名刺の肩書きだけ「専務」「副社長」と名乗らせるのはやめましょう

名刺を差し出す人

名刺の肩書きで「専務」や「副社長」と名乗っていても、実際の地位と異なる場合を見かけます。しかし、これはなるべくやめることをおすすめします。

説明のポイント

  • 「自称専務」の問題を、会社法、法人税法、雇用保険の観点から説明
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名刺に「専務」?

名刺に「専務」や「副社長」と書いてあっても、実際は単なる従業員……という場合もあるようです。

これは一般的に「自称専務」と呼ばれる問題です。本当は専務じゃないのに、名刺の肩書だけ専務と名乗っているので、「自称専務」ということです。

こうした問題は、小規模な会社ほど、よくあるようです。

例えば、取引相手に重要人物であることを印象づけたいという理由で、あえて「専務」という地位を名乗らせることが多いようです。

しかし、「自称専務」は、好ましいものではありません。

1.会社法の問題

まず、会社法の観点から考えます。

会社のしくみとして、役員(取締役など)と、従業員は明確に区分されています。これは、会社法という法律で決められています。

役員は、株主総会で選任され、会社に対する各種の責任も生じます。一方の従業員は、会社に雇われているのであって、会社に対する重い責任はありません。

つまり、役員ではない従業員が、まるで役員のように振る舞うのは、組織管理として問題があるわけです。どんなに小さい企業であっても、会社はひとつの組織です。

2.法人税法の問題

会社の税金を決める法律「法人税法」にも、要注意です。

この法律は、役員に支払う給与に厳しく目を光らせています。どのくらい厳しいかというと、このようなイメージです。

「役員へ支払う給与は原則経費になりません! ……ただし、ある条件を満たせば経費にできます」

法律のつくりがこの厳しさです。一見すると、「え?経費にならないの?」と思ってしまうでしょう。

これに比べて、従業員に支給する給与は、こんなに厳しくありません。基本的に従業員に支払った給与は、経費になります。

ちなみに、「経費」ということばをここでは使っていますが、法人税法では「損金(そんきん)」と呼んでいます。

なぜ法人税法は役員に厳しい?

法人税法が役員に厳しいのには、理由があります。

それは、役員に対する給与をうまく利用して、節税をさせないように厳しく条件を定めているためです。その点については、以前の記事で触れました。

会社経営で悩むことも多いのが役員報酬でしょう。「今期は見通しがわからないので、あとで賞与を出...

このように、役員に対する給与は、法人税法において厳しい制限が設けられています。

つまり、従業員に「専務」を名乗らせると、税務調査でややこしいことになるのは目に見えています。

説明して「自称専務」とわかってもらっても、調査官に「この会社は組織管理がいい加減だ」という印象を与えることでしょう。

使用人兼務役員ならどうか?

会社には、役員でありながら、なおかつ従業員の役割を兼務している人がいます。これを「使用人兼務役員」といいます。

この使用人兼務役員が、もし名刺で「専務」を名乗っていた場合はどうでしょうか。

この「専務」という役職は、会社において管理・監督に専念する立場とされています。このため、管理される側の従業員と兼務することはできません。

法人税法の通達には、専務の地位が株主総会などで決議されたものが、本来の専務であるという取り扱いがあります。(法人税基本通達9-2-4

つまり、「自称専務」の場合であっても、本来の専務には該当しないということです。とはいえ、誤解を招くことはやめたほうがいいでしょう。

3.雇用保険とのかねあい

会社法の説明でも述べましたが、役員と従業員は立場が違います。

役員は株主総会で選ばれた立場であり、会社に雇用されていません。このため、労災保険と雇用保険には入れません。

この点を考えても、従業員に「専務」を名乗らせるのは、やめたほうがいいことになります。

なお、従業員を兼務する役員(使用人兼務役員)の場合は、条件付きで保険に加入できます。

参考:労働者の取扱い(例示)(厚生労働省)

まとめ

単なる従業員に「副社長」や「専務」を名乗らせているのは、とくに起業したばかりの企業でよくある話です。

また、歴史の長い会社では、従業員をあえて使用人兼務役員としたのち、肩書きだけ「常務」などと名乗らせているケースを見かけます。

勤続年数の長い従業員に対して報いる気持ちがあるようですが、「常務」は使用人を兼務できません。

これらの内容を把握する場合は、登記や株主総会の議事録を確認します。肩書きと組織上の地位は、きちんと一致させるようにしましょう。

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