2023年10月からスタート予定の「インボイス制度」。この制度で目新しいのは、インボイスの範囲に「電子インボイス」が含まれていることです。
そこで、電子インボイスについて現状わかっていることを整理し、今後増えてくるであろう情報を理解しやすくする記事を書いておきます。
前回の記事は、電子インボイス推進協議会が策定・公開する日本標準仕様と、そのなかで導入される国際規格「Peppol(ペポル)」がどのようなものかを確認しました。
今回はその続きとして、Peppolがどのようなしくみでデータをやりとりしているのかを、引き続きシンガポール情報通信メディア開発庁の説明から見ていきます。
説明のポイント
- Peppolネットワークは、4コーナーモデルで運営されている
- 外国ではPeppolの導入により、業務負担の軽減や入金が早まったという声も
Peppolフレームワークとは(意訳)
(前回の記事からの続き)
請求書の情報データは、Peppolネットワークへのゲートウェイとして機能する「アクセスポイント」を仲介して交換されます。
「アクセスポイント」は、さまざまな形式の請求書を標準形式に変換し、Peppolネットワークを仲介して、受信側のアクセスポイントに送信する責任を負っています。
このPeppolネットワークは、「4コーナーモデル」の原理に基づいて機能します。このしくみを、下の図をもとに説明します。
請求書のやりとりにおいて、送信側(売り手)の目的は、受信側(買い手)の会計ソフトやERPシステムにその情報を正しく送信することです。
販売者(コーナー1)から送信される請求書は、その形式にかかわらず、アクセスポイント(コーナー2)で共通の標準形式に変換されます。
グローバルディレクトリは、ネットワーク内部において必要な識別情報を、受信側のアクセスポイント(コーナー3)に提供します。
コーナー3のアクセスポイントは、請求書を受け取ると、その請求書を購入者(コーナー4)の希望する形式に変換します。
このPeppolネットワークでは、自社の利用している会計ソフトやERPシステムをそのまま使用することができます。また、ネットワーク内部のすべてに、一度で接続できます。
(ここまで)
この説明でわかったこと
Peppolのネットワーク内部では、電子インボイスをやりとりするため、標準仕様の形式に変換したデータがやりとりされます。
そして、その方法は「4コーナーモデル」に基づくものとされています。
「4コーナーモデル」という用語は、正直にいって、あまり耳慣れないものです。上記の説明を読むと、4段階で情報データがやりとりされることを指す意味のようです。
電子インボイスのやりとりの形式では、いくつかのモデルが存在しており、Peppolネットワークは「4コーナーモデル」を採用しています。
引用:内閣官房IT総合戦略室「電子インボイスに係る取組状況について」(2020年)
ちなみに、「2コーナーモデル」は双方の相対で行われる形式で、「3コーナーモデル」は特定のプラットフォームを相互に利用する方法が該当するとのことです。
また、IMDAの説明文に出てきた「グローバルディレクトリ」ですが、これがアクセスポイント間のやりとりを仲介しています。
この点についてPeppolの公式サイトを読むと、Peppol SMLという住所録をもとにして、Peppol SMPがアクセスポイント間の情報を相互に仲介しあう参照機能を果たしているようです。
日本では、電子インボイス推進協議会がこの舵取りをすることになるのでしょう。
導入効果はどうか?
この電子インボイスの導入効果は、どのようなものでしょうか。
内閣官房IT総合戦略室「電子インボイスに係る取組状況について」(2020年)に掲載されている他国の実例を読むと、低廉なコストで導入でき、事務負担も軽減されたという声が見られるほか、代金の支払いも早まったという魅力的な声もあります。
このほか、非構造化データが送信できることも書かれており、日本でも同じように、既存のPDF形式も送信できるのかもしれません。
2020年12月時点の情報によれば、スケジュールとして2021年に仕様が発表され、2022年にシステム運用開始、インボイス制度が開始される2023年10月までに普及促進・定着化を目指すものとされています。
引用:内閣官房IT総合戦略室「電子インボイスに係る取組状況について」(2020年)
まとめ
ここまで、2023年10月以降のインボイス制度にかかわる「電子インボイス」について、予習をしてきました。
Peppolネットワークを利用した電子インボイスは、一種のEDIであり、請求業務に限定されていることから、異なる業界間のやりとりでも利用が見込まれそうです。
これからまもなく、電子インボイスに関わる多くの情報が出回るはずです。日本標準仕様の提供により、今後の経理にも大きなメリットが期待されます。
税務にたずさわる者としても、今後の動向を注意深く見守りたいところです。
ちなみにここで整理した内容は、当然ですが筆者の独自知識ではなく、以下の参考文献をもとにしています。
参考文献
- 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会「請求情報流通の運用手引き(第1版)」(2021年)
- 内閣官房IT総合戦略室「電子インボイスに係る取組状況について」(2020年)
- 中島真志『ペイメント・チェーンにおける銀行の役割について–e-invoicingを中心に』(2011年)