家内労働者等の特例 「特定の者」の意味とその根拠について

「家内労働者等の必要経費の特例」において判断の迷いやすい、「特定の者」の意味について、「相手先が複数でもよい」とされている理由を探しておきます。

説明のポイント

  • 「家内労働者等の必要経費の特例」は、65万円の経費が計上できる特例
  • 「特定の者」は複数の者であってもOK。ただし、不特定の取引先を募っている仕事は不可
  • 国税局の資料しか見当たらない?
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家内労働者等の必要経費の特例とは

「家内労働者等の必要経費の特例」は、仕事の経費を積み上げても65万円に満たない場合に、この特例を使った方が有利になる可能性がある制度です。(※令和2年分以降は55万円)

通常、年配層のシルバー人材センターの収入で適用することが多いですが、内職などミニビジネスの場合でも適用できる可能性があります。

ネットで、多数の税理士がすでに詳しい解説しているため、ここで解説を繰り返すことは避けます。

国税庁のタックスアンサー「No.1810 家内労働者等の必要経費の特例」でも、それなりに詳しい解説を読むことができますが、ネットにおける税理士の解説のほうがわかりやすいでしょう。

「特定の者」は何を指すか

「家内労働者等の必要経費の特例」が悩ましいのは、この制度が使える要件である「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者」(措置法施行令18の2)の意味でしょう。

ネットの検索で引っかかるページを見ても、「特定の者」の解釈をめぐってはかなりの混乱があるようです。(例:チャットレディ、ウーバーイーツ、メール便配達、ポスティングなど)

国税局の資料を読むと

この「特定の者」の考え方ですが、例えば、東京国税局が作成している「誤りやすい事例集」(平成30年12月)を参照すると、次の点が書かれています。

  • 「自宅で生徒数人を教えているピアノ講師が適用している」→適用は誤り
  • 「特定の者」は複数の者であっても差し支えないが、人的役務の提供先を広く募るなど、その業務の性質上、不特定の者を対象としている場合には、該当しない

また、平成14年「東京国税局・税務相談室」の誤りやすい事例集でも、次の点が示されています。

【誤った認識】
特定の者とは、取引先相手が1ヵ所の場合である
【正しい答え】
数ヵ所の取引先があっても特定している場合は、特定の者に該当する

平成12年の東京国税局の「誤りやすい事例集」では、

○ 自宅で生徒数人を教えているピアノ講師が家内労働者の特例を適用して
いる。
⇒ 特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者
に当たらない。
(注) ヤマハやカワイの講師は該当する。

というように、企業名が具体的に挙げられているのが印象的です。

ネットではどのような記事が読めるか

ネット上の記事も、基本的に上記の国税局の資料を参考に、独自の見解を加えて解説したものがほとんどと思われます。

話を整理すると、「特定の者」は複数でも問題ないが、「人的役務の提供先を広く募る」というビジネス上の行動が、適用可否の境目といえそうです。

筆者がネットを調べたところでは、「税務署に聞いてみたら、担当者によって回答が違う」という書き込みも見られました。

取引先が複数だと適用できないと誤解されたり、「人的役務の提供先を広く募る」の状況判断について、考え方が異なる部分もあるためでしょう。

ちなみに、どうしてこのような解釈がなされるようになったのか、その経緯は税務のデータベースだけでは追えませんでした。筆者も機会があれば、さらに資料を探してみようと考えています。

まとめ

家内労働者等の必要経費の特例について、補助的な情報となる「特定の者」の意味と、判断の理由についてお伝えしました。

他の税理士の解説では、この「特定の者」について「複数の相手でも問題ない」というようにサラッと流されており、その根拠を述べているものは見当たりませんでした。

制度の全体像を述べているため、このような枝葉に踏み込むことは難しいためでしょう。

しかし、この制度で一番悩ましいのが「特定の者」の解釈ですので、資料を示しておくことは重要と考え、この記事を書きました。

結果としては、一般の納税者は閲覧することができない、国税局の内部資料である「誤りやすい事例集」ぐらいしか資料が見つからない……という状況のようです。

副業が話題となっている昨今の状況を考えるに、情報周知の整備をきちんとしたほうがよいようにも感じます。

追記:2023年11月28日、国税庁ホームページにて「ピアノ教室を営む場合の家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例」という質疑応答事例が追加されました。「特定の者」の考え方が示されています。

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