平成30年度税制改正により、個人事業主の青色申告特別控除が変更されることになりました。この点について、FAQ形式で説明します。
説明のポイント
- 個人事業主向けに、税制改正による青色申告特別控除の改正を説明
- 電子申告をするにはどうしたらいいのか
税制改正を理解するためのFAQ
Q1.青色申告特別控除が減るって本当ですか?
青色申告特別控除が減るのは、本当です。この改正は、平成32年分(2020年)から実施されます。
平成30年度の税制改正により、平成32年分からの青色申告特別控除を現在の65万円から、55万円に引き下げることになりました。
これだけ見ると、「損するじゃないか!」とプンスカ怒りそうな話ですが、話にはまだ続きがあります。
それは、基礎控除を現行の38万円から、48万円に引き上げることも同時に決まった、ということです。減ったものがあり、増えたものがある……どういうことなのでしょう?
図表で理解しましょう。
ある個人事業主のケースとして、売上865万円、経費が200万円だったとします。いまのところは、青色控除65万円を加味して、事業所得は600万円(=865-200-65)になります。
それが、税制改正で事業所得は610円に増えます。これは、青色控除が10万円減って55万円になるからです。
たしかに青色控除は10万円減りますが、基礎控除が10万円増えるので、改正前も改正後も、課税される所得は同じ(つまり、税金の負担も同じ)になります。
Q2.改正後も税金の負担が同じなら、気にすることはないのですか?
税金が変わらない、ということで一安心ですね。では、この改正は気にしなくていいのかというと、そうでもありません。
なぜなら、電子申告をしているひとと、電子申告をしていないひとで、青色申告特別控除の金額に差がつくことになったためです。
これも、今回の税制改正で決められた新しい制度です。具体的には、次のようになります。
- 電子申告をしている ……青色申告特別控除 65万円
- 電子申告をしていない ……青色申告特別控除 55万円
電子申告をしていれば、青色申告特別控除が10万円上乗せされて「65万円」になります。
つまり、基礎控除が10万円増えて、青色申告特別控除も65万円になるので、トータルとしては税制改正で得をする話(つまり、減税)になります。
Q3.電子申告をすると、青色申告特別控除が増える……どれぐらい得するのですか?
青色申告特別控除が10万円が増えるということは、これに税率をかけた金額が、減税になります。
仮に所得税の税率が20%の場合、住民税10%と合わせて、税負担は30%です。
10万円×30%=3万円お得 ……ということになります。
Q4.やっぱり、電子申告はしたほうがいいのですか?
電子申告によるインセンティブが発表されてから、がぜん、電子申告への関心が高まったようです。
それはそのとおりの話で、国税庁が電子申告をしてほしいから、Q2・Q3で紹介したような、差をつけたインセンティブの制度ができたわけです。
紙の申告書を提出しているひとは、平成32年(2020年)までに電子申告ができる準備を整えましょう。
平成32年分の確定申告は、平成33年(2021年)3月15日申告期限です。
Q5.電子申告を始めるにはどうすればいいのですか?
電子申告を始めるのは難しくありません。次のものを用意してください。入手方法は次のQ6~Q7で説明します。
- マイナンバーカード
- ICカードリーダー(または、マイナンバーカードの読み取りに対応したAndroidスマートフォン)
Q6.マイナンバーカードはどうやって入手できますか?
マイナンバーカードは、お住まいの市区町村の役所で入手できます。無料で発行してもらえます。
マイナンバーカードを取得していない場合は、手もとに、下の画像(左側)の「通知カード」があるはずです。
そして、入手するのは右側のマイナンバーカード(別名:個人番号カード)です。
入手方法は、政府が運営する「マイナンバーカード総合サイト」がわかりやすいです。交付申請のページを読みましょう。
申請するには、通知カードに付属している「個人番号カード交付申請書」がセットで必要です。よくわからない場合や、紛失した場合は、市区町村に再発行をお願いしましょう。
Q7.ICカードリーダーは何を買えばいいですか?
マイナンバーカードには、ICチップが埋め込まれています。そのICを読み取るためのカードリーダーが必要です。
ソニー製を買っておけばよいでしょう。3,000円程度です。
ただし、2016年末からマイナンバーカードの読み取りに対応したAndroidスマートフォンも販売され始めています。
このスマートフォンを利用すれば、ICカードリーダーは不要です。どのスマートフォンが対応しているかは、「公的個人認証サービスポータルサイト」のFAQを参照してください。
Q8.両方そろいました! どうすればいいですか?
Q5で紹介したマイナンバーカードとICカードリーダー(または対応スマートフォン)が両方そろったとしましょう。
あとは、国税庁のe-Taxホームページで、「確定申告書等作成コーナー」を利用すればよいでしょう。
「確定申告書等作成コーナー」は無料で利用できる、申告書作成ソフトです。
パソコンを使って、確定申告書をらくに作成できます。これを一度使うと、紙に手書きするのが嫌になるほどに便利です。
なお、執筆時現在の2018年では、e-Taxを利用する前に「利用者識別番号」の取得が必要です。これは、e-Taxの利用IDのようなものです。(確定申告書等作成コーナーでe-Taxを選択すると、取得の案内が表示されます)
これが2019年1月からは、マイナンバーカードがあれば「利用者識別番号」は取得作業不要で、マイナンバーカードだけでログインできるようになるとされています。
これから電子申告に挑戦するひとは、2019年1月を待ってもよいでしょう。
Q9.マイナンバーカードがなくても電子申告できるって聞いたんですが
「確定申告でマイナンバーカードは不要になる、というニュースを聞いた」という声が、一部にあるようです。
これは「50%正解」の話で、あとの50%は、一部に誤解が混じっています。
たしかに、2019年1月からは、マイナンバーカードやカードリーダーを用意しなくてもIDとパスワードだけで電子申告できる制度が実施されます。(ID・パスワード方式)
ただし、この方法はあくまで暫定的な措置です。マイナンバーカードが普及した場合は、この制度が終了する可能性もあるとされています。(参考:国税庁の発表)
つまり、マイナンバーカードが不要になって電子申告ができるようになったというのは、あくまで一時的な対応なのです。
話をまとめると、Q6とQ7で紹介した、マイナンバーカードを使う方法が正式です。やはり、マイナンバーカードとICカードリーダーは買っておいたほうがいいでしょう。
マイナンバーカードがあれば、電子申告だけじゃなく、行政手続きに必要なマイナポータルも使えるようになります。
「マイナンバーカードは死んでも取得するつもりはないぞ」という鋼鉄の意思をもつ方は、税務署に行って「ID・パスワード方式」を申請することで、そのIDを使って電子申告をすることが可能です。
ただし、税務署に行って申請する手間を考えれば、マイナンバーカードを取得してしまったほうがいいのでは……と考えられます。
マイナンバーカードを利用するには、カードリーダーの購入費用の負担があります。このあたりは個人の金銭感覚なので、もはやなんともいえませんが……。
「ID・パスワード方式」の利用は、国税庁から出ているチラシを参照して下さい。
引用:【PDF】(個人の方へ)平成31年1月からe-Taxの利用手続がより便利になります(国税庁)
Q10.スマホで決算書の提出による電子申告はできますか?
この記事の執筆時点(2018年)では、スマホで電子申告(e-Tax)で決算書の提出はできません。
下の画像のように、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」は、スマホで利用できますし、2019年からもスマホでの確定申告の利便性が図れる予定です。
ただし、これはあくまで確定申告書の話であり、個人事業主が作成する決算書は含まれていません。
もともと入力する箇所の多い個人事業主は、スマートフォンよりもパソコンを使ったほうが早いとも考えられます。
Q.11 青色の10万控除ですが、関係ありますか?
10万円の青色申告特別控除の場合、今回の改正では変化はなく、電子申告の有無は控除額に影響しません。
まとめ
これから電子申告を始める個人事業主やフリーランスのために、なるべく初心者目線のFAQを作成しました。
電子申告は、紙の印刷が不要で、郵送もしなくていいので、とても楽です。おまけに、10万円の上乗せインセンティブまで実施されるようになりますので、やらない手はありません。
改正後の対応が実施されるのは、2020年分の確定申告からで、その申告期限は2021年3月です。
東京オリンピックが終わったあとの話をされても、2018年3月現在では、まだイメージがわかないかもしれませんね。