青色申告特別控除が55万円に減額されるものの、ある条件を満たせば、65万円を維持できます。この点から考える電子帳簿保存法の話もご紹介します。
説明のポイント
- 青色申告特別控除を改正後も65万円でキープする方法は2通り
- 電子申告をするか、または電子帳簿保存法による帳簿の電子保存でもOK
- 電子帳簿保存法の適用の有無で、税負担に差が出るという興味深い制度
電子申告で65万円を維持!
税制改正により、平成32年分(2020年)からの確定申告について、青色申告特別控除の金額が55万円に減額されます。
しかし、電子申告をすれば、現行と同じ65万円のままになり、さらに基礎控除はすべてのひとが10万円増えます。よって、実質減税になることを前回の投稿でお伝えしました。
電子申告しなくても65万円をキープ?
しかし、税制改正の条文を読むと、電子申告だけが「絶対的な要件」とはされていません。
実は、電子申告以外の方法でも、青色申告特別控除を55万円ではなく、65万円にする方法があるのです。
それは、「電子帳簿保存法の要件を満たして、帳簿を電子のままで保存する」ことです。
電子のまま保存するためには、要件を満たす必要があります。
まず、税務署への申請が必要です。さらに、その申請の承認を受けるためには、要件を満たす会計ソフトを利用する必要があります。
たとえば、インストール型会計ソフトの「弥生会計」であれば、要件を満たす機能があります(下画像)。しかし、クラウド会計ソフトのfreeeやMFクラウド会計は、まだこの機能を備えていません。
申請方法については、以前に説明した記事を書いています。
話を整理すれば、青色申告特別控除を平成32年以降も65万円にするためには、
- 帳簿を電子保存する
- 電子申告する
の2通りの手段があります。
どちらが簡単であるかを比較すれば、「電子申告」をしたほうが早いことは一目瞭然です。
また、帳簿を電子保存するには、税務署に申請が必要です。そんな意識の高い事業者が、所得税の申告についていまだに電子申告していないことは、考えづらいでしょう。
電子申告して、帳簿も電子保存したら?
電子申告して10万上乗せで、減額後の55万円から65万円控除になるわけです。
では、さらに帳簿も電子保存したら、さらに控除額が10万円上乗せされて、「75万円」になりませんかね? ……という期待もありますが、それはダメなようです。
改正案の条文(措置法25の2)を参照したところでは、帳簿の電子保存か電子申告を「いずれか」している場合に65万円とする、と書いてあります。
つまり、二重取りはできないということです。
電帳法の適用の有無で、税負担に差が出る規定
今回の改正は、電子帳簿保存法の適用の有無で、控除額に差がつく制度が設けられたという点で注目すべきといえるでしょう。
青色申告特別控除を65万円にする方法で見れば、電子申告で要件をクリアできるので、やや見落としがちな話ですが、電子帳簿保存法の視点から見ると興味深い動向といえます。
なんでこんな規定が盛り込まれたのか?
また、政府としては、とにかく電子申告を推進する立場です。大企業の法人税等の申告について、電子申告が義務化される改正も実施される予定です。
この点を考えると、不思議な印象もあります。
それは、単に個人事業主に電子申告をうながすなら、「帳簿の電子保存」を盛り込む必要はなかったはずだからです。いったいなぜ、このような規定が盛り込まれたのでしょうか?
その理由は、知るよしもありませんが、大変に興味深いところです。
「帳簿は修正もふくめて記録を残すべき」であることについて、ある税理士たちの大規模団体が強く主張していることは、よく知られています。
その拠り所として、ドイツの商法における記帳義務が厳格で、履歴を残すべき点を引用しています。
もし、帳簿を電子保存すれば、修正履歴もすべて帳簿に残す必要がありますので、こうした意見にそった制度といえそうです。
まとめ
青色申告特別控除を65万円でキープする方法は2通りあり、そのうちのひとつである「電子帳簿保存法による帳簿の電子保存」について紹介しました。
単に電子申告をすれば、青色申告特別控除は65万円になるので、実務的に注目されない部分です。
しかし、電子帳簿保存法という視点で見ると、興味深いものになっています。適用の有無で税負担に差が出る税制は、これが初めてではないでしょうか?