「付加価値税は、輸出企業を応援するために考えられた」は本当か

消費税に批判的な書籍で、ある税理士が、輸出企業に補助金を支給することは国際間の競争上難しいので、輸出企業を応援するために考えられたメカニズムとして付加価値税が作られた、と述べていました。

この説は本当なのか、ブログ筆者が調べたことの結果を残しておきます。

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書籍の引用

参照書籍は、ある経済学者と税理士の対談形式で、「消費税が日本の低成長の要因だから、減税すれば日本の景気はよくなる」というスタンスのものです。

この書籍では、「輸出戻し税」によって日本の大企業はいい思いをしており、中小企業や消費者のような弱者は搾取されている、と主張しています。

そして、日本の消費税の源流である付加価値税も、輸出企業を応援するために作られたメカニズムである、弱者から吸い上げた税金を大企業に還流させる仕組みとしてフランスで導入された、と言及しています。

今回は、この「日本の消費税の源流である付加価値税が、輸出企業を応援するために考えられたメカニズムである」という話が気になったので、書籍で調べてみました。

ジョルジュ・エグレ『付加価値税』(1985)

ジョルジュ・エグレ著、荒木和夫訳『付加価値税』(1985、白水社)によると、輸出企業に対する補助金的な問題が言及されているのは付加価値税ではなく、1950年代において付加価値税よりも以前に採用されていたカスケード税制によることが書かれています(※取引高税であり、現在のような仕入税額控除のような仕組みはない)。

そして、輸出は非課税としているために、調整税として税金が還付がされるときに、その調整税に恣意的な設定がされたことで、「往々にして、輸出に対する助成金または輸入関税に相当する税の側面をもっていた」(P.33)と書かれています。

また、付加価値税における国境調整の制度は、アメリカ実業界を中心として「輸出に対する助成」という批判があったとされています(P.127)。

水野忠恒『消費税の制度と理論』(1989)

水野忠恒『消費税の制度と理論』(1989、弘文堂)によると、1920年代の取引高税でフランスが輸出を免税としたことについて、アメリカやカナダがこれをダンピングであるとして報復関税が課されたと書かれています(P.178)。

付加価値税よりも以前の制度における問題点なのでは?

これらを調べたところのブログ筆者の印象では、輸出免税と調整税による還付制度における批判は、付加価値税よりも前の取引高税で生じていた問題なのでは? という印象をもちました。

フランスを初めとして付加価値税が普及していった段階においては、アメリカを中心として批判的な意見があることが書かれていましたが、付加価値税が「輸出企業を応援するために作られた」「弱者から大企業に還流させる仕組み」という、そこまでストレートな話は書かれていませんでした。

これらを読む限りでは、「輸出企業に補助金を支給することは国際間の競争上難しいので、輸出企業を応援するために考えられたメカニズムとして付加価値税が作られた」という説は、どうも怪しい印象を持ちました。少なくとも、主流の意見ではないと思われます。

同書が主張する「付加価値税=輸出企業を応援するメカニズム」は、制度に批判的なスタンスの資料ではこのように述べているものがあるのかもしれませんが、この点はよくわかりません。

補足として(ブログ筆者の意見)

弱者から吸い上げた税金を大企業に還流させているのが本当であれば、フランスではデモが起こってもおかしくないように思われますが、このあたりはどうなのでしょうか。

消費税を批判する論者は、海外の事例をつまみ食いしながらも、問題分析は日本だけに留まっており、諸外国で実際にどのような問題が起こっているのかはほとんど言及しません。

もしフランスで、付加価値税が事実上の輸出補助制度として作られたのであれば、その後どのような問題が生じたのかも言及してほしいです。

なお、ブログ筆者が上記の、ジョルジュ・エグレ『付加価値税』(1985)、水野忠恒『消費税の制度と理論』(1989)を参照したのは、金子宏『租税法』第24版において参照書籍として書かれたことによります。

これらの書籍を読むと、戦前から戦後にかけて、付加価値税が形作られるまでは、かなりの試行錯誤がされていることがわかります。

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