ソフトメーカー6社の提言した年末調整デジタル化案に要注目

会計・税務ソフトを提供する6社が提言した「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」は、年末調整をどのように効率化させるかという点で、たいへん興味深い提案です。

一読をお勧めする意味で、このブログでも紹介しておきます。

説明のポイント

  • 会計・税務ソフトを提供する6社による研究会が「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」を発表し、平井デジタル改革担当大臣へ提言書を提出した。
  • 旧来の年末調整制度は、紙ベースの処理が前提となっている。デジタル処理に即した新しい制度への変更を提言している。
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年末調整にまつわる議論を振り返る

年末調整は、本来国が行うべき税務を会社に代行させているという点や、従業員の個人情報を会社が収集しなければならない点などで、古くから批判されてきました。

それが近年の税制改正でしくみがいっそう複雑化し、その制度の是非について議論される結果をもたらしました。

ちなみに「年末調整があるのは日本だけ」という批判がたまに見られますが、これは誤解です。2017年の政府税制調査会の海外調査によると、ドイツ、韓国、イギリスにおいても年末調整が存在すると報告されています。

この2017年の政府税調の検討を受けて、年末調整の効率化を進める方向性が固まり、2020年から「年末調整手続きの電子化」として、マイナポータルとの情報連携が可能になり、公式の年調ソフトも提供されています。

また、多くの有識者が参加している日本税理士会連合会の税制審議会においても、令和元年度「源泉徴収制度のあり方について」では、年末調整廃止論に否定的な意見がまとめられています。

これらを見るに、過去にくすぶっていた年末調整廃止論と記入済み申告書への制度移行は否定され、年末調整制度の維持が再確認されたものといえるでしょう。

年末調整制度をどうデジタル化するか?

年末調整制度のデジタル化については、2020年から国税庁の「年調ソフト」が提供されていますが、評判はかんばしくありません。

マイナポータルからの連携が可能とされていますが、そもそものマイナポータルもあまり利用されておらず、機能不全になっています。

こうしたなかで新たな意見として、ソフトメーカー6社による研究会から「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」が発表されました。

これを一読すると、実務に切り込んだ内容で、かなり興味深い提言となっています。

詳しい内容はお読みいただければわかるのですが、これを乱暴に一行でまとめていえば、「年末調整は国税庁で用意したシステムで行うものとし、事業者は給与の支払ごとに各従業員の納税情報を税務当局に送信する」ということです。

そのステップとして、年末調整の業務は1月に移行し、手続きもデジタルが前提とされています。

出典社会的システム・デジタル化研究会「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」(2021年6月3日)

デジタル化時代にふさわしい制度へ

提言の冒頭では「現時点でデジタル化を前提として年末調整業務をゼロから考えるとすると、これまでとは同様な仕組みとはならないのではないか」と書かれていますが、まさにそのとおりでしょう。

提言に関わっている弥生の岡本社長のブログを読むと、年末調整は昭和前半の仕組みを引きずっていると述べており、この提言についての意気込みが熱く伝わってきます。

新しい制度においては、事業者にとっては、給与支払ごとにデータを送信する手間は生じますが、その代わりに年末調整の計算は税務当局で行ってくれます。

年末調整書類の配布も、回収も、検算も、事業者では一切不要ということになるでしょう。事業者は、税額の過不足を精算し、源泉徴収票を交付すればよいことになります。

ただし、当然に不安もあるでしょう。

この制度改革についていける事業者がどれだけいるのかというと、やはり不安を覚えるところです。例えば、電子納税の利用率を見てもわかるとおり、とくに小規模事業者の現場におけるデジタル利用の浸透率といえば、まだまだ怪しい印象もあります。

とはいえ、このまま座して指をくわえているのもどうでしょうか。制度改革としては魅力的な提案ですので、実現するとなれば、まずはできる事業者から対応をうながしていくということになるのでしょう。

まとめ

会計・税務ソフトを提供する6社が提言した「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」について、紹介しました。

あまりひろく知られていないのか、税務関連のニュースでもまだ採りあげられていなかったので、当ブログでご紹介したしだいです。いい提言なので、ぜひ読まれることをおすすめします。

なお、この提言は、ソフトメーカー6社の研究会からとされていますが、オブザーバーには日税連、東京税理士会、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の方々も参加しており、今後どのような影響を与えるのかも注目されます。

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