「日本は消費税で衰退した」のが本当ならば、なぜドイツのほうが税率が高いのか

消費税に批判的な意見として「日本は消費税によって衰退した」というものがあります。これは本当なのか、国際比較のデータから考えてみたいと思います。

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「日本が衰退」したということは、「他国と比べて」ということ?

「日本が衰退した」という意見を持つ人は、どのような観点で「衰退した」と述べているのかわからない部分がありますが、この記事では「他国と比較して、日本が衰退した」という観点で考えてみます。

今年(2024年)2月のニュースで、日本の名目GDPが世界4位に後退した、という報道がありました(NHK、2024年2月15日)。

GDPが繁栄を表す指標であるかは異論もあるでしょうが、とりあえず「日本は経済がうまくいってない」という「衰退」の結果として、ドイツよりも日本のGDPが低くなった、という前提で考えてみます。

そして、消費税に批判的な人の意見では、こうした日本の「衰退」の主因が「消費税」ということだそうです。

では、GDPが日本よりも上回ったドイツの「消費税(付加価値税)」はどのようになっているのか、日本と比較して考えてみます。

日本とドイツを比べてみると……

ドイツの付加価値税と、日本の消費税を比べてみると、ドイツのほうが歴史は長いです。(クリックで画像を拡大できます)

引用諸外国における付加価値税率(標準税率)の推移の比較(財務省)

見づらいので、ドイツと日本だけをピックアップしてみました。

これを見ればわかるとおり、ドイツのほうが付加価値税率は高いです。導入した1968年の税率が10%で、2024年では19%です。日本は1989年に3%で導入して、2024年では10%です(すべて標準税率)。

もし「消費税は国家を衰退させる税制」であれば、ドイツは付加価値税を導入した1968年から「衰退」していないとおかしいことになります。それにもかかわらず、なぜドイツのほうが税率がずっと高いのに、日本よりもドイツのGDPが上回ることになるのでしょうか。

それとも、日本だけが経済的に「特異な状況」に陥っており、その状況下で消費税を導入したから「衰退」したということであれば、それはその「特異な状況」そのものが「衰退」の原因であるようにも思われます。

余談ですが、「世界では消費税率は引き下げられている」とか「景気が悪いときに税率を引き下げるのは当然だ」と述べる意見もあるようです。

しかし、このグラフを見る限り、世界の主要国において付加価値税の標準税率を引き下げる傾向はほとんど見られません。ドイツではコロナ対策のために税率が一時的に引き下げられたことを指して、「不景気なら減税は当然」と主張をしている可能性もありますが、現在の税率は元に戻っています。一時的な減税と、恒久的な減税は別であることに留意が必要と思われます。

負担の国際比較で見ると……

付加価値税率はドイツのほう高くても、税の負担は日本よりも軽いのでは? という可能性もあるでしょうから、国民負担における国際比較も見ておきます。

引用諸外国における国⺠負担率(対国⺠所得⽐)の内訳の⽐較(財務省)

これを見るとわかるとおり、ドイツのほうが、対国民所得との比較における国民負担率は高いです。

また、日本とドイツを比較しても、税の負担の比率で大きく異なるところはなさそうです。そして、どの国にも所得税、法人税、資産税、消費税がまんべんなく存在しています。

消費税に批判的な人のなかには、「消費税を廃止せよ」などと過激な主張をする人がいますが、こうした主張が意味することは、国際比較でみれば「日本だけは異なる税制にせよ!」という主張と同じことです。その理由はなぜなのか。国際比較の点で、税制についてきちんと述べているのを見たことはほとんどありません。

なお、OECDの消費税に関する説明では、「付加価値税は、各国の主要な歳入源として重要な役割を果たしています」「1960年代後半に少数の国で初めて導入されて以来、付加価値税は世界中に急速に広がり、ほぼすべての国の税制を変革し、174か国で主要な歳入源となっています」と書かれています。

「消費税を廃止」するというのは、「世界の税制の動向とは異なる動きをせよ」という主張と理解するしかありませんが、この点はどうなのでしょうか。

また、比率で見ると、日本の法人課税の割合が高いことにも気づきます。消費税に批判的な人の主張としてよく見かけるのは「法人税は引き下げられて、その財源になったのは消費税だ、犠牲になったのは庶民だ。法人だけがトクをしている」というものがあります。

しかし、この負担割合で見ると、「犠牲」になっているのは法人のようにも見えます。

まとめ

日本とドイツの比較から、消費税に関する「日本の衰退」は本当なのかを考えてみました。

これらを見た限りでは、日本もドイツもさほどの違いはなく、消費税率(付加価値税率)についてはむしろドイツのほうが高いものでした。それにも関わらず、日本だけが本当に「衰退」したということであれば、その原因は消費税だけの話なのでしょうか。

国際比較の観点でみれば、ドイツと日本の税制についてさほどの違和感はないので、もっと丁寧な説明が必要だと思われます。

「国際比較なんかどうでもいい。衰退は日本の現状を見れば明らかだ」という意見もあるでしょうが、国家間の競争の結果として「衰退」を語るのであれば、「国家どうしの比較はやはり必要」というのが私の意見です。

誤解のないようにお願いしたいのですが、この記事は論破を目的としていません。消費税に批判的なスタンスの人に、消費税や付加価値税について国際比較の観点からどう考えているのかを聞いてみたいと思い、この記事を書いています。

もし消費税に批判的な人が今後意見を述べられる場合は、私の疑問が氷解するような国際比較の観点も付け加えていただけますようお願いします。

また、当ブログの過去記事についても、税制について考える資料になればと思い、改めてリンクを貼っておきます。

選挙で見かける「消費税減税」「消費税廃止」の声。とくに気になるのは、「消費税は法人税を下げるための財...
前回の記事に続き、消費税と財政に関する論点について、自分で調べてみる記事です。今回は、ある政党が主張...
当ブログでは、6/30と7/14の投稿記事で、消費税の減税論・廃止論への違和感を提示してきました。 ...

上記の記事は、書いてから2年が経ちますが、最近の衆議院選挙の前にもそこそこのアクセスをいただいたようです。

選挙と税制は密接にリンクしていますので、これを考えることは重要だと思います。この記事で言いたかったのは、税制を論じる場合の観点の一つとして、国際比較を付け加えていただくようにお願いしたい、というものです。

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