「消費税は一部しか社会保障に使われていない」は本当か?

前回の記事に続き、消費税と財政に関する論点について、自分で調べてみる記事です。今回は、ある政党が主張する「消費税収は社会保障の一部にしか使われていません」という説について考えてみます。

説明のポイント

  • 「消費税収は社会保障の一部にしか使われていません」は、「社会保障の充実」以外の用途への批判
  • 集約すれば、均衡財政と積極財政のスタンスの違いによるものと理解されるが、誤解を招く可能性があるため、丁寧な説明が求められる
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「消費税は一部しか社会保障に使われていない」とは

まず、ある政党の主張である「消費税収は社会保障の一部にしか使われていません」は、どういう意味なのかを検証します。

財務省ホームページで掲載されている資料を見ると、消費税の国税にかかる分は「社会保障4経費へ」充てられていると説明されています。

出典:財務省「消費税の使途」

前回の記事でも説明したとおり、消費税は社会保障の目的税とされており、第1条にその旨が定められています。

この資料をみると、消費税は社会保障に使われているようですし、社会保障の財源としては、消費税だけでは不足していることも明らかです。

ところが、ある政党の代表者が過去に主張したプレゼン資料を見たところ、消費税の増税分の使途について「社会保障に充てている費用はその一部にすぎない!(怒)」と主張していました。

もし、その主張のとおり「消費税のうち社会保障に充てている費用はその一部でしかない」ということであれば、消費税法に違反している可能性もあります。

これはいったい、どういうことなのでしょうか。

過去の流れを検証する

少し長くなりますが、消費税率の引上げ時の資料を見てみます。

まず、消費税率引上げ時による財源の使途については、「基礎年金国庫負担割合2分の1」「社会保障の充実」「消費税率引上げに伴う社会保障4経費の増」「後代への負担のつけ回しの軽減」の4つの内訳で説明されていました。

出典:厚生労働省「平成27年度社会保障の充実・安定化について」

このうち、10%引上げ時における満年度の当初使途は、「社会保障の充実」2.8兆円、「後代への負担のつけ回しの軽減」7.3兆円と説明されていました。

その後、「後代への負担のつけ回しの軽減」の財源だった分の一部を社会保障の充実に回す変更が行われ、2017年の衆議院選挙でも「国民の信を問う」として、争点の一つとされました。(参考:時事通信「【図解・政治】消費税「増税分」の使途(2019年9月)」

令和4年度の現在、消費税の増税分がどう扱われているかは、内閣官房ホームページ「社会保障と税の一体改革」に掲載されている、「消費税増収分の使途について」という資料で説明されています。

当初の予定よりも、社会保障の充実の金額が大きいことわかります。

増収分の用途に対する批判

令和4年度の増収分に充てられている内訳を見ると、「社会保障の充実」は4兆円であるのに対して、「基礎年金国庫負担割合2分の1」が3.5兆円、「後代への負担のつけ回しの軽減」は5.8兆円となっています。

これらを見ると、「社会保障の充実」は増税分の一部でしかありません。そして、ある政党の主張とは、この部分を批判しています。すなわち、増収分は14兆円あるのに、社会保障の充実に4兆円しか使われていないのは間違っている、ということです。

この点を考えるには、「社会保障の充実」以外の主要な用途である、「基礎年金国庫負担割合2分の1」と「後代への負担のつけ回しの軽減」を調べてみる必要がありそうです。

基礎年金国庫負担割合2分の1

まず、「基礎年金国庫負担割合2分の1」についてです。

こちらですが、厚生労働省の資料を読むと「将来の年金支払いに支障が生じないようにする」と説明されています。

出典:厚生労働省

これを読むと、将来的に年金給付の水準が下がる恐れがあるために、国庫負担を増やしていることがわかります。

なお、税金と社会保険料との関係については検討範囲が広がりすぎてしまうので、ここでは採りあげません。

後代への負担のつけ回しの軽減

次に「後代への負担のつけ回しの軽減」です。こちらの意味ですが、土居丈朗教授の執筆された記事を読むと、

後代への負担のつけ回しの軽減とは、目下の社会保障経費を赤字公債等で賄っているところを、消費税の増収分で賄えるようにすることである。赤字公債の発行が抑制できる分、今の社会保障給付から恩恵を受けられない将来世代が負う借金返済の負担を軽くできることになる。

と説明されています。

あくまでブログ筆者の理解になりますが、過去に社会保障を先行して充実(もしくは、利用者が増えた分に対して制度を維持)させたけれど、その財源が当座はなかったので、とりあえず国債発行で対応した。その後、ようやく消費増税で安定財源が確保できたので、先行した社会保障の財源にあてて国債発行を抑制した……という理解になるでしょうか。

後の世代を考えるか、いまの保障が優先か

ある政党が主張する「消費税は一部しか社会保障に使われていない」という説を見てみると、

  • 「基礎年金国庫負担割合2分の1」
  • 「後代への負担のつけ回しの軽減」

が論点となるようです。すなわち、なぜ増税による税収の全額が「社会保障の充実」じゃないのか、という批判と理解できるでしょう。

さきほど見たとおり、「基礎年金国庫負担割合2分の1」については、これから年金を受け取る世代への事前対応のようです。

長らく制度を維持するための、将来的な安定への対応として必要だから、いまのうちから財源として確保したものと理解できるでしょう。

また、「後代への負担のつけ回しの軽減」についても、もともと過去に社会保障が先行して必要だったものをあとで安定財源を手当てした、ということのようです。

社会保障を国債発行で先食いしたところ、あとでようやく財源を確保したのに「その財源はすべて別の社会保障の充実に使え」といわれたら、当初の社会保障の財源は変わらず国債発行で対応をし続けるしかありません。

これらの「基礎年金国庫負担割合2分の1」「後代への負担のつけ回しの軽減」を考えてみると、将来的な安定のために現在の財源を投入していると理解してよさそうです。

なお、参考として日本における人口ピラミッドの推移予測を見ておきます。

少し古い図で2013年が「実績」となっていますが、1990年、2025年、2060年が比較されていて見やすいです。

出典:厚生労働省「我が国社会保障制度の構成と概況」

「増税しても社会保障は充実されていないぞ! おかしい!」という批判も見受けられますが、そもそもの人口構成がこの図のとおりで、社会保障がとくに必要となる老年層は、1990年代とは比較にならないほど増えています。

社会保障の必要な人数が増えても同じ社会保障が維持できるとしたら、必要な財源は爆発的に拡大するしかありません。

同じものを見て、別々の感想を述べ合っているだけ?

話を戻します。

この記事で調べているのは、「消費税は一部しか社会保障に使われていない」説は本当なのか、という話です。

ここまでの話を整理すると、増税による財源を今使うか、あとの世代と公平性を保つように確保しておくかの違いのように思われます。つまり、同じものを見て、別々の感想を述べ合っているだけ、という気もします。

そのような意味では、「将来の安定」としての均衡財政を目指す主張と、「財源を今すぐ使え」という積極財政を目指す主張との、スタンスの違いのようにも思われます。

以下、ブログ筆者の感想を整理して述べておきます。

誤解を招きかねない主張

「消費税は一部しか社会保障に使われていない」という主張が本当であれば、これは消費税法第1条に違反していることになるため、ハッキリと法律違反を指摘すべきともいえます。

しかし、そのような明言は避けながらの批判であり、批判のしかたとしては誤解を誘いかねない印象をブログ筆者は抱きました。

念のための補足ですが、仮に「消費税は一部しか社会保障に使われていない」という主張が正しいとしても、それは「消費税が無駄づかいされている」という意味ではありません。

先ほど見たとおり、ある政党が主張する「消費税は一部しか社会保障に使われていない」という主張は、「基礎年金国庫負担割合2分の1」「後代への負担のつけ回しの軽減」に使われていることへの批判であって、無駄づかいへの批判ではありません。

ところが、そのような説明は詳しくされておらず、「消費税は一部しか社会保障に使われていない」ということだけを力説しています。

これは、よくある「税金無駄づかい批判」への誤解を意図的に誘う主張のように思われます。もしそうではないとするならば、きちんと「基礎年金国庫負担割合2分の1」「後代への負担のつけ回しの軽減」についての反対意見を丁寧に述べないと、誤解が生じるでしょう。

シミュレーションはあるのか?

ある政党の主張には、「消費税を廃止してもあなたの年金は減りません」という説明も見られます。

この「あなた」が誰を指しているのかはよくわかりませんが、本当に消費税を廃止したとして、年金制度をどのように維持できるのでしょうか。その「あなた」に、現在の20歳は含まれているのでしょうか。

このような極端な主張を試みるのであれば、財政的な裏付けのある丁寧な説明が必要でしょうし、その結果によるシミュレーションも提示する必要があるでしょう。

現役世代の方が不利な主張では……?

少し気になるのは、ある政党の主張が若い世代にも比較的浸透しているように見えることです。

今回調べたところを整理するならば、「消費税は一部しか社会保障に使われていない」ということは、裏を返せば「世代間の公平性をできるだけ保つ制度設計のために使われている」ということのようです。

これに比べて、ある政党の主張は「消費税を廃止して、福祉は充実させよう」というものです。

前回の記事でも指摘しましたが、消費税が社会保障の目的税である以上、財源が削られたのに社会保障が充実することは、よほどのことがない限り実現性の乏しい主張と考えられます。

さらに気になるのは、世代間の公平性です。消費税は、現役を終えた世代からも「消費」を通じて税を負担してもらうことができます。これに比べて、所得課税では、現役を終えた世代から税を負担してもらうことは困難です。

「消費税廃止!」といえば聞こえはいいですが、もしそれが現実となれば、世代間の公平性のために使われていた財源を失うことになります。さらに、老年世代から税を負担してもらう機会も少なくなります。

これらの話を整理すると、「消費税廃止」論は現役世代に不利で、老年世代に有利な主張のように思われるのですが、この点についての説明はほとんど見られません。

現役世代には「消費税廃止」がお得な話に見えるかもしれませんが、現役世代がいずれ老年世代になったときに、どのような社会保障が受けられるのか。この点もあわせて語ってほしいところです。

まとめ

ある政党が主張する「消費税収は社会保障の一部にしか使われていません」という説について、自分の頭で調べて考えてみる記事でした。

これらを整理すると、お互いの主張する「社会保障」をどう捉えるかによって、その見方は異なるといえそうです。「将来の安定」を目指す財政均衡と、「財源を今すぐ使え」という積極財政のスタンスの違いが現れていると把握すれば、わかりやすいように思いました。

ただし、「消費税収は社会保障の一部にしか使われていません」という主張は、財源をどう使うかを巡っての批判だとしても、誤解を招きやすい印象を持ちました。

将来的に安定した社会保障をどう維持するのかについて、詳しいシミュレーションを提示しなければ、不安は解消されないように思います。

それでも本当に消費税は廃止したほうがいいのか。なぜ消費課税はダメで、所得課税に戻せと主張するのか。そして、世代間の公平性をどう考えているのか。これらについて丁寧な説明が必要でしょう。