e-TaxHP「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」は誤解を招く

国税庁は2020年7月1日、e-Taxホームページをリニューアルしました。スマホ向けを意識した画面仕様に変更されましたが、これにともなって、埋もれていたソフトである「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」がトップページに表示されました。

「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」は実務では無用のソフトですが、その意味を説明するための記事を載せておきます。

説明のポイント

  • 「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」は、国税庁が進めている「年末調整手続の電子化」とは一切関係ない
  • 源泉徴収票は確定申告書に添付不要となっており、ほとんど意味が失われている無用のソフト
  • e-Taxトップページに表示されたことで、誤解を招く可能性あり
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結論

まず、この記事の結論から述べます。

国税庁e-Taxホームページが2020年7月にリニューアルされました。

この影響で、トップページに「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」というものが表示されましたが、これは実務ではまったく使う機会のない、無用なソフトです。

とくに強調しておきたいのは、2020年10月から始まる年末調整手続の電子化」とは、一切関係ないということです。

この「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」を見ると、「XML形式の源泉徴収票を作成できる」と書いてあります。

このことから、過去の経緯をよく知らない人にとっては、なんだか国税庁が頑張って年末調整における電子交付の取り組みを促進しているように見えるかもしれませんが、そういう意味ではありません。

実務では使う機会のないソフトで、むしろ勘違いを及ぼす悪影響を考慮し、トップページに表示すべきではないと考えます。

源泉徴収票の電子交付と添付をめぐる過去の問題

なぜ上記の意見になるのか。順を追って説明します。

ややこしい話ですし、ハッキリいってつまらない話ですので、興味のある人だけお読みください。

1.2007年から源泉徴収票を電子交付できるようになった

給与所得の源泉徴収票は、原則として紙で交付します。

ところが、平成19年(2007年)1月以降は、源泉徴収票を電子交付することも認められるようになりました。

給与明細の電子交付が増えてきたため、これに対応して源泉徴収票も電子交付できるようにする制度改正だったと思われます。

2.電子交付の源泉徴収票を印刷しても確定申告書に添付不可

しかし、微妙な不都合がありました。電子交付された源泉徴収票を、従業員が自分で印刷して確定申告書に添付することは認められない、という不思議な制限があったためです。

電子交付されたものを従業員が印刷すると、改ざんの恐れがあるためでしょう。

このため、従業員が確定申告をする場合は、わざわざ会社から紙の源泉徴収票を交付を受けて、確定申告書に添付する必要がありました。

この不都合な制度は、当ブログで2016年に指摘していました。

会社からPDFなどで電子交付された源泉徴収票は、プリントアウトしても、確定申告に使うことはで...

しかし、こんな制限があるとは知らない人が大半だったことでしょう。

実際のところ、電子交付された源泉徴収票を自分で印刷して、確定申告で利用している給与所得者が多数であったと思われます。

つまり、「電子交付の源泉徴収票を添付できない」問題は、確定申告の現場においては、うやむやになっていた……と考えられます。

3.確定申告書に添付できる電子交付の源泉徴収票を作るツール

先ほど述べたとおり、電子交付された源泉徴収票を印刷して利用できない、とされているのは、改ざんの恐れがあるからです。

これに対して、改ざんできない電子交付の源泉徴収票を作成するためのツールとして、国税庁から提供されたのが「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」です。

つまり、「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」の存在する意味とは、確定申告書に添付できる電子交付の源泉徴収票を作成するためのものといえます。

4.公式の確定申告書等作成コーナーでも微妙な扱いだった

ところが、もし仮にこの電子署名のある源泉徴収票(XML形式)を、給与所得者(納税者)が受け取ったとしても、国税庁「確定申告書等作成コーナー」で利用することはなぜか想定されていませんでした。

これに対して「いやいや、XMLは添付できたでしょう」というツッコミがあるかもしれません。

たしかに、平成30年分までの「確定申告書等作成コーナー」では、源泉徴収票のXMLデータは「送信直前」に添付できました。(下記の画像を参照)

この「送信直前」というのがポイントで、給与所得を入力する段階でXMLを読み込むことはなぜかできず、給与所得(源泉徴収票)の数字は、どうやっても自分で手打ちする必要がありました。

つまり、XMLの源泉徴収票データを自動入力として利用することはできなかったので、電子署名済みの電子交付の源泉徴収票が手もとにあっても、入力のために紙の源泉徴収票も必要でした。

また、電子申告であれば、源泉徴収票の提出はもとから省略されています。

よって、なんのために電子署名のある源泉徴収票(XML形式)が添付できるようになっているのか、ほとんど、よくわからない状態でした。

5.だったら源泉徴収票を添付不要にすればいい!

話を戻しましょう。

先ほども述べたとおり、確定申告の現場では、大手企業の給与所得者を中心に、電子交付された源泉徴収票を自分で印刷して添付する……という微妙な状態が続いていました。

そして、この問題を一気に解決する改正が実施されました。それが令和元年度税制改正です。

この改正により、平成31年(2019年)4月1日以降に提出する確定申告書からは、給与所得の源泉徴収票については、確定申告に添付しなくてよい、という取扱いになりました。

すでに電子申告をしている人はもともと添付省略されていましたが、これに加え、確定申告書を書面提出をする人にとっても提出不要とされました。

平成31年4月1日以降に提出する確定申告が対象ですので、この記事の執筆時点から見て、前回の「令和元年分」である令和2年(2020年)3月提出の確定申告からは、添付せずにすんだ人がほとんどでしょう。

もちろん、提出不要であっても、確定申告書の作成に源泉徴収票は必要ですし、保存要件もありますから、源泉徴収票の重要性は今後も変わりません。

ところで財務省の解説を読むと、源泉徴収票が添付不要とされた理由は、

納税者の利便性の向上や行政の効率化の観点から、法定調書等により税務署が容易に情報を把握できる書類については、確定申告書への添付を要しないこととされました。

引用:財務省「令和元年度税制改正の解説」

という解説がなされています。

ここで述べたような、電子交付にまつわる過去の不都合は一切採りあげられていません。

6.こうして残ったのが「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」

ここまで長ったらしい説明を読んでいただければ、「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」の存在する趣旨はおわかりいただけたものと思います。

あらためて「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」の説明を読むと、

国税庁では、源泉徴収義務者等の方が容易にe-Taxで受付可能なデータ作成や電子署名を行ったデータの電子交付が行えるよう源泉徴収票等作成ソフトを提供しています。

と書かれています。

このソフトは、改ざんできない電子交付の源泉徴収票を提供する必要があったために提供されています

しかし、紙の源泉徴収票を従業員に渡せばそれで済む話なので、わざわざ手間を掛けて、電子署名のある源泉徴収票を交付する会社があったとも思えません。

そして令和元年度税制改正により、源泉徴収票は確定申告書に添付不要とされたので、電子交付された源泉徴収票について電子署名の有無は関係ないことになりました。

以上の長い話を一言で整理すると、実務ではもともと使われていませんし、今後も使われることはない、ということです。

むしろ悪影響を危惧する

今回、2020年7月の国税庁e-Taxホームページのリニューアルにともなって、「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」も、「ソフト」という区分からトップページに表示されることになったと推察します。

しかし、ここまで説明したとおり、これはもはや無用のソフトです。それどころか、誤解を招きかねない可能性があることを危惧します。

手軽に源泉徴収票を作成したいという人が勘違いしやすい

おそらく、このソフトに興味を示す人のほとんどは、Excelや手作業で給与計算をしており、年末調整において源泉徴収票を「それっぽい形式」で印刷して作成したい場合であると思われます。

ところが、名前も誤解されやすい「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」は、あくまでXML形式の源泉徴収票を作成するためのものですから、源泉徴収票を印刷して利用することは想定されていません。

大半の人はインストールしてみて、意味がわからずに途方に暮れて、諦めているのではないか……と推察されます。

e-Taxホームページのトップページに表示することは、メリットよりもデメリットの方が大きいと考えます。

しかもこのソフトは、ブラウザのセキュリティを、推奨よりも引き下げる操作が必要とされており、下手をすると危険です。参考

利用後はセキュリティのレベルを戻すように書いてありますが、そのような取扱いがきちんとなされるとも思えません。

「年末調整手続の電子化」とも関係ない

2020年において国税庁は「年末調整手続の電子化」を推進しています。国税庁が「年末調整ソフト」を配布し、いままで手書きベースだった年末調整書類の作成を、データ作成に切り替えることを促す措置です。

これに対して、2020年7月に「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」という無用のソフトがトップページに表示されたことで、なんだかこのソフトも関係ありそう……という勘違いを生むのではないかと危惧します。

源泉徴収票は年末調整で作成するものですし、「XML形式の源泉徴収票を作成」という電子交付っぽい意味合いが混じれば、誤解を招きかねないからです。

まとめ

e-Taxホームページのトップページにおいて表示された「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」について、その経緯と意味をお伝えしました。

強調しておきますが、「源泉徴収票等作成ソフトダウンロードコーナー」は、現在国税庁が進めている「年末調整手続の電子化」とは一切関係ありません。

突然国税庁e-Taxホームページのトップページに表示されたために、目新しいソフトのように見えますが、実は過去から提供されていますし、いまとなっては無用のソフトといえます。

むしろトップページに表示することで、誤解や悪影響を招く恐れを危惧します。

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