわらず、税務や経理分野での情報提供は、おおよそ活発とは思えません。

こうした点を危惧し、警告を発する意味で、給与担当者が直面する困難を考えてみましょう。

【1】見たこともない「扶養控除等申告書」の形式

まず驚くべきことは、年末調整ソフトから出力できる書類の形式は、国税庁が用意している扶養控除等申告書の標準様式とは、まったく異なるということです。

実際にサンプルを載せておきます。

以下は、試しに作成した、令和3年分の扶養控除等申告書です。

出典:国税庁「年末調整ソフト プロトタイプ版ver0.7」から書面印刷

上の画像は、扶養控除等申告書の1ページ目であり、実際は3ページほどの形式になっています。

すべてが1ページに収まる通常の扶養控除等申告書とは、すべてがあまりにも違いすぎます。

常識では考えられない形式ですが、「年末調整手続きの電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」(問5-24)では、この形式で問題ないことが明らかにされています。

もし、「年末調整手続きの電子化」の知識がない給与担当者が、この扶養控除等申告書を受け取ったら、どのように反応するでしょうか?

「こんなのは認められない!」と従業員に突き返せば、あとで恥をかくことは確実です。

会計事務所の担当者も、こういう扶養控除等申告書も今後ありうることを、事前の情報提供をしておく必要があるでしょう。

【2】「電子データで提出していいか?」と聞かれる

国税庁の広報のしかたや、年末調整ソフトのプロトタイプ版を操作していると気づく点ですが、「年末調整手続きの電子化」は、年末調整書類をデータ提出で回収することが目標とされています。

もちろん、データ提出に対応できるかは、会社の給与計算ソフトの対応状況という事情もあります。給与計算ソフトでインポートできない場合、データ提出は不可といえます。

また、税務署に事前の申請も必要ですので、申請をしていない場合は、データ提出も不可といえます。

データ提出を考えていない場合や、給与計算ソフトの事情などで対応できない場合、年末調整書類は「書面印刷による提出であること」を従業員にお願いしなければなりません。

ところで、年末調整ソフトを触って気づくのが、年末調整書類の標準出力の方法が「電子データで出力する」となっていることです。

これを書面提出してもらうためには、選択を「書面印刷」に変更します。

つまり、「電子データで出力する」という初期表示や、書面印刷した場合でも、同時に電子データを出力するチェックボタンが用意されていることを考えれば、もし何も周知をしていないと「電子データはどうすればいいの?」とすべての従業員から聞かれることは確実です。

そこで「え? 電子データってなんですか?」などと回答すれば、不勉強であると恥をかくことは間違いありません。

いままでどおりの年末調整をしたければ、事前に「書面印刷して提出してください。データはいりません」と周知徹底しておくことが必要です。

もし給与計算ソフトに利用できそうならば、手間は増えますが、書面(原本)と、パスワードなしのデータの両方を受け取る、という手もあるかもしれません。

筆者の私見ですが、データ提出を目標とする国税庁の姿勢に比べて、ほとんどの中小企業では腰が重い対応で、書面印刷が用いられるでしょう。

【3】データの控除証明書は添付されているか

年末調整ソフトでは、旧来のハガキによる控除証明書を手入力するほかに、マイナポータルから証明書データをインポートすることができます。(下画像)

これで危ういのが、控除証明書の回収が漏れるのでは、という懸念です。

従業員が、マイナポータル連携により証明書データを自動取得しても、会社が書面印刷による提出を求めている場合は、その証明書データを印刷して提出する必要があります。

これは、Q&A問3-15で触れられています。

控除証明書等を電子データで提供することができるのは、勤務先に年末調整申告書をデータで提供が可能な場合に限られますので、年末調整申告書を書面で提出する場合は、控除証明書等を電子データで勤務先に提供することはできません。
この場合は、保険会社等から受領した控除証明書等データを、e-Tax ホームページにある、「QRコード付証明書等作成システム」を利用して「QR コード付控除証明書」を作成の上、書面で出力し、勤務先に提出又は提示してください。

つまるところ、手間としては、従来型のハガキとさほど変わらないことになります。

証明書データをインポートして、年末調整ソフトに自動転記できれるのは楽です。その代わりに、「QRコード付控除証明書」を印刷する手間が増えます。(※印刷するには、「QRコード付証明書等作成システム」を利用する)

ここで考える危険とは、従業員が頑張ってマイナポータル連携を活用したものの、会社が書面提出を求める場合、「従業員の印刷すべき証明書データ」の添付が漏れやすいのでは……? という懸念です。

書面提出しか考えていない会社では、従業員には従来どおりのハガキを継続してもらった方が無難かもしれません。

まとめ

現時点でわかっている「年末調整ソフト」の仕様をもとに、今後想定される年末調整の危ない点を、早期に警戒が必要ということで注意喚起しました。

繰り返しになりますが、会社の給与担当者が「年末調整ソフト」の存在を無視しても、気の利いた従業員が自発的に利用してくることは、十二分にありえます。

こうなったときに、適当な回答ができなければ、恥をかくのは給与担当者です。また、周知が不足したために、あとで問い合わせが多数届き、現場に混乱が生じる可能性もあります。

給与担当者が自主的に勉強しないと、この変化に対応することは難しくなります。

会計事務所の担当者も、早めに年末調整ソフトのプロトタイプ版を触って勉強し、会社への情報提供に努めるべきでしょう。

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