法人税や消費税の申告書の提出期限は、延長申請することが認められています。いつもは原則どおり2ヶ月以内で申告しているが、今後なにがあるかわからないから、「念のための備え」として延長申請しておくことはできるのか。気になったので調べてみました。
法人税、消費税の延長申請に関する改正の経緯
法人税の延長申請が税制改正で、ほぼ現行のとおりになったのは、平成29年度改正です。この改正で、定款等の定めを理由として、提出期限を1月延長することができるようになりました。(当時の税制改正の解説はこちら)
また、令和2年度改正により、消費税についても申告期限の延長申請が可能になりました。(当時の税制改正の解説はこちら)
普段は2ヶ月以内に総会を開いているが、「念のため」の申請はアリか
決算を担当する責任者として気になるのは、もし決算確定の直前でなにかあって、申告期限に間に合わなかったらどうしよう……ということでしょう。一度は誰でも考えたことがあるかと思います。
では、申告書の提出期限に間に合わない「万が一」に備えて、あらかじめ延長申請をしておくことは「アリ」なのでしょうか。
平成29年度改正当時では、「別に法人税だけ延長しても意味ない」ということで考慮外でしたが、令和2年度改正で消費税も含まれたことで、一考に値するようになったものと思われます。
条文と通達
法人税法の条文を読んでみます。
第75条の2 確定申告書の提出期限の延長の特例
第74条第1項(確定申告)の規定による申告書を提出すべき内国法人が、定款、寄附行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下この条において「定款等」という。)の定めにより、又は当該内国法人に特別の事情があることにより、当該事業年度以後の各事業年度終了の日の翌日から2月以内に当該各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあると認められる場合には、納税地の所轄税務署長は、当該内国法人の申請に基づき、当該事業年度以後の各事業年度(残余財産の確定の日の属する事業年度を除く。以下この項及び次項において同じ。)の当該申告書の提出期限を1月間(次の各号に掲げる場合に該当する場合には、当該各号に定める期間)延長することができる。
これだけを読むと、定款で、例えば「定時株主総会は毎事業年度末日の翌日から3ヶ月以内に招集する」と書いてあれば、延長申請の要件を満たせるように読めます。
あわせて通達も読んでみます。
(定款の定めにより1月間の提出期限の延長を受けることができる法人)
17-1-4の2 法第75 条の2第1項《確定申告書の提出期限の延長の特例》の規定により法第74条第1項《確定申告》の規定による申告書の提出期限について1月間の延長を受けることができる法人には、例えば、次のような定款の定めをしている法人(その事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日までの間に定時株主総会が招集される法人を除く。)がこれに該当する。(平29年課法2-17「二十四」により追加、令4年課法2-14「六十二」により改正)(1) 定時株主総会の招集時期を事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日以後とする旨の定め
(2) 定時株主総会の招集時期を事業年度終了の日の翌日から3月以内とする旨の定め
これを一読した限りでは、(2)にあるとおり、定款に「定時株主総会は毎事業年度末日の翌日から3ヶ月以内に招集する」と書いてあれば、要件を満たせるようにも思えます。
しかし、微妙に引っかかる部分もあります。それは、かっこ書きに「(その事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日までの間に定時株主総会が招集される法人を除く。)」という部分があることです。
(1)や(2)では「2月超」のことを述べているのに、なんでここでわざわざ「2月以内を除く」とあたりまえのことを書いてあるのか。微妙にひっかかりを覚えます。
この意味ですが、逐条解説(『十一訂版 法人税基本通達逐条解説』)によると、
・・・定款にこのような定めがあったとしても、実際には、事業年度終了の日の翌日から2月を経過するまでの間に定時株主総会を招集している法人は、2月以内に定時株主総会が招集されない常況にあるとは認められないため提出期限の延長は認められないこととなろう。本通達の括弧書きでは、このことが念のため明らかにされている。
と説明されています。前述のかっこ書きは、このように理解されるようです。
この点を考えると、いつもは2ヶ月以内に株主総会を開いているが、「念のため」に延長申請をしておくというのは、通達では否定的のようです。
実務では……?
株式会社に限らず、ここ数年で新規設立される合同会社の定款を見ていると、決算の確定を決算日から「3ヶ月以内」としているものがほとんどです。
いまいち釈然としない部分もありますが、この部分を見れば、要件としては延長申請が可能にも思えます。
なお、マイナポータルの「法人設立ワンストップサービス」を見ると、延長申請が可能になっています。設立と同時に出しても、はねつけるような姿勢ではないのでしょう。
税務署の対応では、定款等に定めがあれば延長申請をそのまま受理しているようです。
改正後の制度自体がまだ新しいこともあるでしょうが、実際の話として延長申請をした場合でも、これをあとで取消し(法人税法75条の2⑤)したという話は耳にしたことはありません。
もし取消しされても、その効力が及ぶのは取消し以後の年度なので、とくにダメージがないことも影響しているかもしれません。
その後になんらかの理由で取消しになったという話があっても、表に出てくることは少ないと思われます。
まとめ
法人税申告書の提出期限の延長申請について、「念のため」はアリなのか、という点を考えてみました。
筆者の考えとしては、通達の逐条解説を読んで「念のため」の延長申請は制度の趣旨とは異なると理解したので、申請はしていません。