「電気通信利用役務の提供」は、消費税の税務でも微妙にやっかいな処理です。制度変更から5年以上が経過し、実務に定着してきた印象もありますが、それでも微妙な点があります。
この「微妙さ」について、今回は登録国外事業者の番号が見当たらずに困ったケースを紹介します。
説明のポイント
- 登録国外事業者から発行された請求書等に登録番号がない場合は、再請求が必要
- 登録番号がなかった場合の体験談
登録番号がない場合、どうする?
当ブログでもこれまで触れてきたように、国外からの「電気通信利用役務の提供」について仕入税額控除の適用を受けるためには、請求書に登録国外事業者の登録番号が必要です。
国税庁ホームページではその登録国外事業者のリストが公表されているわけですが、このリストに載っているのに、発行された請求書にはなぜか登録番号が見当たらないという、困ってしまうケースが想定されます。
こうした場面に遭遇した場合、仕入税額控除の対応はどうすればいいのでしょうか?
Q&Aではどう書かれているか?
国税庁の出しているQ&A(問34)を読むと、微妙にぼかした表現になっていることに気づきます。
国外事業者から受けた消費者向け電気通信利用役務の提供で仕入税額控除を行うことができるのは、登録国外事業者から提供を受けたもののみです。
また、このような課税仕入れについても法令に定められた事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が義務付けられています。
この記載事項に登録番号も含まれていますので、当該課税仕入れについて仕入税額控除を行うためには、登録番号を含めた法令に定められた事項が記載された請求書等の再交付の要求を行っていただいた上で、当該請求書等の保存をしておく必要があります。
これらを読むと、登録番号の欠けた請求書等については仕入税額控除が「できる」「できない」のどちらも書かれておらず、たんに「請求書等の再交付の要求を行って」ということが書かれているのみです。
この問34の質問では「登録番号の記載がない請求書により仕入税額控除は可能ですか」と書かれているのに、その回答はYesでもNoでもないことが書かれているわけです。
では、その再交付を要求すればいいわけですが、実際のところなかなか難しいケースもあると感じています。
ご参考として筆者の体験談を紹介します。
問い合わせは「門前払い」で八方ふさがり
筆者の体験談ですが、問い合わせをした相手は大手の外国企業のためか、門前払いという感じでまったく対応してもらえませんでした。
筆者はサポートに「御社の請求書にはなぜ日本の国税庁の登録番号がないのか?」「登録番号がないと仕入税額控除ができません」といったことを英語で説明しましたが、こうした説明もなかなか難しいです。
日本の国税庁ホームページには、国外向けの英語のトラブルシューティングは用意されていないようで、Q&Aに相当するドキュメントも日本語で用意されているのみです。
よって、なぜこちらが困っているかを説明しようとすると、自力でイチから説明する必要が生じます。
サポートも権限がないのか、それとも単に面倒なだけなのか……何度か問い合わせても、要領の得ない返答ばかりが返ってきます。
最後には「日本の税金のことなら日本支社に聞いてね」という、ツれない対応をされてしまいました。
しかたなく日本支社に問い合わせしようとすると、その日本支社のホームページにはまったく問い合わせ先が書かれていないという、もはや八方ふさがりの状況。
国税庁Q&Aでは、
登録国外事業者は、取引当事者からの求めに応じて請求書等を交付する義務、及び誤った請求書等を交付した場合には内容を修正した請求書等を交付する義務が課されています
と書かれていますが、制度としてはそのとおりとしても、現実としては難易度の高い状況もあるという印象を受けました。
その後どうなったのか……?
本件はその後どうなったのかというと、しばらくたった後で、その登録国外事業者が問題に気づいたのでしょう。
結果として、登録番号のある請求書が「再発行」という形で提供されました。
つまり、後付け的に正しい状態に修正されたわけですが、こちらとしても困惑するしかありません。
当初は登録番号がない請求書だったのですから、もし仕入税額控除から除外していた場合は、あとで還付請求をする手間が生じます。
一方、とくに気にせず仕入税額控除を適用していた場合は、番号のある請求書が再発行されたため、後付け的であっても仕入税額控除もおそらく認められるのでは……と思われます。
こうした経過を見ると、結果論に過ぎないとしても、「番号の有無を気にした方が馬鹿を見る」ような結果になったことは、気になるところです。
結果としては問題のある状態が是正されたわけですが、個人的には「あれだけ問い合わせしたのに……」と微妙な心持ちです。
コミュニケーションが難しい企業相手ですと、やむを得ないことなのかもしれません。
インボイス制度でも似たことが起こりうる?
今回は登録国外事業者の対応でしたが、2023年10月以後のインボイス制度でも、似たようなことは起こりうると考えます。
つまり、相手がインボイスの登録事業者なのに、もし番号のない請求書が送られてきたらどうなるのか? ということです。
この点については、インボイス制度Q&A(問73)にあるとおり、相手側に修正を求め、再交付を受ける必要があるとされています。つまり、上記の登録国外事業者のケースと同様といえます。
もしこうしたケースに遭遇しても、日本国内の事業者であれば修正の要求は簡単でしょう。しかし、相手がインボイス制度をよく理解しておらず、困ってしまうケースも起こりうることでしょう。
営業担当に問い合わせをしても面倒がられ、経理部門に取り次いでもらえない……という事態もありえるということです。
本件は、これから導入されるインボイス制度を考えるうえでの先行事例としても役立つと考え、ご紹介したしだいです。
まとめ
登録国外事業者の発行する請求書に「あるべき登録番号が、なぜかない」という”謎状態”が発生した場合はどうなるのか? という事例をお伝えしました。
会計事務所では、請求書まで念入りにチェックしていることは少ないはずです。よって、もし請求書に登録番号がないという”謎状態”が発生しても、そのままスルーされてしまいそうです。
会社の経理でも、ルーチンワークとしてそのまま「課税仕入れ」に区分することでしょう。
今回筆者は、請求書を全てチェックしていたため気づくことができたわけですが、こうした事例はレアケースだとしても、起こりうるということです。
トラブルに遭遇した経験のある税理士から国税庁への改善のお願いですが、登録国外事業者制度については、外国向けの英語情報とトラブルシューティングをもう少し充実させてほしいと感じました。
インボイス制度についても、導入初期では似たようなことが起こりうるのでは……と、今からビクビクしています。