前回の記事に引き続き、固定資産に関わる会計と税務の「微妙な部分」を考えてみます。今回は、「業績が悪いなら減価償却を止めていいのか」を考えます。
税務上だけを見ることの危うさ
前回の記事でも書きましたが、税務上のルールばかりを見ていると、会計のルールを忘れがちになる、という危うさがあるように筆者は感じています。
前回は固定資産の耐用年数について述べましたが、この点は「業績が悪い場合は減価償却を止めるという選択肢もある」というテクニック(?)にも共通する部分があります。
インターネットで検索すると、「減価償却を止める」ことについては一定の記事が見受けられます。
会計のルールはどうなっているのか
税務上は減価償却を止めると償却不足が生じることになりますが、それによって税務上のペナルティが課されるようなことは通常ないものと思われます。このような話は、赤字が出ている状態で考慮されるのでしょうから、ペナルティになりうる納税は生じていないでしょう。
このために、赤字になっている決算書の見栄えをすこしでもよくしたいとか、すでに繰越欠損金が多額になっているので、「減価償却を止める」という話が出てくるのでは……と思われます。
しかし、会計のルールとしては考えられない話と思われます。
企業会計原則では、継続性の原則があります。また、減価償却によって固定資産の取得価額を各事業年度に配分をしなければならないとされています。
有形固定資産の減価償却の方法は、定率法、定額法その他の方法に従い、耐用年数にわたり毎期継続して適用し、みだりに変更してはならない。
とあります。
また、中小企業の会計に関する基本要領では、
建物や機械装置等の有形固定資産は、通常、使用に応じてその価値が下落するため、一定の方法によりその使用可能期間(耐用年数)にわたって減価償却費を計上する必要があります。具体的には、(3)にあるように、定率法、定額法等の方法に従い、相当の減価償却を行うことになります。
(中略)
「相当の減価償却」とは、一般的に、耐用年数にわたって、毎期、規則的に減価償却を行うことが考えられます。
とあります。
いずれも、「継続」「規則的」に減価償却を行うことが求められています。業績が悪い場合は減価償却を止めていい、とは読み取れません。
「金融機関からの融資が問題になる」論の微妙さ
償却を止めることのデメリットとして「金融機関からの融資が問題になる」などと語られていることがあります。
細かい点ですが、金融機関からの融資で問題になるから決算書をキチンとするのではなくて、そもそもルールを逸脱した決算書を作ることそのものに問題があるのでは、という気がします。
ルールを論じることなく、「こんなことしたらこうなる」とデメリットを書くのは、実際には奇妙な印象を覚えます。
期限切れ欠損金を気にする場合はどうか
悩ましい論点があるとすれば、「繰越欠損金の期限切れが起きる見込みで、これ以上の欠損を出したくないために、減価償却を止めたい」という話でしょう。このために、減価償却を止めたいという意向もあるかもしれません。
筆者は会計のルールを通常どおりに行うべきものと考えます。税務上の有利不利よりも、適切な会計処理が優先されるべきでしょう。(そうでなければ、会計のルールとは何なのか、という話になる)
まとめ
会計と税務のルールの間にある「危うさ」を採りあげる記事でした。今回は、税金の「テクニック」として、減価償却を止める処理が語られることがありますので、この点を考えてみました。
固定資産の減価償却を止めることについて、会計のルールを改めて確認してみましたが、かなり怪しい印象です。会計のルールから正しさを説明できるのかという点では、疑問を覚えるものといえそうです。