なぜ減税論が広まるのか 不公平感・異質な社会保障という論考

当ブログでは、6/307/14の投稿記事で、消費税の減税論・廃止論への違和感を提示してきました。

こうして考えてみると、「なぜ消費税の減税論が広がるのか?」という点も気になるところです。

最近読んだ記事で、その理由が説明されている論考があり、なるほどと思ったので、ブログの読者におすすめする意味で紹介しておきます。

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論考「減税論に潜む日本財政の根本問題」

この記事で採りあげるのは、埼玉大学大学院の高端正幸准教授が書かれた論考「減税論に潜む日本財政の根本問題」で、公益財団法人日本税務研究センターの機関誌である「税研」222号に掲載されています。

上記リンク先のうち、「電子書籍ダウンロード」のボタンを押すと、PDFで特集記事を読むことができます。

ブログ筆者の理解度では、その意図がきちんと伝わらない可能性がありますが、論考のポイントをあえて書いてみます。

日本では、諸外国に比較して低所得層向けへの現金給付割合が充分ではなく、その一方で現金給付に占める年金給付の割合が極めて高いとされています。また、失業、住宅などの現役世代向けの給付は少ないとされています。

また、外国の論文を引用しつつ、日本の社会保障は普遍主義ではないのに、貧困削減度も低いために、「高齢世代偏重型残余主義」に区分されており、セーフティーネットの薄さがコロナ禍のような所得補償等のニーズに対応できていない問題があることを指摘しています。

そして、租税負担が可処分所得を減らすものとみなす実感が強く、嫌税感が強いために逆進性のある消費税に対して批判が向かっていると分析し、不公平感の払拭と「高齢世代偏重型残余主義」からの脱却が必要、と述べられています。

ブログ筆者の感想

論考を紹介しただけでブログ記事が終わってしまうので、余計かもしれませんが、ブログ筆者の感想も付け加えておきます。

個人的に衝撃だったのは、国際比較で見ると日本の社会保障は異質で、「高齢世代偏重型残余主義」と区分されているのに、他の先進国はおおむね「選別主義」か「普遍主義」に区分されているということです。

下の図表にあるとおり、普遍主義でもなく、選別主義(低所得層向けの給付集中)でもなく、貧困削減の度合いも国際比較で低いとされています。これは日本だけです。

出典:Olivier JacquesAlain Noël (2020) “Targeting within universalism”

(日本語訳の図表は、高端正幸准教授の論考にも掲載されていますが、引用してよいかわからなかったので、元の図表に日本語訳を追加しました)

あまりにも気になるので、引用元の論文も見てみたところ、日本の社会保障は「独特(distinctive)」と書かれていました。

この「高齢世代偏重型残余主義」とはどういうことなのだろう……と気になったので、厚生労働白書(令和2年度版)を見ていたところ、政策分野別社会支出の国際比較という資料がありました。

出典:厚生労働白書(令和2年度版)

国際比較でみると、日本は若手世代への支出割合がとぼしいことがわかります。(高齢化率がとびぬけて高いのに、GDP比では他国と同程度の割合というのも気になるところですが)

若手世代への支援の少なさの割合でいえば、アメリカと同じ程度ですが、高齢向けの割合は日本の方が多いです。

これらを考えると、若手世代に社会保障の実感はほとんどないので、「税金=可処分所得が奪い取られるもの」という実感が強くなってしまうように思われます。

このため、手っ取り早く自分の助けになる支援といえば「とにかく減税しろ」になってしまうのでしょう。

また、貧困削減としての現金給付割合が低いことも気になるポイントです。思い返すに、特別定額給付金では、当初は低所得層向けの給付が検討されたものの、制度が複雑すぎるという批判があり、結局国民全員に給付金を配ることになりました。

この点をひとつとっても考えさせられるように、若手世代への支援や貧困削減の仕組みはあまり整っていないというか、関心がとぼしい分野とされてきたようにも思われます。

まとめ

ブログ筆者は、なぜ野党は口を開けば「減税」を叫ぶのか、ということが常に気になっていました。

こうした根本的な問題を考えるうえで、高端正幸准教授の論考は重要な指摘であると思われますので、ここで紹介しました。

「消費税収は社会保障に使う」と決められていても、その社会保障が国際比較を通じてみると微妙な点がうかがえ、あまりよいサイクルになっておらず、結局のところ減税論が叫ばれる結果になってしまう……ということで、なるほどと思いました。

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