電子取引のデータ保存 令和3年までの保存状況を再考する

昨今はさほどの関心もなくなったと思われる「電子取引」。熱が冷めたところで、気になっていたことに言及しておきます。令和3年度改正以前の電子取引について、その保存状況はさほど語られなかったという点が気になっていたので、これを再考します。

説明のポイント

  • 電子取引のデータ保存制度は、令和3年度改正以前も存在した
  • すべての電子データを印刷保存していたとは思えないはずなのに、改正前の要件に基づく電子データの保存状況について言及する声はほとんどなかった
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電子取引はもともと関心の薄い分野だった

もうほとんどの人が忘れていそうですが、電子取引に関する国税庁のFAQは、2020年6月改訂までは、わずかに4件だけでした。(参考2020年5月までの電帳法FAQ

インターネットで最も古く確認できる履歴を参照すると、2015年8月時点の電帳法FAQにおいて、電子取引に関するQAは2件のみでした。

電子帳簿保存法は1998年に創設されたもので、創設当時から電子取引のデータ保存制度も存在していたのに、17年間に用意されたQAはわずかに2件のみだったという点を考えても、電子取引に関する関心の薄さが見て取れます。

書面保存の廃止

この電子取引が一躍脚光を浴びたのは、ご存じのとおり、令和3年度改正において電子帳簿保存法旧10条ただし書きが削除されたためです。

旧法
(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第十条  所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。

「ただし書き」による書面保存制度が廃止されたことで、令和4年からは電子データそのものを保存する必要がありました。しかし、改ざん防止措置や検索要件をすぐに満たすことも難しいために、混乱が生じたことも記憶の通りです。

この改正が発表されたあと、徐々にその影響が理解されるにつれて拒否的な反応が多くなったことで宥恕措置が設けられました。

令和3年以前の保存状況は……?

令和3年度改正の発表後、この改正を厳しく批判する声があふれました。旧来の保存方法を突然変更するように言われたのですから、拒否反応があるのは当然でしょう。

ここで疑問を覚えるのは、令和3年度改正以前の保存状況です。国税庁FAQ(令和4~5年対応版)問12を読むと、

令和4年1月1日前に行った電子取引の取引情報については、改正後の保存要件により保存することは認められません。

・・・同日前に行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、改正後の保存要件により保存することは認められませんので、その電磁的記録について、改正前の保存要件(記録項目が限定される等の措置が講じられる前の検索機能の確保の要件等)を満たせないものについては、その電磁的記録を出力した書面等を保存していただく必要があります

それも当然だよなという話で、電子取引のデータ保存も、令和3年までの取引については令和3年度改正前の制度で保存します。

しかし、電子取引のデータ保存について考えてみると、すべてを紙に印刷して保存していたことも考えづらいです。

例えばEDI取引があるとすれば、その取引データは膨大です。これを印刷保存していたのかは怪しいです。

令和3年度改正への批判でブログ筆者が気になっていたのは、これまでに自分がどのような保存方法で対応してきたのかを説明している人はほとんどいなかったということです。

まるですべての電子データを印刷保存しており、それがダメだしされたかのような語り口だったわけですが、本当にそうでしょうか。

また、令和3年度改正後、電子取引のデータ保存制度を説明する書籍や動画も多数ありました。説明することはたしかに有用なのですが、令和3年中に行っている説明なのに、なぜか令和4年以降の要件だけを説明している…… という奇妙な状況が見られました。

もう熱が冷めた頃でしょうからブログに疑問として残しておきますが、素朴な疑問として、令和3年12月までの電子データの保存って、どうしていたのでしょうか。

令和3年度改正前のデータ保存要件は、改ざん防止措置+検索要件(組み合わせ・範囲指定も必須)が求められるので、かなり厳しいです。

令和3年度改正があまりに衝撃的だったので、改正前の保存うんぬんはもはや吹き飛んでしまったような印象もあります。

まとめ

電子取引のデータ保存について、令和3年度改正以前の保存状況について言及する声はまったくなかった、という点が気になっていたので、いまさらですがブログに書いておきました。

一人ぐらいはこのようなことに言及しておいてもいいかなと思いますし、熱が冷めた今なら、書いても迷惑にならないだろうという判断で、いまのタイミングで書きました。

自分の過去に書いたブログを見ても、令和3年度改正以前については、電子取引のデータ保存について検索要件を甘く考えており、いまわかる情報をもとに判断すれば間違った考え方をしていました。当時の電子取引のQAは3件しかない状況だったとしても、当時の誤りの指摘は甘受するしかありません。改ざん防止措置の事務処理規程は、以前から対応済みでした。

電帳法改正を批判的に見る声は多いのですが、もし批判するならば、改正前に自分がどのように取り組んでいたのかも示すのが筋と思われます。しかし、やはり言及しにくい事情があるのでしょう。

令和3年度改正では、検索要件が厳しすぎたのを緩和したのに、この点を評価する声がほとんどなかったのも残念です。

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