電子納税はなぜ普及が進まないのか【1】規制改革推進会議WGの資料より

法人の確定申告については電子申告が進んでいるのに、電子納税はなぜさほど普及しないのか……?

筆者も長らく気にしていた問題ですが、規制改革推進会議にてこの点が話し合われたようですので、紹介します。

説明のポイント

  • 中小企業への税理士の関与率は高く、多くの税理士が電子申告で法人税申告を行っている
  • ところが、電子納税については普及が進んでいない。納税は会社任せになっている事情があるためか?
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規制改革推進会議WG資料

2021年3月2日に開かれた規制改革推進会議「第7回 デジタルガバメント ワーキング・グループ」において、税務の電子申告や電子納税に関する話し合いが開催されたとのことです。

内閣府のホームページにて、その内容を読むことができます。

ここで採りあげられているテーマで興味深いのは、中小企業における電子納税はなぜ普及しないのか? という点が検討されていることです。

税理士の関与率89.3%、中小法人の電子申告率87.1%

まず、財務省の回答した資料から状況を確認します。

中小企業における税理士の関与率は非常に高く、令和元年度の法人税申告における税理士関与率は「89.3%」とされています。

この割合は、税理士が社会的に高く信頼されている結果といってよいでしょう。

また、中小法人の法人税電子申告率は「87.1%」とされています。

この点について、「税理士による代理送信が大半を占める中小法人の電子申告率は既に高い
水準となっている」と、資料で述べられています。

つまり、中小企業の多くに税理士は関与しており、その代理申告においても電子申告をしっかり利用していると整理できるでしょう。

国税の窓口納付率は、77.3%

ところが、電子申告ではなく、その先の納税になるとどうでしょうか。電子納税の割合は、いまだに低い割合が示されています。

少し違う資料ですが、2019年8月の資料を見ると、国税におけるキャッシュレス納税(電子納税と振替納税の合計)は、22.7%の割合となっています。

これ以外の77.3%は、すべて窓口での納付です。(2018年の資料であり、個人と法人の区別はされていないことに留意)

引用:政府税制調査会 第4回納税環境整備に関する専門家会合(2019年8月)

これらの窓口納付のうち、その多くが源泉所得税の納付であると分析されています。

逆にいえば、源泉所得税の納付が電子納税に移行すれば、窓口納付はその多くが姿を消すはずです。

財務省では、2025年に「キャッシュレス納付」の割合を4割にすることを目標にしています。しかし、その「キャッシュレス納付」は、中小企業ではなかなか導入が進んでいません。

freeeの資料

このワーキンググループには、クラウド会計ソフトを提供するfreeeも参加しており、同社が当日提出した資料を見ることができます。

freeeは、会計事務所を対象にアンケート調査を行った結果、会計事務所では代理で電子申告をしているのに、その後の納税まで代理していることは少ない、という分析結果を挙げています。

これは数値上すでに予想されていたことですが、会計事務所への調査でその点が改めてハッキリした点で重要でしょう。

引用freee「電子申告・電子納付の推進に向けて」(2021年3月7日、規制改革推進会議第7回デジタルガバメント ワーキング・グループ)

そして、「申告は税理士が代理することが殆ど、かつ殆ど電子化されているが、納付は顧問先企業が自ら行うことが多い(この構造が電子納付の課題である可能性) 」という推論を立てています。

つまり、申告は電子申告で送信しているが、関与先には紙の納付書を渡している(もしくは紙の納付書を経理担当が作成している)ということです。

ここ最近まで、税理士会の要望において「納付書を国税庁ホームページでダウンロードできるようにしてほしい」というものが毎年のように見られました(これは東京の場合なので、ほかの税理士会でどうかは不明)。納付書の様式をダウンロードしたい……ということは、すなわち紙の納付書を作成しているということです。会計事務所の業務では紙ベースの納付書作成がいまだに行われていることを示しているといってよいでしょう。

電子納税が普及しないのは会計事務所のせい?

freeeの分析はさらに続きます。電子納税が普及しない理由として、次の要因をあげています。

  • 会計事務所自身が電子納税を利用していない
  • 地方税共通納税システムがあまり利用されていない
  • インターネットバンキングの利用率が低い

とくに重要なのは、「会計事務所自身が電子納税をあまり行っていない」という問題を調べたことでしょう。

上記の調査は、クラウド会計を利用する事務所で、なおかつ、手間のかかるアンケート調査に協力的な会計事務所を対象としたものです。

この点を踏まえれば、全国的な会計事務所における実態では、この調査よりももっと電子納税は行われていないと見てよさそうです。

会計事務所でさえ自分の納税を窓口で納付をしているのに、その顧問先に電子納税を広めていくことなど、期待するほうが難しいでしょう。

こうした結果を見れば、「電子納税が広まらないのは、会計事務所にも原因がある」ということになります。

しかし、こうした結果になっているのには、それなりの要因があるとも感じます。その説明を始めると長くなるため、次の更新で説明したいと考えています。

まとめ

2021年3月2日に開かれた規制改革推進会議「第7回 デジタルガバメント ワーキング・グループ」において、税務の電子申告や電子納税に関する話し合いがあったとのことで、その資料を紹介しました。

かいつまんでいえば、「税理士の代理申告で、電子申告の利用率は高い」「しかし、納税は会社任せになっており、電子納税の割合は極めて低く窓口で納付している」という結果が見て取れます。

そうなると、「電子納税が広まらないのは、納付を指導しない会計事務所にも問題がある」という指摘が出そうです。

しかし、こうした状況に至るにはそれなりの事情があるとも感じています。

次回の記事では、「会計事務所が電子納税を指導しづらい事情」を、筆者の経験をもとにケーススタディとしてお伝えします。

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