「士業の2箇所事務所 禁止規定」撤廃主張の唐突感

今年(2020年)6月ですが、新経済連盟が公表した資料において、士業における「2箇所事務所禁止規定」の撤廃を求める主張が見られました。

すでに半年近く前の話で、いまさら蒸し返すのもなんですが、個人的には微妙に気になる話だったので、念のため確認しておきます。

説明のポイント

  • 2020年6月、新経済連盟ホームページで公表された資料に、士業の「二箇所事務所禁止規定」について撤廃を求める内容があった
  • 意見や議論が拙速すぎるのではないかという懸念

新経済連盟で公表された資料

2020年6月、新経済連盟のホームページにて、「【プレゼン】自民党「行政改革推進本部 経済構造改革ワーキンググループ」にて、「コロナ問題を契機とした労働法制の見直し等」について要望しました」というタイトルの記事がアップされました。

この内容を見ると「労働法制の見直し」ということが書かれています。しかし、アップロードされている説明資料を読むと、その多くで士業の「2箇所事務所禁止規定」についての説明に割かれていることがわかります。(全17ページ中、7ページで言及)

資料を未読の人は、まず各自で読んでもらうとして、この記事では、この主張に関して筆者が覚えた微妙な違和感を述べてみます。

なぜ違和感を覚えるのか?(筆者の意見)

まず、次の説明をご覧ください。

・税理士事務所などの士業は2箇所以上の事務所を設置することができない。
この制限はテレワークの阻害要因になっている。
・士業団体で出せる指針は抽象的で限度がある。禁止規定はやはり撤廃すべき。

……この主張を読んだ感想はいかがでしょうか。

一見すると、税理士会のような士業団体が、士業の法制度の改正を訴えて主張しているように見えるかもしれません。

しかし、実際のところ、これらの主張をしたのは経済団体の「新経済連盟」です。

筆者の知るところでは、日本税理士会連合会を初めとして各地の税理士会を含めても、これらは新経済連盟には加盟していないと承知しています。

では、そんな新経済連盟が、なぜここまで税理士などの士業に「肩入れ」をして、二箇所事務所禁止規定の撤廃の主張をしているのでしょうか?

これだけを見ると、微妙な違和感を覚えるところでしょう。

各士業団体への申し入れはあったのか?

通常、制度改正を求めるのであれば、まずは当事者である士業団体への申し入れや、意見交換があってしかるべきでしょう。

しかし、これらの新経済連盟の資料を読む限りでは、そのような形跡があったのかはうかがい知れません。

少なくとも資料からわかるのは、税理士に対してアンケート調査を実施したという「一部の意見」をもとに問題を抽出し、制度変更を主張しているということです。

規制があるには、それなりの理由がある

士業の「2箇所事務所禁止規定」については、それなりの理由があって設けられている措置であると承知しています。

それは、税理士が税務を独占しており、高い信頼性が求められるからであると考えます。

「規制緩和」という言葉の響きを聞くと、まるですべてが「いいこと」のように聞こえてしまうのですが、なぜその規制が設けられているのか? という経緯も踏まえたうえでの議論が必要のように感じます。

また、資料では社労士の事例で、サテライトオフィスの事例が採りあげられていますが、テレワークとサテライトオフィスは、切り分けて考えたほうがよいと感じます。

Q&Aは「抽象的」で「萎縮」が生じているのか?

私見ですが、税理士会から公表されたテレワークに関するQ&Aは、当面の措置としての疑問を解決しているように感じます。

「Q1 開業税理士が、登録している事務所所在地とは別の自宅で税理士業務を行う場合、税理士法上の問題点・留意事項はありますか?」(※一般には公表されていないので、タイトルのみ掲出します)を読めば、開業税理士としてはおおむねの疑問は氷解するはずです。

新経済連盟の資料では、自宅でテレワークをすることにおいて萎縮効果が生じる懸念があるとされています。

しかし、筆者の例でいえば、私もクラウド会計を使って、事務所以外の自宅でも当たり前に仕事をしていますが、「萎縮」など考えたこともなくのびのびと仕事をしています。

なぜ新経済連盟の意見が「拙速」だと感じるのか

2019年12月に日本税理士会連合会ホームページで発表された「次期税理士法改正に関する答申」を読むと、「税理士事務所における内部規律や内部管理体制を整備し、テレワークに関する指針を設けること」という意見が整理されていました。

つまり、実際のところコロナの問題にかかわらず、税理士会もテレワークについては当初から問題意識はあったわけです。

こうした経緯を無視して、「2020年コロナ流行→テレワーク対応が必須→Q&Aが出たけど抽象的→法令の二箇所事務所禁止規定は撤廃すべき」という主張は、どうしても拙速なように感じます。

新経済連盟の資料は、自民党行政改革推進本部 経済構造改革ワーキンググループにて説明したということらしいのですが、少なくとも、当事者である士業団体との討議内容も織り込んだ意見によって、規制の問題を説明してほしいと感じます。

興味深い主張もある

新経済連盟を批判する口調になってしまいましたが、その主張には興味深い点もありますので、紹介しておきます。

それは、「デジタル技術等を活用した本人の資格確認による規制にシフトする」という主張です。

これが具体的にどのようなものかはわかりませんが、事務所の所在地によって縛られた制限をなくして、個人単位による資格確認への変更を求めるというものが想像されます。

税理士会にとっては、業界の構造を根本的に変更する必要があるため、到底受け入れる話ではないでしょうが、議論としては興味深いものがあるでしょう。

というのは、ネット上で出会った相手の本人確認を、どのように実施すべきかという点においては、問題が生じている点もあるからです。

税理士としては、「本人が税理士である」という証明は、結局のところラミネート加工されたカード型の「税理士証票」か、電子申告のために用いている日税連発行の「税理士用電子証明書」しか手段がありません。

そうなると、オンラインにおいて相手方に本人であることを容易に証明することは困難です。(筆者としてはやむを得ず、税理士証票を画面で提示して対応しています)

この点、テレワークや遠隔地による通信が当たり前になった場合、本人確認としての技術として「デジタル技術等を活用した本人の資格確認」という技術を供え持つことは、一考に値するようにも感じます。

まとめ

2020年6月の新経済連盟の資料から、税理士など士業における二箇所事務所禁止規定に関する問題を採りあげました。

この点については、なんらかの議論がもっと進むかと思っていたのですが、結局のところ何も話がないまま、夏が過ぎ、秋が過ぎ……という感じでしたので、当ブログでも念のために採りあげたしだいです。

制度の変革については、士業ではない人が主張するのも自由でしょう。しかし、そのためには、順序を踏まえた議論と成熟した議論があるとよいと感じます。